第265話 出発
目の下の隈が薄くなった師匠が朝食の席に現れた。
「おはよう」
「おはよう、師匠。ぐっすり眠れた?」
「あー、うん」
(朝までぐっすりよ!)
肩にいたカルヴァが両手の拳を握りしめて力強く言った。
「ぐっすり? また魔力が増えた気がしたんだが……」
師匠が首を傾げた。
(ぐっすりよ!)
カルヴァは思い切り魔力を奪ったらしい。
いい仕事したね。カルヴァ。
「ま、まあいい。これを食べたら荷物の点検をして出発だ」
食べ終わった後、ラヴァと一緒に師匠の執務室へと向かった。
そこには久しぶりに見る、不審者モードの師匠がいた。
灰色のマントに乱れた前髪で目を隠している。マントの下は冒険者がよく着ている立て襟の長そでシャツに革の胸当て、ベルトに帯剣。ブーツはやや長めのしっかりしたものだ。
「なんだ?」
「今回はどうしてその格好なの? 別に顔出してもいいんじゃないかな?」
「あー……外を回る時はこっちだからな。それに、目立ちたくない。俺の顔はどうも目立つみたいだからな。顔出して歩くと視線がうっとおしくて、つい」
「認識阻害の魔法とかじゃダメなの?」
その不審者モードは不審に思われると思うけど……。
「あれは逆に目立つからな。不審がられるから街では使わないな」
「目立つの?」
認識阻害なのに? いないって思われるとか、目立たない魔法じゃないの?
「それなりに魔力感知できる奴がいると、そこだけ感知できなかったりすると、逆に何かがいるってことになるんだ。そういうことする奴はたいてい良からぬ奴らだからな」
「ああ、暗殺とか……?」
良からぬことの筆頭だ。あとは盗賊とか。
「あとは王家の影とか、そこらの情報屋だったりな」
「王家の影!?」
「そういうのがいるんだよ」
見えないの? 思わず周りを見回してしまった。
「王族について守っている護衛みたいなものだよ。俺の家にはいない」
「そうかあ。そうだよね!」
あれ? じゃあ、アリファーンにはついてるのかな?
「アリフについてたりする?」
「俺がついている時はいないな。学院の中はいないし、ルヴェールに来た時もいなかったぞ」
「え、師匠、どうやって見つけてるの?」
「そうだな、気配察知とかでも見つけられると思うが、俺の場合は鑑定を一度周囲にかけるな。そうすると、何もないところに名前が見えたりする。あ、いるなと思うんだ」
「え、鑑定はむやみにかけると気絶したり……」
あちこち見て俺は気絶したことを思い出した。
「そこはちゃんと制御するんだよ。使わないと熟練度が上がらないぞ。上がれば気絶はしなくなる」
「はい」
気絶してからそんなに使ってないんだよな。ポーションやガラスを作ってる時は鑑定するんだけれど。これからはもっと使おう。襲ってきた魔物の鑑定結果がすぐ出るくらいに。
「これからメリーディエース領に行く。森の中で目立たないところに転移するから町に移動して馬を借りるぞ」
「借りるの?」
「連れて行くより面倒がないからな」
「そっか。預ける場所とかいろいろあるよね」
「そうだ。ところで、ちゃんと乗れるな?」
俺は思わず視線を逸らした。
「……ちゃんと単位はもらっていたよな?」
「の、乗れるよ? 乗れるけれど、自在に操れるかというと……どうかな?」
「……その時は二人乗りだな。馬じゃなくて魔馬を借りるか」
師匠が遠い目をした。問題は馬に好かれすぎることなんだけどね。
俺も冒険者の時の装備をつけて、師匠と同じ灰色のマントを着てフードを被った。肩掛け鞄を肩にかけてマントを閉じる。靴は師匠と同じブーツだ。
「じゃあ、行くぞ。カルヴァもラヴァもしっかり掴まっていろ」
(わかったわ)
(は~い!)
カルヴァは師匠のマントを掴んで肩に座った。ラヴァは定位置の俺の肩にしっかりと掴る。俺は師匠の腕を掴んだ。俺たちを確認して師匠は頷くと小さく呟いた。
「転移」
そして次の瞬間には執務室ではなく、森の中だった。
王都より少し気温が高い気がする。
「ここが師匠の生まれ故郷?」
「そうだな」
師匠は眩しそうに森を見つめた。
「さて、森を出て町に移動だ。隣領から最初の町は旅人相手に商売をする商人の街だ。その次が領都でその間の村に二番目の兄が家を構えている」
「そこにまず行くんだね」
「ああ。森を出るぞ」
「はい」
師匠の後について俺たちは森を出て、町を目指した。
次の投稿は明日になります。
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