第221話 謁見の日
両親と師匠は謁見の日が決まったため、忙しそうにしていた。
今回の献上品はガラス工房のこれからの主力商品ということで推すらしい。
まずガラスペン。
羽ペンに変わる筆記具として売り出す予定だ。
ハンスを中心にしてまず貴族、そして装飾を少なくしたもの、軸をガラス以外で作ったものなどを平民の富裕層に広げていくらしい。
ただ、手作りなため、作れる本数に限りがある。
当分は貴族層にのみ売ることになりそうだ。鏡と一緒だね。
次はガラス食器。
ハンスが編み出したレース技法を装飾としてデザインしたガラス皿のシリーズ。
ガラスペンと一緒にどうぞ、という抱き合わせ商法だ。
それから、藍から作ったインク。
柄の入った和紙の便せん。
これもガラスペンに必要なもの。
国王陛下には赤、王妃殿下には青の色のイメージでオールセット、王子二人と王女にはガラスペンとインクと便せんのセットを贈る。
高級感のある宝石を使い装飾を施した箱にルヴェール染めの布を敷き詰めてペンをおさめた。ペンと合わせて作ったペン置きも一緒だ。
「師匠。新しいものを作る度に献上しなければいけないの?」
王城へ向かう馬車の中で以前から気になっていたことを聞いてみた。
「ん? いや、そういうわけじゃないんだが……」
師匠は謁見をするので正装だ。
イケメンがさらにイケメンになっている。マントは師匠個人の紋章入りだ。
俺も今回はマントを羽織っている。個人紋ではなくルヴェール子爵家の家紋入り。
「王族に持ってもらうこと自体が軋轢を生まないための防御措置だな。ルヴェール子爵家は王都で社交をほとんど行っていない、もとは男爵で、領地持ちの中では最底辺だ。そこが流行の先端を担うのはやっかみや嫉妬を買って潰される可能性が高くなる。だから、王族に贈っておくんだ」
「王族に守ってもらうの?」
「そういうことだな。あとで真似されても、元祖はうちだって言える。特許を取るのもそう言った意味合いもあるんだ」
「そうなんだ」
「それに、王族が身に着ける宣伝効果は半端なく高いぞ」
「そうか! 贈り物の値段で広告塔になってもらうんだね!」
「勘がいいのはいいが、そういうことは遠回しに行った方がいいな」
「遠回し?」
「王族に流行を作ってもらうんだ」
師匠、全然遠回しじゃないよ?
そしてガタガタ震えている人が一人。
「わ、私、本当に国王陛下に謁見するんですか? 平民ですよ? それにこの服着ていいんですか? 汚さないか気が気じゃないです!」
朝からお風呂で磨かれ貴族が着るような正装をさせられてハンスはもう涙目だ。
「いや、工房主はハンスだし、作ったのもハンスだろ? いなくてどうする?」
「えええ」
一応、師匠は伯爵なんだけどハンスわかってないかもなあ。凄い錬金術師だっていうのはわかっていると思うけど。
「最後列で跪いて頭を下げていればいい。向こうも平民に最高のマナーなど期待してないからな」
父がフォローに入った。
「そうよ。直答はしないし、側近が読み上げるだけが多いのよ。今から緊張してたら持たないわ。深呼吸して体の力を抜いたらいいわ」
母も優しく微笑んでハンスの緊張を解そうとしている。
「はいい!」
ハンスは領主夫妻に気を使われてさらに緊張したようだった。
(主、心臓バクバクしてる)
プリュムが心配そうに言っていた。
ハンス血圧大丈夫かな? めっちゃ青い顔しているけれど。
そういえば、ラヴァは王城に入って大丈夫なのかな?
カルヴァが王城に入っているから精霊が王城にこっそり入るのは大丈夫みたいだけど、ラヴァは実体があるからなあ。
とにもかくにももうすぐ王城だ。
「こちらでお待ちください」
すんなりと王城の門は通過し、ラヴァも一緒でいいとのこと。
絨毯が敷かれた広い廊下を案内人の後について応接室のようなソファとテーブルの置かれた部屋に来た。献上品は受け取りに来た別の人に渡した。
案内人が出ていくと女性の使用人がお茶のワゴンを押して入ってきた。
全員にお茶を淹れてお茶請けも置いて部屋の隅で待機した。
紅茶のいい香りが漂う。
「いただこう」
父が紅茶のカップに手を伸ばす。
一応鑑定はしたので、お高い美味しい紅茶というのはわかった。
父が飲んでから俺も飲む。
美味しい。
めちゃめちゃ高級な味がする。王妃様のお茶会で出されたお茶も美味しかったけれど、これも美味しい。シュガーポットも置かれているけれど、お砂糖を入れるのはもったいない気がした。
二時間くらいたったころ、部屋の扉がノックされた。
「間もなく謁見のお時間です」
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