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第271話 神業農業師

 ラントへの豊穣神の大盤振る舞いに軽く引いていた師匠だったけれど、気を取り直して客間を手配し、明日の出発の段取りを話した。

 朝食後、浄化したブドウ畑にラントを連れて行って、状態を見てもらい、その結果によって、することが変わるだろうということだった。

 その後、ペーテルのもとに行くとのことだった。

 俺は空気のようについて行く感じだ。

 精霊関係で何かあったら、俺の出番だと思う。


 翌日、ラントを伴ってブドウ畑に転移で向かった。

 荒廃したブドウ畑を見てラントが悲しげな顔をする。

(これは酷いな)

 アースがラントの肩からぴょんと下りて土を見つめる。

(でも、土には祝福が宿って……)

 アースが俺を見て頷く。

 何を納得したんだろう。

(主、祝福があるから、土壌改良フォーミングで何とかなると思う)

「アースが言うなら確実だね。ではやってしまおうか」

 ラントがしゃがみこんで、土に手を付けた。


土壌改良フォーミング

 地面から、アースと同じような精霊の大群が現れて地面が掘り起こされていく。それにブドウの木も巻き込まれてあっという間に均された。

 荒廃したブドウ畑は黒々とした土に、所々、巻き込まれなかったブドウの木が立っている状態になった。

「やっぱり大半は死んでしまっていたね。残念だけど」

 ラントは息を吐いて悲しげに言った。

(瘴気に晒された時間が長かったみたいだから仕方ないよ。主の力不足じゃないから)

 悲しそうな表情のラントの足元でアースが慰める。

 この土壌改良フォーミングは何度見ても不思議なスキルなんだよね。

 俺の農場では何度かやってくれて俺は慣れてるけど、師匠は初めて見たみたいで、目を大きく見開いている……気がする。服装が不審者モードなので目元があまり見えないからね。


「これは……凄いな」

「ユニークスキルだって言ってたよ」

「それなのに隣領に攫われなかったのか?」

「農業師だからじゃないかな? うちの領、割と農業師いるけれど、スカウト受けたって人はいないみたい」

「ああ……農民は除外してるってことか。農民まで引き抜かれたらさすがに問題になるからな」

「そうなの? こんなに凄いのにね。ラントほんとに凄い」

 ラントは残っているブドウの木に何かしたらしい。なんとなく元気になっている気がする。

「持ってきた苗木を植えたいのですが……」

「ああ、待っていろ」

 師匠が麻袋から苗木を出した。そんな麻袋が周りに凄くたくさんある。ほんとにたくさん。

 師匠の収納スキルには苗木も入るらしい。植物は生きているはずなんだけど、なぜか入る。

 動物はどうやってもダメらしい。

 スキルの不思議というものかもね。

 俺も手伝って苗木を袋から出す。


「では行きます。植樹」

 ラントがスキルを使用すると苗木が勝手に土に埋まった。

「神業農業師」

 造園師かもしれないけど。

 思わず呟いたのは仕方ないと思う。

(水が必要なら、出す)

 水の精霊の声が聞こえた。

(手伝ってほしいと王様が言ったから、来た)

「ラント、水の精霊さんが水が必要なら撒くみたい!」

「お願いします!」

(任せて)

 如雨露から撒く水のように苗木に水が降り注いだ。

「凄い、ありがとう!」

(いい仕事した。なにかあったら呼ぶといい)

 そう言って水の精霊は消えた。


「これで根付くと思います」

 ラントが目を細めてブドウ畑を見つめた。

 生まれ変わったようなブドウ畑に人が集まってきた。

 農民のようだった。

「これは、一体」

「何があったんだ」

 このブドウ畑を管理している人たちだろうか。

「あんたたち、何かしたのか?」

 少し年かさの男性が師匠に訊く。

「ペーテル・メリーディエース様に頼まれて、ブドウ畑を再生する手伝いをしたんだ。彼は農業師だ。凄腕のな」

「凄腕なんてそんな」

 ラントが照れると集まった女性たちの顔が赤くなる。

 ラントはちょっと色っぽい泣き黒子がチャーミングポイントの美青年だから、仕方ないよね。

 長身でイケメン。しかも細マッチョ。

 なんでいまだに結婚してないかわからない。


「結果を報告してくる。君たちには今まで通りに畑の管理をお願いすると言っていたぞ」

 そう師匠が言うと、集まった人々がざわっとした。


「ブドウ畑はもうだめかと思ったが……」

「領主様が頼んでくれたのか」

「農業師はこの村にもいるが、歯が立たなかったのになあ」


 そんな声が聞こえて、人々の尊敬の目がラントに集まった。

 その人たちを置いて、俺たちは歩き出した。

「この村の長はペーテル・メリーディエースという、俺の兄だ」

「そうなんですか。お役に立てたならよかったです」

 前に訊ねたペーテルの屋敷に俺たちは向かった。

次の投稿は明日になります。


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