第95話 師匠の領地へ
馬車の中でのんびりしているのは神業農業師のラント。縮こまっている十六歳くらいの茶髪の男の子はラントの弟子のアグリ。いずれはラントのようになると本人が太鼓判を押して紹介してくれた。
アグリも土の精霊に好かれているようなのでいずれはなると思う。
「なんで連れてきたんだ?」
「え? ちょっと師匠の領地で試したいことがあって」
「俺の? 農業には適さない土地だぞ」
「そうなの? あと僕は海に非常に興味があるから絶対、海に連れて行って欲しい!」
魚、にがり、海藻、鰹節!
「お、おう……なぜそんなに海に行きたいんだ?」
「海は資源の宝庫でしょ? それとお魚!」
「……そうか、わかった。だが華々しい港とかじゃないから、あんまり期待するなよ」
師匠はぽんぽんと宥めるようにやさしく俺の頭を撫でた。
まずは王都の師匠の屋敷へ。
「お待ちしていました」
スピネルが出迎えてくれた。ギードとカリーヌは学院に行っていて留守だそうだ。
「変わりはないか?」
師匠がスピネルに声をかけた。
「お風呂場の建設はまだ始めたばかりですので、領から戻る頃に完成するのではないかと、建築工房の者が申しておりました」
「そ、そうか。よろしく頼む」
「お世話になります!」
「ルオ様、ようこそいらっしゃいました。そちらのお二人は……」
「農業師のラントとアグリ。領地についていってもらうんだ」
「ラント様、アグリ様、家令のスピネルでございます。ご滞在中は何かありましたらお申し付けください」
「よろしくお願いします」
「よろしくお願いします!」
「ではお部屋にご案内しましょう」
俺と師匠はスピネルが、ラントとアグリはメイドさんが先導して部屋に連れて行った。
「ルオ様は以前と同じ部屋ではなく、旦那様と同じ階に用意いたしました」
師匠の部屋が突き当りにあって、廊下を挟んで左が執務室、右が書庫、ウォークインクローゼットなどが並んで、反対の突き当りの角部屋が俺の部屋だった。師匠とは三階に上ってすぐに別れたよ。
「学院に通う準備も出来ておりますよ。こちらの部屋は勉強部屋です」
うん。学院生の本分は勉強だから仕方ないよね。
「ありがとう! すっごく広い!」
俺は荷物の入った小型のマジックバッグをベッドのサイドチェストに置いた。
「領地への出発は二日後と聞いております。それまでごゆっくりお過ごしください」
「ありがとう」
スピネルは出て行った。
ソファーがあるのでそこに座ると、力が抜ける。馬車の旅は疲れるね。
「これから三年間ここで暮らすんだなあ」
(精霊少ない)
ラヴァはのそりとソファーに降りて寝そべる。
長いしっぽがゆらゆらと動いている。
「疲れた?」
(大丈夫!)
「森とか緑が少ないからね。仕方ないのかも。庭にはいっぱいいたんでしょ? あとで庭に行ってみる?」
(行きたい!)
「わかったよ」
それから旅装から着替えて庭に出て、しばらくラヴァと遊んだ。
「ルオ様!」
「ルオ様だわ!」
遊んでいると、ギードとカリーヌがやってきた。二人は背も伸びて、大分大人っぽくなっていた。
「お久しぶりです」
「お久しぶりです」
「久しぶり。学院はどう?」
「順調です。私たちはBクラスですね。成績はBクラス上位です」
「はい。ルヴェール家に恥じないよう頑張りますわ」
ん? そこは自分の家じゃないの?
「もう日が暮れます。中に戻りましょう」
ギードに連行されて中に戻った。
やっぱり疲れていたのか、夕食の途中で眠くなってしまった。
うつらうつらしつつ何とか夕食を終えて部屋に直行した。
(主、大丈夫?)
「んーダメ、もう、寝る」
ラヴァの強制睡眠より早くこの日は寝てしまった。
疲れが取れてすっきりした次の日は師匠と工房へ。
ポーションを作って過ごした。ポーションを作るのも久しぶりだ。
「は~なんとなくほっとする」
「もう習慣になってるのかもな」
そうかも。ポーション作りは錬金術師の基本。ポーション瓶作りも基本。
俺のギルドカードの残高を増やしてくれる大事な仕事だ。
「明日出発なんでしょう?」
「ああ。疲れは取れたか? 王都から少し遠くて、一週間ほどかかるから、無理はしないようにしよう」
「大丈夫、昨日早く寝たらすっきりしたから!」
次の日、携帯食や水などを補給して出発した。外の景色は建物の多い街中から森の間を通る街道に変わった。
次の投稿は18時になります。




