第281話 瘴気を祓う
翌日、ラントと一緒に植え替えの苗を持ってメリーディエース伯爵家の屋敷にお邪魔した。
「精霊教会の件だが手配ができた」
「ありがとう。だがどこに建てるかが問題だ。光神教の教会は領都の一等地に建っているからな」
「精霊は自然を好む。村でもいいんじゃないか? あるいはダンジョンの側に」
「村はわかるが、何故ダンジョンの側に?」
「冒険者もやってくるから、近くに町ができるだろう? 怪我をするものも出てくるし、なんと言っても瘴気を祓ってもらうのにはいいかと思う」
師匠が言うと、メインデルトは唸って考えていた。
「とりあえず、少し考えてみる」
「ああ。場所が決まればすぐやってくるぞ」
「すぐ?」
「ドワーフの精霊教会に頼んだからな。ルヴェールよりこっちのほうが近いだろう?」
「あ、そうか。確かに」
納得するようにメインデルトは頷いた。
「それとこっちが本題だが、ルヴェール領の本村のラントという、農業師だ」
「ラントです」
師匠が紹介すると、ラントが立って頭を下げた。
「君がピートの言っていた、凄腕の農業師か」
メインデルトがきらりと目を光らせて握手をしようと近付くが、俺がブロックした。
「ラントはうちの領の神業農業師なので、お触り禁止です」
「ルオは何を言っているんだ」
師匠、引き抜きは禁止!
「まずは契約からです」
(契約~!)
ラヴァが肩の上を行ったり来たりする。
(契約?)
アースが首を傾げた。
(主に似てきたわ)
カルヴァはこめかみに手を当ててため息を吐いた。
「さあ、師匠、いつもの!」
「あ、ああ」
俺の勢いに押された師匠は魔法契約書を取り出した。
ちゃんと契約を交わしてラントにもたくさんお金が入るようにできた。
「私もまだまだだ」
値切りに敗北したメインデルトは肩を落としていた。
これで安心してラントに活躍してもらえる。
俺の農場の生命線だからね。
「ルオが成長していて俺は嬉しいよ」
「ならよかった」
地図を見ながらメインデルトと相談して区画分けを行ってどこから回るか確認した。
まずはメインデルトの住む屋敷から、一番近い村のブドウ畑に行くことになった。
「では行くぞ」
師匠が転移魔法を使うことになった。それも含めての魔法契約書だった。
「あ、ああ。や、やってくれ」
メインデルトが緊張した顔で頷く。
「転移」
次の瞬間には村のブドウ畑に到着した。
メインデルトが目を白黒させていた。
「これが転移魔法……凄いな」
メインデルトの思わずといった呟きに、一瞬、師匠が照れた顔をしたけれど、すぐに表情を戻した。
この村のブドウ畑も、瘴気が濃く立ち枯れが多かった。
「酷い……」
俺が思わず呟いた。
「これは……黒い霧状のものがはっきり見える。こんな状況なんて、初めてだ」
メインデルトが青い顔で呟く。
「そうだな。普通はうっすらとしか見えないし、そのうっすらとした状態でも、見えるということ自体、本当は異常事態なんだ」
「光神教は何をしている。寄付ばかり強請って、挙句の果てに放置か?」
メインデルトが拳を握りしめて怒りの表情を見せる。
「関わらないことをお勧めする。では行くぞ。浄化」
師匠が、浄化を唱えると、それこそ霧が晴れるように瘴気が消えていった。
そして俺は精霊王様に祈った。
祝福の光が降り注ぐ。
「では、次は私が……土壌改良」
ラントが、立ち枯れたブドウ畑の土に手を置いてスキルを使った。
あっという間に黒い土になり、元気なブドウの木だけが残った。
俺と師匠はその間に苗木を袋から出して、ラントの側に置いた。
「植樹」
苗が飛んでいってひとりでに植えられていく。
凄いな。
メインデルトの顎が外れてるみたいなんだけど。
(水の精霊さん! 水をお願い!)
(わかった)
苗木が植えられたブドウ畑に散水される。
更にメインデルトの口が開いた。
「終了だな」
師匠が腰に手を当てて頷く。
「そうですね。あとは普段管理されている方に任せて大丈夫でしょう」
ラントも頷く。
「終わったね」
俺も頷いた。ちなみにラヴァとアース、カルヴァも頷いた。
(いい仕事した)
水の精霊はドヤ顔だった。
「コ~ラ~ン」
メインデルトが低い声で、師匠を呼ぶ。
「後で詳しく説明しろ」
「え?」
師匠が首を傾げた。
そこで、村人がやってきて大騒ぎとなって、領主のメインデルトが説明して納得してもらった。
概ね、ペーテルの村と同じ反応だった。
嬉しそうな村人を見て、ほっとした顔のメインデルトを師匠は眩しげに見ていた。
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