第102話 師匠は大忙し!
「着いたー!」
師匠の屋敷に着いた馬車からさっそく飛び出した俺は両手を突き上げて伸びをした。
うーん、子供だからそんなにこらないんだけど、同じ姿勢でずっといると固まっちゃうよね。
(どこに作る?)
水の精霊の催促が!
「あ、うん。工房の裏手にしようか」
師匠がスンと顔になって、案内する。
んん? なんかお屋敷がリフォームされてる気がする。
お風呂を作るとは聞いたけれど、全体的にこう……あと見えてきた工房もなにやらめっちゃ綺麗になってるんだけど!
「……あー……」
師匠が呆然としている。
「俺、こんなに手を入れろとは言ってないんだが……」
ぶつぶつ言いつつも、工房の裏手にやってきた。屋敷の壁と工房の壁と塀と厩で囲まれた裏庭だ。厩の手前は屋敷へ向かう道と通用門がある。商人とかの受け入れもこっちを使う。
「よし、この場所の真ん中に泉を作ってくれ。あとで井戸に見せかける」
「噴水とかでもいいんじゃないかな?」
「噴水なら正門の方の花園にないとおかしくないか?」
「でも小さな噴水にしておくとかえって祝福の泉だって気づかれないかも?」
「……とりあえず、ここに作ってもらえるだろうか?」
師匠は結界を張ると外からの視線と音を遮断した。
(わかった。ここも温泉は出ない)
水の精霊が指を差すとそこから水が湧き出てきた。師匠と俺で回りを岩で囲う。
(よし。いい仕事した)
「お菓子があるからこれを!」
インベントリにあったとっておきの焼き菓子を渡した。
(……! 気が利く。ルオはいい子)
一瞬、金の粒が俺と師匠に降り注いだ。
(また、頼むといい)
水の精霊が消えた。
(ルヴェールへ帰っていったわよ)
(忙しい)
「行っちゃった」
師匠が結界を解除した。
「あとはまた、工事を頼むとするか」
「もう、建築工房の人来ないのかな? 来たら追加で頼めるのに」
「そうだな」
「旦那様!」
スピネルの声だ。
「お二人とも、到着なさったらまずは中に……」
スピネルの視線が泉に釘付けだ。
「旦那様、これはいったいどういうわけで?」
「水の精霊が祝福してくれたんだ」
「ご冗談を言っている場合ではございません」
ほんとなのになあ。
「本当だっての。水が湧いたから、もったいないからとりあえず岩で囲ったんだ。あとで、ちゃんとした施設にする。建築工房はもうルヴェールへ帰ったのか?」
「確認の印をいただきたいと、戻り次第連絡をすることになっています」
「わかった。追加の仕事を頼みたい旨、手紙に書くから渡してくれ」
「かしこまりました。ルヴェール子爵ご一行はあと二、三日でこちらへ到着される予定です」
「わかったありがとう」
「では、お部屋に」
「はい!」
スピネルの案内で部屋に向かった。
お風呂、まだ入れないのかな? スピネルに聞いてみた。
「最終確認をしてから使ってほしいとおっしゃってました。それからになりますね」
「わかった。楽しみに待つことにする」
「すぐですよ」
「うん」
クリーンの魔法で埃を落として、部屋着に着替えて、ベッドにダイブ。
馬車の旅は疲れるね。
(主休む?)
「うん。ちょっと休ませて」
そうして俺は夕食までの時間、ベッドで熟睡した。
夕食に師匠が来なかった。
「先に食べていて欲しいとの伝言です」
スピネルに言われて一人で食べた。なんとなく味気ない食事だった。味はすっごく美味しいのに。
師匠も疲れたのかな? もういい年だからなあ。
「ルオ様。貴族学院の試験日は一週間後です。試験内容をおさらいするように旦那様から承りました」
翌朝、スピネルからそう言われた。
ドンと積まれた資料。
なんでも昔、師匠が貴族学院時代に使っていたものなんだとか。
パラパラとめくったら、師匠の字で書き込みがあった。
「へえ……」
師匠も同じ学校で勉強してたんだなあ。どんな生徒だったんだろう。
「では、テストをしますよ」
それからはひたすら、テストだった。
そして、テストに飽きたころはっとした。今日で丸二日、師匠に会ってない。
あれ? 同じ屋敷にいるのに全然会わないってどういうこと?
「スピネル、師匠と全然会ってないけど、師匠なにしてるの?」
「領政のお仕事でございます」
お仕事か~また隈作ってるのかな?
「お仕事じゃ仕方ないね」
「そうでございますとも」
俺が貴族学院の入学試験のおさらいをしてる間に、お風呂の確認、泉の設備建築の件は片付いていた。
「お風呂~!」
なんと! お風呂は各階に二つ付いていた! 男女別だそう。
普通の一人用のバスタブにシャワーだけのシンプルなバスルーム。ユニットバスに近い形にほっとした。
魔石に手を触れるとお湯が出てきてバスタブにお湯がたまる仕組み。
シャワーも魔石に手を触れるとお湯が出る。
「便利!」
この魔石でお湯と水が出る仕組みは師匠が考案して、特許を取っている。
師匠すごいなあ。
魔法付与の仕組みが複雑でなかなかコンパクトにできなかったらしい。
それを小さな魔石でも使用に耐えられるように改造したのが師匠だ。
お湯に浸かりながら、そんなことを考えた。
石鹸がいまいちだった。多分これは高いだろうと思うけど、髪を洗うのには適してなかった。ルヴェールではいい匂いの石鹸だったのにな。
石鹸も作ろうかなあ?
あがって着替えて出ようとしたら師匠に会った。
「師匠、お仕事忙しいの?」
「……ああ、忙しいな」
「頑張って!」
「……」
ふらふらと脱衣所で服を脱ぎ始めたが大丈夫かな? スピネルに言っておこう。
「かしこまりました。気をつけておきます」
どうやら師匠は領主のたまりにたまった書類を片付けている最中らしい。
お疲れ様です。師匠。
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