第94話 師匠の領地に出発!
師匠は約束通り屋敷に風呂場を作るようにスピネルに手紙を出してくれた。魔法の手紙だ。手紙代は俺のポーション代から引かれた。
ま、まあ、仕方ない。
春になって雪解けが始まると温泉客が増えた。温泉宿というより今はスーパー銭湯っぽくなっているけど。
特に女性客。
肌が綺麗になるって評判だ。
湯上り姿に惚れた男性に口説かれる事例も勃発。
春だね。
「こほん、あールオ?」
「なあに? 父様?」
工房に行こうとしたら呼び止められた。
「相談があるんだが、その、ヴァンデラー卿も一緒に来てくれないかね?」
そうして俺と師匠は父の執務室へと拉致られた。
ローワンが俺と師匠に紅茶を出してくれた。
「それでお話とは?」
師匠が切り出す。
「屋敷に温泉を引きたいのだが、可能かね?」
え?
「僕、最初に屋敷に引きたいって言ったよね? あそこになったのはみんなの希望だったでしょ!」
若干、いや盛大にもやっとしながら声が尖る。
「その、な? 我が家の最大権力者が……家にも温泉があったらいいのにと……」
母かあ。そりゃあ、逆らえないね。
「まあ、領主一家が村人と一緒に温泉とは警備上感心しませんしね」
「そうだろう? 私としてはその、商売にするなら体感しておくべきだと思って入ったんだが」
「予想外によかったと?」
師匠が突っ込む。
「うむ」
うむじゃない~!!
師匠もちらっと俺を見るんじゃない~~!
「条件が二つあります」
俺は指を二本立てて父に向かって体を乗り出した。
師匠が何を言いだすのか戦々恐々な顔で見たが無視。
「一つは祝福の泉の中に祭壇を作って水の精霊を祀り、月に一度はお供えに蜂蜜と甘いお菓子を供えること。二つ目は使用人用も作ること、です!」
師匠がほっとした顔して胸をなでおろす。なんだかな。ちょっと傷ついた。
「うむ。それは精霊教会に頼んでさっそく作ってもらおう。蜂蜜は養蜂の部署に、お菓子は……エリックかその弟子だな」
「では、まずどこにお風呂場を作るか、そこから話し合いましょう」
師匠がビジネスモードでお話し合いを始めた。
(水の精霊は大喜びよ。定期的に蜂蜜なんて嬉しい! ルオ、いい仕事した! ってね)
俺はこそっと呟いた。
「喜んでもらえて何より。あ、ちょっと水の精霊さんにお願いがあるけど、温泉とは別件で」
(伝えるわよ。ええと、なになに? ふんふん。オッケーですって)
「よかった」
裏庭の一角に温泉の源泉を作り、そこに温泉施設を建て、屋敷と繋いだ。使用人用は、使用人棟を新たに建設(もともとのは俺の工房になったから)。そこにお風呂を作って引き込むことになった。
そして!
工房に俺専用(師匠も入るけど)のお風呂ができることになりました!
やった~~!
まあ、貴族学院に行く間は閉鎖になっちゃうけど。
「そういえば温泉施設って結界の中にあるけど、お客さん入ってこれるかな?」
「あ」
師匠、気付いてなかったのかな?
「害意のある者はお客じゃないから、いいんじゃないか?」
まあ、そうだよね!
そういうばたばたした中、イオの誕生日を迎えた。
イオは八歳になる。
言葉も居住まいもしっかりしてきて、俺より成長が著しい。体格どう見ても、俺の八歳の頃より一回り大きいし、筋肉質なんだよな。
イオにはトンボ玉を作った。緑色のトンボ玉だ。括り紐を付けて、お財布か、剣の鞘にでもつけたらと提案した。
「ありがとう、兄様! 大切にする!」
さっそくイオは自分の革の財布につけた。嬉しそう。よかった。
あ、ちゃんと父にもトンボ玉をプレゼントしてるよ! 温泉でバタバタしてたけどね。
そうこうしているうちに師匠の領地に向かう日が来た。
母の誕生日には間に合わないので、この日にプレゼント。
「温泉入った後に肌につけるといいよ。マジックバッグで保存しない場合はなるべく早く使い切ってね。髪がパサつく場合はヒマワリ油を少量、洗髪した後につけてから乾燥させると艶々になるよ」
母様の目が見開かれた。
「大丈夫です。薬師ギルドにちゃんと登録して、ダンジョン街の薬師ギルドで作ってくれる工房を押さえてあります」
すかさず師匠がフォローに入った。
「そう。それはよかったわ。出がけにこんなプレゼント、嬉しいのだけど、微妙な気持ちになるわ」
「え、どういうこと!?」
「ルオ、出発時間になるぞ」
「師匠、このプレゼント駄目だったの!?」
「よすぎたんじゃないか?」
「ええ? ますますわかんない!」
「では行ってまいります」
「ルオ、七月にはみんなで王都に向かうからな! すぐ会える」
父が頭をぐりぐりする。あ、献上関係か。なるほど。
「いってらっしゃい! 兄様!」
「い、行ってきます!」
荷物はマジックバッグと、椅子の下の収納庫に入れたので、荷馬車なしの馬車一台で身軽だ。師匠と神業農業師さん、そのお弟子さんと馬車に乗り、騎乗した騎士二人、御者に兵士二人を加えて出発した。
四月半ばのことだった。
次の投稿は明日になります。
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