第234話 ケンダル・メリーディエース
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師匠がいきなりの告白をして部屋を出ていった後、冷たくなった紅茶を飲んで、息を吐く。
(ぜつえんってなあに?)
「縁を切ること……もう絶対に会わないってことだよ」
(え、会わないの?)
「うん。仲が悪い人同士が争わないためだよ。顔を見るとどうしても悪口言いたくなる関係ってあるからね」
そう簡単なものじゃないと思うけど、そこは師匠の多分、地雷だろうから踏み込まない方がいいだろうなあ。
「ラヴァも、今聞いたことは他の人に内緒だよ」
(うん。わかった!)
「ラヴァはいい子だな」
抱きしめて頭を撫でまくった。俺の腕の中でラヴァはご機嫌だった。
そう言えばなんとなく誰かに似ているなあと思ったけど、ケンダルが師匠の甥なら似ていても不思議はない。
「どんな顔して会えばいいんだろうな」
君のお父さんと絶縁した叔父さんの弟子ですとかいえないだろう。無難にスルーする一択だな。
ああ、もう!
「なんだ? なにか、疲れてるみたいだな」
学院のクラスでぐたっとして、昨夜の師匠の発言を思い出していたらタビーが横から声をかけてきた。
「んー? 疲れてはないはずだけど……勉強しすぎ?」
「ルオは真面目だからな。俺は二年になって座学が難しく感じる。気のせいか?」
「気のせいじゃないと思う。僕は一応学院の学習範囲終わってるはずだけど、難しく感じる」
「紋章学は勘弁してほしい」
タビーは暗記物は苦手なんだよな。俺もだけど。
「紋章学は何とかやり切った」
記憶術スキルでね!
「え、マジか」
「マジ」
そんな話をしていると、座学の講師が教室に入ってきた。タビーの苦手な紋章学の講師だ。
今日も一日が始まる。
◇◆◇
今日から合同演習の準備期間が始まる。一年の中でも十月は暑くもなく寒くもなく過ごしやすい季節だ。抜けるような青空で、外でピクニックでもしたら楽しそうだけど、あいにく準備のために借りた空き教室で打ち合わせだ。
「みんな揃ったところで、細かい分担を決めよう。まず野営」
教室にあるボード(黒板みたいなもの)を使ってチョークでヤニスがコスティの発言を書いていく。俺たちは木版にメモを取る形だ。
「前回までの合同演習で必須となっていた野営訓練だね。野営に最適な場所を拠点に選んでテントを張り、見張りを立てて過ごす。持ち込む道具は全て学院側に提出し、許可を受ける。まずテント、携帯食料、水……」
道具を用意する分担も決める。俺とタビーはテント、ケンダルとマルコムは水(入れ物含む)、その他がコスティとヤニスだ。
ダンジョンへも食料と水は必要だ。
今回、野営の拠点はダンジョンに潜っている時は冒険者が見回り、保全するということになっているそうだ。襲撃はしないので当然かな。そしてポーションや魔道具は用意できる者がする。
そうなるとやっぱり、爵位格差や財力の差が出てくるんだけど、一応学院側に貸出制度がある。有料だけどね。そこはやっぱり貴族なのでレンタル料くらい払わないと矜持が傷つくんだろうな。
「ポーション担当はルオとタビーでお願いするよ」
「わかりました」
俺とタビーは返事をして頷いた。それまで手元の木版に視線を落としていたケンダルが顔をあげる。
「ポーションは高価なので二人だけに任せてもいいのでしょうか?」
手を挙げてコスティに質問する様子はマナーがしっかり教え込まれているなと感心する。伯爵家だから優秀な指導を受けていそうだな。師匠もいざという時は優雅な作法を披露するからね。
「ああ、二人はヴァンデラー先生の研究室生だし、ポーション作製ができるんだよ。予算的には任せた方がいいんだ」
コスティが何気なしに口にしたヴァンデラー先生という言葉にケンダルはピクリと眉をあげた。
「そう、ですか。わかりました。よろしくお願いします」
ケンダルは俺たちを見てそう言うと、手元の木版に視線を戻した。
「任せろ」
タビーが力強く言うと、ケンダルは微笑んで頷いた。
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