第270話 推し
疲れた顔で戻った俺たちをスピネルたち使用人が、労わってくれた。
そして、夕食を取りながら、今日見たことを話し合った。
(あのブドウじゃ美味しいワインはできないわ)
「そうだな。多分、全部植え替えないといけないだろうな」
「あの、ラントの力を借りるのはどうかな?」
「ラントの?」
「ほら、ラントは豊穣神の愛し子で、土壌改良っていうスキルを持っているから、何とかしてくれるかも。ルヴェールでもブドウとオリーブは植えていたから、苗とか譲れるかもしれないでしょ」
「ラントは神業農業師だと思っていたが、そんなことまでできるのか? 待て、愛し子?」
師匠は首を傾げて唸ったが、横に一回首を振って続けた。
「……ワイン造りとジャガイモ揚げたいって言うからオリーブを移植したが、結果よかったってことか。よし、領主様にお願いしよう」
「師匠の領地の塩も美味しいし、フライドポテトは最高だよね」
「今はそういうことを話してるんじゃないんだがな。ジャガイモには他の領地も助かっているから、食べ方を発見したルオには感謝しているよ」
前世の知識だったけど、役に立ったなら嬉しいな。
それから師匠が手紙をやり取りして、ラントを連れてくることになった。
ラントは豊穣神の愛し子だから、礼拝室に行ってお祈りと豊穣神様に賄賂……じゃなくてお供えをしようと思う。
俺は工房に行って、フューミングで作ったいくつかのガラス玉の中から一つを選んでペンダントを作ることにした。
錬金釜にミスリルを入れてラヴァに火を着けてもらって融かす。
融けたら、錬金術スキルの出番だ。
「錬成・加工」
ペンダントヘッドにするガラス球を変化しつつあるミスリルの中に落とした。
光るそれがガラス球を覆って光り、そして光が消えた。
俺は錬金釜を覗き込んだ。
「できてる!」
細いチェーンに、大きめのペンダントヘッド。ガラス球を覆う丸い台座は蔦の模様をあしらっていてその蔦が支える爪の代わりをしている。
ガラス球は中心に花が咲いたような模様で、周りは色々な色が浮かんでいる。色や模様をクリアガラスで覆っているからガラスの中に花が閉じ込められたように見える。
「よし、できた」
(神様きっと喜ぶよ!)
ガラスペンを入れる箱を少し改造してペンダントを収めてリボンを巻いた。
礼拝堂に向かう。
そっと祭壇にペンダントを入れた箱を置いて手を合わせて祈った。
(豊穣神様、ラントの力を借ります。こちらをどうぞ、納めてください)
目を開けると箱は無くなっていた。
(素敵よ! ありがとう!)
光が降ってきた。
「祝福の光?」
(魔法神の愛し子のこと、上手くいくように私も願っているわ)
「ありがとうございます」
この世界の神様は凄く優しい。
俺はこんなにしてもらって返せるのは感謝の気持ちだけだ。
(精霊王様、芸工神様もありがとう)
そして俺は一心に祈った。
祈り終わって礼拝室を出ようとすると、目の前に師匠とラントが現れた。
「わ、びっくりした。ラント、来てくれたんだね。ありがとう」
「いえ、私で力になれることでしたら。とりあえず、ブドウとオリーブの苗を持ってきました」
「今日は休んでもらって明日領地に飛ぶ」
師匠がラントの肩をぽんと叩く。
「すまないが力を借りる」
「はい。あの、ここは礼拝室ですか? 豊穣神様の像が……」
「ああ、そうだ。祈っていくか? なにか供えるか?」
師匠が頷く。
「では、ブドウとオリーブの苗を一本ずつ供えてもいいでしょうか」
「かまわない。ラントが育てたものだしな」
ラントは手に持っていた袋から、根っこを袋で覆った苗を出した。
それを祭壇に供えて祈った。
苗は光って消え、さっきとは比べ物にならない光が降り注いだ。
「これが推しと一般人の差か」
思わず呟いたら、豊穣神様が『てへ』って小さく呟いたのが聞こえてしまった。
師匠は目を見開いて驚いていた。
「愛し子か。そうか……」
ちょっと頭を抱えていたのは気付かなかったふりをした。
次の投稿は明日になります。
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