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第267話 ピート兄様

 師匠の後ろ姿がなんとなく不安に揺れているように見える。

 師匠がノックをして扉が開かれた。師匠が俺を振り返ると手招きをした。

 歩き出そうとするとまた顔を舐められた。


「うう、浄化(クリーン)

 舐められた顔に浄化をかけて綺麗にした後、馬を使用人に預けて、俺も中に入った。

「旦那様、ヴァンデラー卿とお連れ様がいらっしゃいました」

「通せ」

 聞こえた声はなんとなく師匠に似ていた。

 扉を使用人が開け「どうぞ」と促される。

「久しぶりだな。コラン」

「お久しぶりです。ピート兄様」

 応接室に通され、正面のソファーには柔和な面立ちの美丈夫がいた。

 女顔と見間違うほど整っているのに体は鍛え上げられた、騎士の体つきだった。

 大柄ではなくバランスの取れている体つきだった。

 髪は師匠と似た色のブルネットで、青緑の瞳をしている。暗いところで見たら師匠の目の色とそっくりかもしれない。やっぱり師匠に似ている。

「そうだな。お前が学院に向かった時以来だから二十六年くらいか? もう私も四十を過ぎたよ」

「俺はまだ三十代ですよ」

「コラン、擦れたな。噂は色々聞いている。錬金術師になったんだな。私は宮廷魔法師になるかと思っていたよ」

「金がなかったので、手っ取り早く稼げる錬金術師の方がいいかと思いまして。何せギルドカードにほとんど金が入ってませんでしたから」

「え、父様、お金入れなかったのか?」

「それだけが理由ではないんですが」

「宮廷魔法師より稼いでいるなら問題ないんじゃないか。もともと興味はあっただろう? ほら、オリーブオイルの油を取り出すの凄いって言ってたじゃないか」

「コホン。弟子の前で、あまり昔話は」

「あ、すまない。そうか、弟子か」

「フルオライト・ルヴェール、ルヴェール子爵家の嫡男だ。ルオ、俺の二番目の兄、ペーテル・メリーディエースだ」

「ルヴェール! ありがとう! 君の家のおかげで、領民の命が助かった」

 彼はいきなり立ち上がって両手で手を握られた。

「え、えっと?」

「どういうことなんだ?」

 師匠も眉を顰めて彼に聞いた。

「南の農業は不作でブドウの木もオリーブの木も立ち枯れでどんどん収穫が出来なくなっている。食糧危機だ。そこにルヴェール男爵家から食料が届いたんだ。助かったよ。このところ魔物も増えているし、おまけに今までなかったダンジョンが見つかった」

 瘴気が多いところに出来るダンジョン。それが出来るなんて。

「ダンジョンが? どこに?」

「この村と屋敷の間の森だ。もともとは葡萄畑だったところの裏の丘陵の林の中に出来ていた。今調査中だ」

「俺も調査に行っていいか?」

 師匠は俺の顔をちらりと見て言う。

「助かるが……」

「あと、葡萄畑やオリーブ畑の様子も見させて欲しい。俺は浄化ができる」

「浄化? あれは司祭じゃないとできないんじゃなかったか?」

「俺は全属性で、聖属性の魔法が使えるんだ。できる」

「聖属性を持っていると浄化の魔法が使える?」

「そうだ。逆なんだ。光神教が、聖属性魔法を使える者を囲い込んでいるから、光神教の司祭しか使えないという風になったんだ」

「まさか……」

「魔法のことは俺が一番詳しい。なんせ【賢者】だからな」

「そういえばそうだったな。あれも、光神教が騒がなければ大事にならなかったのに」

「ピート兄様は俺のこと嫌ってたんじゃないのか?」

「よくわからなかったんだよ。私は。母様がなくなったのはお前のせいだって聞かされて。でも、葬式にデル兄様と私は出られなかった。そうじゃなかったんだよ。葬式はしなかったんだ。だって、母様は生きていたんだから」

「は?」

「死んでなかった。アンナも出ていったわけじゃない。母様の世話をしていた」

「もしかして……」

「ああ、会えるぞ。今は本家の屋敷の別宅に住んでいる」

 師匠の目に涙が滲む。

「母様が……生きてた?」

「父様が隠してたんだ。しかも、軟禁に近かった。危険な目に遭ったのは外に出ようとしたからだと」

「父様が……? 俺はお前のせいで死んだと、告げられたんだ。あれは嘘だった?」

「わかったのは父様が死んで、不自然な金の流れがあったからだ。その支払先をたどったら、村のはずれの家に隠されていた母様とアンナを見つけたんだ」

「そうなのか」

「その頃はもう、お互い連絡も取れない状態だったのと、怪我が癒えてなかったんだ」

「怪我……俺を庇った時の?」

「ああ」

「これを」

 師匠が、ポーションの入った瓶をテーブルに置いた。

「ポーション?」

「俺の作った特別製のポーションだ。これで治らなかったら、俺が回復魔法を使って治す」

「そう言えば錬金術師だったな」

 彼は震える手でポーション瓶を手に取った。

「ありがとう。コラン」


次の投稿は明日になります。


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