第101話 師匠の領地には無限の可能性が!
新章になります。
あの後師匠はポーションを一気飲みした。
きりっとした顔で何事もなく屋敷に帰った。
師匠と師匠の師匠のことは俺にはわからないけれど、師匠が今の俺にいろいろしてくれてるように、師匠にしてくれたんだろうな。
「もう少し、こちらにいていいでしょうか?」
ラントがそう言いだした。え? アグリも残りたいの?
「そりゃあ、農業指導してくれるのはありがたいが、ルヴェール領に帰らないとまずいんじゃないか?」
師匠が俺を見ながら言う。
「ご領主様が王都からルヴェール領に帰る時には一緒に帰ります」
「ああ、そうだった。また献上品やらなんやらと、こっちに来る予定だったな。王都に屋敷にもうそろそろ来ているはずだ」
そうだった! 両親とイオも王都に来るんだった!
お酒を売り出す前に王様に献上するとか言ってた気がする。
「あとですね。アースが湿原が気になるそうで、そこを調べてもいいでしょうか?」
アースは土精霊の名前だ。すっかり馴染んでる。今もラントの肩に座って足をぶらぶらしている。
「湿原? ああ、あの草原だな。はまらないように気をつけてくれればいい。何かあれば手紙を出すよう、執事に言ってくれればいい」
「ありがとうございます」
(あの、お話し中のところ悪いんだけど、水の精霊が待ちくたびれてるんだけど)
「水の精霊?」
片眉の眉尻がぴくっとしてつり上がる。器用な表情をするね、師匠。
「あ、あのー王都の方の屋敷に泉を作って欲しかったんだ。明日帰るから……」
(せっかくだから、この地にも作る。どこがいい? 蜂蜜いっぱいもらってるし)
水の精霊、太っ腹な件。
「え、そりゃあ、作ってくれるならありがたいが……」
師匠が唸る。
(温泉はちょっと難しい。熱いお湯の水源がこの地にはない)
「そうなんだ」
やっぱり霊峰は火山なのかも。
「ではカントリーハウスの裏庭に作って欲しい。こっちだ」
師匠に連れられて裏庭へ。
裏庭は土がむき出しで、均してあるだけで、特に何もしていない。裏庭は森の側なので、領民からも見えない位置だ。その裏庭の真ん中を師匠が示す。
「ここでお願いしたい」
(わかった)
水の精霊が指を指し示すと、前のように水が噴き出てきた。師匠と俺が周りを岩で囲う。
「流す先は河だな。あとで堀を……」
「アースがそれくらいなら自分がやると言ってます」
「え?」
アースが土をキラキラさせると、掘というより水路が出現し、思いのほかすごい速度で伸びていく。
なんかに似てる。
あ、流しそうめん……。
そうめんもいいね! これからめんつゆができる可能性があるからそばもうどんもそうめんもいける!
「なんか嫌な予感がするんだが、何か思いついたら真っ先に俺に相談しろ」
「あ、うん! する! するよ?」
師匠は心も読めるのかな?
「ルオ、お前、口に出てたり、表情に出てたりするからな? いいか? 貴族的表情を身につけろよ?」
「はい!」
「返事はいいんだ。返事は……」
なんか、凄く疲れた声で言わないで!
鑑定したら前と一緒だった。
「やっぱり魔道具と結界設置だな」
ですよね~。
水精霊は満足そうに額を腕で拭うと消えた。
「なんか、めっちゃ、お供えが嬉しいらしい」
「あ~蜂蜜って言ってたな」
(僕、主の魔力が一番好き)
(私もそうかな~あと自分で作ったお酒ね)
ラヴァとカルヴァが主張してきた。
「今夜はちょっとだけ、いい? ちょっとだけ多く吸い取っていいから」
「俺もそうだ。ちょっとだけだからな?」
(わかった!)
(わかったわ! 言ってみるものね)
どうやらラントも約束させられてた。堀作ってくれたから、何かいるかなあ?
「アースは何かご褒美いる?」
(あの、白い石か、貝殻がいいです)
「白い石……石灰石の方かな?」
とりあえず石灰石をインベントリから出す。
(これです!)
「いっぱいあるから、時々あげるね」
「ありがとうございます。すごく喜んでます」
「堀作ってくれるし、畑祝福してくれたし、こっちこそ感謝している。ラントとアグリにもな」
師匠に言われて、ラントもアグリも照れていた。アースも褒められてくねくねしてる。
みんなで屋敷に戻って夕食になった。
師匠は結界やら、なんやらで遅くまでいろいろしていたらしい。
「囲いを作ってもらうようドワーフ工房に頼んだ」
「そっか~すれちがいになるかな?」
「多分な」
師匠がげっそりしている。まさか、限界以上に搾り取られたんじゃ……。
「どうした? じっと見て」
「目の下に隈が……」
「誰のせいだ? 誰の?」
こめかみをぐりぐりされた!
ラントとアグリ、そして領民の方々に見送ってもらった。
すっごく楽しかった!
「また来たいなあ」
「遠いから週末というわけにいかないな。長めの休みになら来れそうだ」
「うん!」
かまぼこの工場はまだできないし、いろいろやることがある。トマトやアイスプラントの結果は長い目で見なきゃいけないし、海の塩を作るのだってこれから。でも。
「師匠の領地には無限の可能性が!」
拳を握って立ち上がったら、肩を強く掴まれた。
「走ってる馬車の中で立ち上がると危ないぞ」
「ごめんなさい」
行儀よく座りなおしたよ。
次の投稿は明日になります。
舞台はルヴェール領から王都ネラーレにある貴族学院に変わります。
新キャラも出ますのでこれからもよろしくお願いします。




