第93話 温泉
首脳会談の結果、温泉は川の側に作ってもらうことになった。
俺がいつも石拾っていた河原の近くだ。
雪解けの時の増水時期は危ないのでそこも考慮しての選定。
「じゃあ、お願いします」
(わかった。ここに温泉作る)
水の精霊が地面を指さすと温泉が噴きあがった。
「あちち!」
「これ、温度九十度行ってる!」
(いい仕事した。対価)
みんなが逃げまどってる間。水の精霊は平常運転。
「ええと、蜂蜜と甘い焼き菓子を用意したんだ。これをどうぞ」
バスケットに入れた蜂蜜の瓶詰とエリック特製の焼き菓子詰め合わせだ。
(うむ。満足。またいつでも呼ぶといい)
マジで!? もしかして、水の精霊は甘いもの好き?
お湯の噴き出す勢いが収まり、祝福の泉くらいになった。もうもうと湯気が出ているのを見ると相当に熱そう。
「温度、熱湯だ。触ると火傷するから、一旦タンクかなんかに貯めて、浴槽に入れてそこからまた、分けると丁度良くなるんじゃないか?」
師匠が唸る。
「そこら辺は僕、わかんないなあ。浸かるなら四十~四十二度くらいが気持ちいいと思う。その時の季節にもよると思うけど」
俺と師匠はとりあえず、温泉が噴き出している周りを岩で固めた。
固め終わると、わらわらと人がやってきた。
「お~! お湯が湧いてるぞ! 湯気が立ってる!」
「ここを湯殿にするって?」
吹きあがったお湯柱を見てやってきた建設工房や鍛冶工房の皆さんが口を出す。村人もやってきて大騒ぎだ。
「設計はどうする?」
「宿もいるだろう?」
「休憩所も必要だし、男と女で分けないとならんだろ?」
「村まで引けないか?」
屋敷に引いてほしいよ!
噴き出している温泉には雪は積もらないので、露天風呂風になっているけど、入ったらやけどで酷い目にあうから気を付けてって立て看板建てないと危なそう。
その先はもう、大人にお任せ。希望はもう伝えてあるから、出来るのを待とう。
え、除雪しろ? 村までの道を?
……仕方ないか。除雪代はもらうよ! これは労働だから!
屋敷の周りは修行だけど、村までの道の除雪は俺の修行の範囲を超えているから!
なんと、冬の間に温泉施設だけは作るということになって、俺は毎日小遣い稼ぎをする羽目になった。
盾魔法と火魔法とヒートが上達した。
温泉が噴き出してから一か月。
雪がまだ積もっている時期に温泉ホテルが完成した。
いや、何事?
この世界、お湯に浸かる習慣なかったはずだけど?
俺が気付くと煉瓦造りの素敵なホテルが建っていた。
温泉は源泉をまず建物で覆って、パイプを通してお風呂の建物へ。その建物に繋がる通路を抜けるとホテルに。
一番上は貴賓室で貴族をもてなす部屋。それから階を下るごとに料金が下がっていく。
レストランはエリックのもとで修業した料理人を配置するとのこと。
ホテルの目玉は温泉と地酒。
前世の温泉宿じゃない!? 日帰りで温泉だけも入れるの? お安く?
日帰り温泉ツアーも組めるじゃん!?
俺、普通に屋敷にお風呂があればいいと思っただけなのに。
そして、現状。温泉に通わないと入れないし、お金払うんだけど、どうなってるの?
「文句たらたらなのに、嬉しそうに浸かってるなあ」
「え、口に出てた!?」
「出てた出てた」
師匠は長い髪をくくって入ってる。
俺も背中まである髪を結んで濡れないようにして入っている。
湯船は大小四つずつ、男女にある。露天はなくて覗けないようしっかり壁で囲っている。湿気対策は魔法でされているらしい。
「仄かに硫黄の匂いがするな」
「美肌になるよ」
「美肌……?」
師匠が温泉を鑑定した!
「あ、うん」
何を見てそう言う顔になるんだろう?
鑑定
水の精霊の祝福がこもった温泉。
泉質:硫酸塩泉(硫化水素型)
効能:神経痛・筋肉痛・うちみ・疲労回復・健康増進・病後回復期・冷え性・シミ予防
冷えとシミは女性の大敵。適度に入って若さを維持するべき。
うん。これ、俺の知識にリンクしてるような?
師匠がスンとするわけだ。多分、意味がわからないんだろうなあ。
最後の一文は水の精霊の意見っぽい気がするのは何故だろう。
にごり湯をゆっくり出るとそこには休憩所と脱衣所が広がっていてお風呂上がりのお客が飲み物を買って飲むスペースがある。
スーパー銭湯か!
俺、こんなことなにも言ってないんだけど? 誰の発案?
「ジュースください」
「はい、ルオ様」
五銅貨を渡すと搾りたてのリンゴジュース。ネリアが売り子!? まあ、今はプレオープンで、領主一家しかいないんだけど。あ、イオは母と女性の方へ入っている。そして父はサウナに。
サウナがあるんだよ!
「ありがとう。美味しい」
イチゴ牛乳とかフルーツ牛乳とかもあるといいなあ。
「俺は泉の水で」
喉が渇くからね!
「エールじゃないの?」
「体がこんなあったまってるところに酒精を入れるのはまずいだろう」
「そうなんだ?」
「ひっくり返りたくはないからな」
お酒飲みながらお風呂入るのそういえば危険だった。
領主一家の体験の後、村人が順番にやってくる。雪解けの後に他の村からも体験にやってくる。
それが終わるとホテルの開業だ。開業は秋を目指してるそう。
「従業員とか教育しないといけないんだ。貴族相手の場合は奥方様が出たりするって言ってるけどな」
「大変だね」
師匠がジト目になっている!
「僕、貴族学院行っちゃうから開業時期いないでしょ」
「そうだったなあ」
師匠は思い出したように言って、水を飲んだ。
「屋敷に風呂作るか」
「え?」
「湯に浸かるの気持ちよかったからな。週に一度くらいは入ってもいいと思う」
「ええ~毎日がいいよ! 毎日!」
「水もタダじゃないんだぞ」
「魔法で出すから~~~」
「わかったわかった! 縋りつくな! 暑い!」
粘り勝ちだ!
そうして冬が過ぎていき、春を迎えた。
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