第286話 馬車は辛い
成長痛は痛い。
どうしても起きてられなくてベッドに突っ伏してると、ラヴァが心配そうに顔を覗き込んでくる。
(主、痛いの)
「うん。でも怪我とかじゃないからね。心配ないよ。痛くなくなれば身長が伸びているはずだから」
(身長、伸びる)
「そうだよ。師匠くらい大きくなれたらいいね」
(なる!)
「そうかあ、ラヴァの保証付きかあ」
ラヴァはこくこくと頷いた。
でも痛そうにしている俺を心配してくれた。
そんな成長痛のせいで、休みの後半はベッドの住人になっていたりしてガラスも思ったようには作れず、がっかりして王都に戻ることになった。
イオの「兄様、頑張って!」に励まされたし、父と母にも労わられたが。
「課題が終わったからいいじゃないか? ちゃんとプレゼントも作ったんだろう?」
「そうなんだけどね。これから馬車で帰るから痛み倍増な気がする」
「あれは大盤振る舞いだし、馬車が通らないとダメだろう?」
師匠は肩を竦めて転移はダメとおっしゃる。
王都への道程は馬車によるダメージと成長痛のため、俺は馬車の中でダウンしていた。
「師匠、僕は無事、王都につけるのかな」
「何言ってるんだ」
師匠の呆れた目が俺を射抜く。いろいろ頑張った弟子に向ける目じゃないと思う!
(まあまあ、主、いろいろ愛し子は骨を折ってくれたんだから)
カルヴァが師匠を押さえる。
「もう、馬車に乗っていたくない~」
(主、元気出して!)
ラヴァが俺の顔を舐めるけど、痛みは無くならない。
「うう、ありがとう。ラヴァ」
「わかった。少し休憩を取ろう」
街道の野営地に馬車を寄せて休憩を取ることにした。
護衛は師匠の屋敷の騎士とルヴェールの騎士。
外に出て伸びをする。座っていて腰が痛い。
ストレッチをして体を伸ばすと、あちこちに痛みが走った。
師匠が横に立つ。
俺の目線が、だいぶ師匠の目線に近づいてきた。
背が伸びてる。
「背が高くなったな。出会った時は、こんなだったが」
こんなと、五歳の頃の身長を表しているのか師匠は自分の腰あたりに掌を横にしてみせる。
「もう、九年だよ? 大きくなって当然だよ」
「そうだなあ。やばい、俺もうおじさん?」
そういって自分の顎を擦る師匠の顔の肌艶が変わらないどころか、艶々になっているような気がするのは気のせいだろうか。まあ、たまにというか頻繁に目の下に隈が出来ているけど。
父より年上のはずなのに、いまだ二十代後半に見えるのは精霊効果なんだろうか。
とりあえず、身長が伸びているってことはラヴァがちゃんと加減して魔力を吸っているってことなのかな。
「師匠、もうすぐ四十歳になるんでしょう。父様より年上なんだからもう観念しておじさんの自覚を……」
「いや、今年で三十九歳だ。四十歳ではない」
いや、もうアラフォーでしょうが。
(大丈夫よ。見かけは若返っているから)
(師匠、若い!)
カルヴァとラヴァが師匠を慰める。
「見かけということは中身はおじさんで間違いないと」
「ルオ」
師匠の声が低くなった。
「だ、大丈夫。加齢臭はしないから」
「なんだそれは?」
「お年を召した方、特に男性からするおじさん臭」
「ル~オ~」
あ、師匠の額に青筋が。
「ごめんなさい~」
師匠からダッシュで逃げ出した。
「おじさん臭」
「私たちも、するのか?」
「娘に父さまくちゃいって言われるのって」
師匠に追い掛け回されている間に聞こえた、騎士たちの声は聞かなかったことにした。
「うう、痛みが……」
「無理に走るからだ。横になっていろ」
馬車の中で横になった。昔は足まで乗っかったのに、今では膝を曲げないと全身が乗らない。
「師匠、いつもありがとう」
「ん?」
「僕を弟子にしてくれてありがとう」
師匠が目を見開いて目元を赤くした。
「な、なんだ。急に」
「出会った頃のこと思い出して。不審者呼ばわりしたこととか」
「あ~まあ、子供だったからな」
「ガラスも作れたし、いろいろしてくれたし。師匠は有言実行と不言実行の人だって思う」
出会った時よりちょっと若返ってる師匠についおじさんって言っちゃうけど、親愛の情だから許してほしい。ダメかなあ?
「どうした? 明日は嵐か?」
「僕だって師匠に感謝してるって言いたい時もあるのに! もう言わない!」
「わかったわかった。俺だってルオに感謝しているぞ。ルオは優秀な弟子だからな。それに、今回いろいろルオが手助けしてくれて助かった。ありがとう、ルオ」
師匠の言葉に頬が赤くなる。思わず腕で顔を隠した。
「僕は師匠の弟子だからね。手助けするのは当然だよ」
それだけ言って寝たふりをした。
なんだかすごくむず痒かった。
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