第268話 ブドウ畑
「それで、デル兄様に、会いたいと思うんだが」
師匠は両手を組んで視線を逸らしながら言った。
「突然の手紙にも驚いたが、今更なぜ仲直りを? 私にだって本来は会うことはなかったんだろう?」
「……ケンダルに会ったんだ。俺は今、貴族学院で中級魔法の講義を受け持っていて、彼は俺の研究室の研究生になった。今のままだと本来は接触も出来ない。絶縁というのはそういうことだとわかっている」
「そうだ。私にもだな」
「許し合えるなら、仲直りがしたいんだ。二人は俺にとって優しい兄たちだったから」
ペーテルは目を瞠る。そしてしばらく考えるように間をおいて口を開いた。
「……私は別に仲違いをしているつもりはなかったけれどな。絶縁状が回ってきて驚いた方だから。でも、もう少し大人だったら、何とかできたのかもしれないとは思ったことはあったよ」
話す彼の顎先が少し、震えているようだった。
「ピート兄様」
「言い訳だな。コラン、私ができる限りのことはしよう。色々あったけれど、元のように、仲良くしてくれるか?」
「ああ。ピート兄様はピート兄様だよ」
その後しばらく二人は黙っていた。
「会える日付がわかったらすぐ連絡する。どこに泊まっているんだ?」
「ありがとう。ピート兄様。泊るところはまだ決めてない。日付の連絡はこの魔道具を使ってくれ。俺に直接届く」
「これは……わかった」
「ダンジョンと、浄化は任せてくれ」
そう言って、師匠と俺は彼の家を出た。
「僕、居てよかったのかな」
「いいんだ。二人でなんてとても会えない」
あれ。師匠の弱音って、初めて聞いた?
「昔、家族に絶望したのは確かだ。でも、会ったら優しくされたことばっかり思い出して、恨み言なんか、思い浮かばなかった」
カルヴァが師匠の頬にすり寄った。
(いいんじゃない? それで。仲直りが目標でしょ? 達成できたから問題なしよ! ほら、次行くわよ!)
(次ー!)
カルヴァが腕をあげると、ラヴァも前足を上げた。
「そうだな。その通りだ。次は……あっちに行ってみるか」
あっちと示したのは枯れたブドウ畑だった。馬を返してもらい、来る時に見た、ブドウ畑に向かった。
「あ、真っ黒」
近付くと立ち枯れたブドウの木を覆うように瘴気が見える。
「黒いな」
師匠が眉を顰めた。
「取り合えず浄化をするぞ」
師匠の周りにいくつもの魔法陣が現れて、それがブドウ畑の上空に移動し、まばゆい光があふれ、ブドウ畑を覆った。
光が消え去ると瘴気は無くなっていた。
「さすが師匠」
思わず拍手をしてしまった。
(でもどうしてこんなに瘴気が溢れたのかしら?)
(精霊、居ない)
カルヴァとラヴァも心配そうに見ていた。
「こんなに荒れてる」
瘴気の去った後に、残ったのは立ち枯れた木と、乾いた地面。
(この地も、救ってください)
俺は、精霊王様に祈った。
すると、祝福の光が降りてきた。
『これでは土地が死んでしまうからね。祝福の地ほどではないけれど、今の状態からは回復するように祝福を』
「ありがとう、精霊王様」
土はまだ、黒くなってはいないけれど、いずれは力を取り戻すはず。
「浄化をかけながらダンジョンへ移動しよう」
「はい」
ラントにお願いしてきてもらった方がよかったかなと、ちらっと思った。
そして瘴気が濃いところを浄化しつつ移動して、瘴気が流れるところを見つけた。
「師匠、あの先じゃないかな?」
「確かに瘴気が流れているな。よし、行こう」
立ち止まって師匠が浄化をかけて瘴気を消すと、ダンジョンの入口が露わになった。
どうやら、冒険者は来ていないらしい。
師匠は馬を近くにある木に括りつけ、結界の魔道具を起動させ、水と餌を置いた。
「そう長い時間はかけないから、これで大丈夫だろう。行こう」
「はい」
(行きましょう!)
(行こう!)
そして俺たちはダンジョンに入った。
次の投稿は明日になります。
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