第272話 師匠の実家
「ちゃんと今日訊ねるということは連絡しておいたから、大丈夫だ」
その通りに何の問題もなく応接室に通された俺たちは、お茶を出されて飲んで待っていた。
そうすると足音が聞こえて、ペーテルが飛び込んできた。
「コラン! ありがとう!」
そのまま、師匠の座っているソファーの横の床に土下座をした。
「母様が、歩けなかった母様が、歩けるように……本当にありがとう」
師匠が驚いた表情を引っ込めてペーテルの肩に手を置く。
「いや、母様が元気になればそれでいいんだ。立ってくれよ、ピート兄様」
「あ、ああ……」
ペーテルが顔をあげるとラントを見て眉を顰めた。
「ああ、農業師のラントだ。ブドウ畑を復活させて来た」
「は?」
ペーテルの目が点になった。
畑を見せに連れて行き、現場を見たらぽかんとして動かなくなった。
「領主様、ありがとうございます!」
「ブドウの木が、息を吹き返して……」
口々に感謝の言葉を述べる領民にペーテルは頷いて、にこやかに撤退した。
「どういうことだ、コラン。うちの農業師にはどうにもできなかったんだ」
「ラントはレベルの高い農業師なんだ。それでだろう。ルヴェール領で一番の農業師なんだ」
師匠が褒めちぎるとラントが恥ずかしそうに俺の後ろに隠れた。
背が高いから隠れられないけど。
「そうか。ルヴェール領が豊作なのは君が原因かもしれないな! 移住を……」
「ダメです!」
スカウトは禁止!
ペーテルはめちゃくちゃ残念そうな顔になった。
「その代わり、瘴気は祓うし、なるべく復活できるようにする。もちろん無償じゃない。対価は払ってもらうからそのつもりで」
「ああ……光神教でも祓えなかった瘴気だ。対価は当然だな。もちろん払うが、少し待ってくれるか」
「わかった。あとで契約書を交わそう」
師匠が頷いた。魔法契約書かな?
「それと、ダンジョンだが、冒険者ギルドは動いたのか?」
「ああ……瘴気が薄くなっていたから入口を見つけられて、今はいろいろやっている」
「あのダンジョンは珍しい自然環境型のダンジョンだ。上手く使えば相当儲かるぞ。ドロップ品のお茶はめちゃくちゃ美味い。ただ、ドロップする魔物がレアで特殊だが……」
師匠の目が金貨になった。ペーテルが引いてる。
「……なんだろう。離れていた間に可愛い弟が守銭奴になってた」
師匠は筋金入りの守銭奴だから!
「それから、デル兄様が会う決心をしたと手紙が来た。今は仕事が立て込んでるそうだが、一週間後はどうだろうか、と言っている」
「わかった。その間、瘴気はできるだけ祓う」
「ありがとう」
ペーテルの屋敷に戻った俺たちは、師匠とペーテルが魔法契約書を交わすところをしっかり見た。
それから師匠は毎日メリーディエース伯爵領に通い、瘴気を浄化して回った。
もちろん俺も手伝った。
ラントには浄化した後の畑を復活させてもらった。
俺は精霊王様に祈って祝福をしてもらったりした。
アースがいうには精霊王様の祝福があるとないとでは土地の豊かさが違ってくるんだって。
あんまり祝福してるとその内エルフが来そうだけど、そこは大丈夫かな。
そして約束の日が来て、緊張した顔で、師匠が俺と一緒にメリーディエース伯爵家の屋敷に転移で向かった。
丘陵のある土地に大きな屋敷が立っていた。
「このお屋敷?」
「そうだ。俺が十二歳まで暮らしていた家だ。行くぞ」
俺と師匠とラヴァ、カルヴァは師匠の実家に向かったのだった。
次の投稿は明日になります。
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