第172話 グラスと課題
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ハンスはガラスペンを作るようになり、だいぶ腕を上げたようだった。使いやすそうで、それでいて優美なシルエットの物を作るようになった。
ハンスにとってガラスペンは俺が最初に作った透明なガラスペンが理想なのだと言った。
ハンスは芸術的なものを見る目を養えとスピネルがあちこち連れまわしたらしい。
絵画や彫刻等は貴族が持つもので、市民はあまり見る機会がない。屋敷の中とかも連れまわして客間のガラス窓も見せたらしい。
そういうのも貴族の教育みたい。いいものを見て育てば見る目が養えるって奴なのかな?
ハンスは勉強をしながらガラスペンを作り、王家への献上品を作ることになっている。
切子グラスは蒸留酒の販路を広げる時に一緒に売りたいと、師匠が言った。
確かに前世でもそんな感じの戦略があった。
透明なグラスをまず普及させるから色を使ったのはもっと後で、ということで、被せガラスの切子グラスは世間にはまだお目見えしないのだが、俺が作る分にはお目こぼしをされている。
色被せガラスを作れるのが現状俺だけで、俺もまだ、作り切ってはいないのだ。
少しづつ少しづつ、慎重に線を入れている。
揺らぐ透明感のある赤を活かせるデザインにしたい。
霊峰とサラマンダーラヴァ。それに矢来文様をグラスの底から刻み入れて重ねる。グラスの底にはサンドブラストでルヴェールの家紋を入れた。
夕焼けに染まる空をラヴァが泳いでるようなそんな感じもする。
「ラヴァ、どう?」
(僕? 僕?)
「わかってくれた? ここが霊峰で、これがラヴァ」
(すごい! 綺麗!)
「ありがとう!」
「そんなわけで、ラヴァのグラス作ってみました」
「ああ、わかっていたよ。作ってるのはな!」
おなじ模様で六客作ってみた。ちょっとずつ違うのは仕方ない。
「すごくいい色だな。ラヴァの色その物みたいだ。これで酒を飲んだらうまそうだ」
「大きい氷入れて蒸留酒を入れたら美味しいと思うよ!」
あ、師匠の目が疑わしい目になった。
「僕、お酒飲んだことないよ?」
「成人してからだぞ。これも取り敢えず奉納するか?」
精霊教会へ?
「あ、そうだね! 一つだけ手元にあればいいよ。ラヴァのだから」
(僕の! グラス!)
(まあ、私のグラスはないのかしら?)
「カルヴァの? そうだなあ? 今度作ってみる」
「ありがとうな。ルオ」
師匠がすまなそうに言う。
「全然かまわないよ! 師匠のとペアカップにするよ!」
「お、おう? ペア?」
「同じカップが二つ」
「あ、そういう意味か?」
「カルヴァだともっとピンクっぽい色がいいね」
(そう?)
「髪は白だし、目は金色だけど、羽がピンクだからピンクのイメージなんだよね」
リンゴだと赤だけど、ラヴァと色が被るし! 青リンゴだとイメージが違うしね。
「楽しみにしてるよ。でも、このグラスのことは内緒だぞ」
「内緒」
「あ、でも、この書類にサインを……」
また師匠が書類を持ってきた。
「師匠?」
「他のところから出されたらまずいからな。ガラスの彫刻技法とでも出願しておく。あの機械もな」
あ、特許関係か……。
「色ガラスの方も出すが……とりあえずガラスペンの献上と量産体制が整ってからだな。その時ついでに出せば目立つまい」
あ、師匠、手が胃に?
「絶対にタダ働きはしないようにするんだ」
師匠、過去に何かあったの?
師匠は書類を文書箱に納めてから一息つく。
「素晴らしい品を作ったな。ルオにはいつも驚かされる。いい方向にだぞ?」
ぐしゃぐしゃっと髪を乱された。
えへへ。嬉しい。
もっともっとガラスを作りたいな。いろんな作品を。
「僕、頑張る!」
「ほ、ほどほどにな?」
やる気を出したのに!
王都の冬は雪が多い傾向になった。時々道が通れなくなって学院を休みになることもしばしばあったが、単位には影響はなく、むしろ、厳しくなっていた。
「講義の時間が減ってるのに単位が変わらないとか、詐欺だ……」
ぶつぶつ言いながら課題とにらめっこしているタビー。
「休みに喜んでついさぼりました」
泣きながら課題をやっているルーンがいる。
俺とアリファーン殿下は二人を見ながら手元の課題を見直している。
「ちゃんとやってこないから、慌てる羽目になるんじゃないのか?」
「殿下、正論、正論だけど!」
羽ペン軸、そんな力入れると折れるよ、ルーン。
放課後、殿下が取ってくれたサロンで、勉強会というか課題消化の時間になっていた。
タビーも、つい気が緩んだそう。
俺は師匠とスピネル、ギードが監視しまくりなので、さぼる余裕はないよ。というかやらないとガラスに手を触れさせてもらえないし。やるしかない。
「春になったら、北の森の調査が再開されるそうだよ。問題が無かったらダンジョンが解放されるらしいんだけど、成績が悪い人たちには公開されないとか噂が……」
アリファーン殿下がそういうとタビーとルーンが課題に必死になった。
アリファーン殿下、さすが。人心掌握術に長けている。
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