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ガラス工房の錬金術師  作者: 佐倉真稀
間章(二)
103/116

閑話 デュシス侯爵

閑話になります。

デュシス侯爵視点です。

スタンピードの顛末です。


 私はオーア王国の西のデュシス侯爵領を治めている当主のグラン・デュシスだ。父は早めに引退をし、若くして私は当主となった。妻はデルフィーヌ、長男はグザヴィエ、長女はエレーヌ。もう一人くらい男の子が欲しいところだが、仕方ない。二人とも養育係からは優秀と聞いている。我が侯爵家を支えるには問題はないだろう。

 西の貴族家をまとめる立場の侯爵家は寄り親としての義務を持つ。

 寄子への支援など問題がおこれば力を貸さねばならない。


 王国歴二百五十年、王国全体が不作になった。収穫量が減った、魔物が襲って畑がダメになった、病気が流行った等、毎年色々な問題は起こるが、この年は水不足で、枯れた作物が多かった。

 西と南は大河があるので、そこの水量は減ってはなかったが、引きこんでもなぜか土が乾いてしまうのだった。翌年もそれが続き、税を取れば民が飢えるほどになった。

 我が侯爵領は兵站のための備蓄や納められた税(小麦)の倉庫にはまだ余裕があったため、領都の食糧に問題が出ることはなかったが、寄子の一部では餓死者が出たという情報が入った。


「食料を融通して欲しいのは王都もか? 海岸に近い領地はもともと収穫は少ないと聞いているが」

「はい。寄子の各家も、支援を願い出ていますがルヴェール男爵領だけは何も連絡はありません」

「ルヴェール男爵領か、あそこはいつもぎりぎりだと聞いているが大丈夫なのか? 来年も不作になると、我が侯爵領も飢饉になるぞ。備蓄量の確認をしておけ」

「はっ」

 この時の私はルヴェール男爵領とソア子爵領の真の姿がまだ見えてはいなかった。もっと情報を集めていたらと、後悔することになるとは思ってもみなかった。


「火の手が上がっている?」

「はい。夜空が真っ赤になっているとあちこちから報告が」

「どこかの村か? それとも森の大規模火災か何か……」

「いえ、どうも、ソア子爵領の方角で……」

「ソア子爵領? 隣の領とはいえ此処からかなり遠いぞ? それなのに火の手が見える? 派遣部隊を編成して何かあってもすぐ対処できるよう準備させろ」

 すぐに私も武装をして、軍が待機する場所に駆けつけた。


「早馬が来ました! ソア子爵領の急使です!」

 ソア子爵領だと? 

「スタンピードです! ソア子爵領の領都に魔物が押し寄せていて、救援を求めています!」

「間引きを怠ったのか? 何故そんなことに……いや、今更言っても仕方がない! 出来る限り速度重視で向かうぞ! まず騎馬隊、歩兵、兵站はあとからでいい! 出るぞ!」

 なんてことだ。先代の子爵に変わってからいろいろと周りに難癖をつけるようになってはいたが、貴族の義務も怠るようになっていたとは。

 そうだ、隣のルヴェール領はどうなのだ? 近くなのだから被害に遭っているかもしれない。

「誰か! 早馬をルヴェール男爵の元へ走らせろ! 同じように被害に遭っているのなら状況を調べて戻れ! 無事なようなら援軍を頼んで、ソア子爵領領都へ駆けつけるよう願え!」

 簡素な召喚状を書き、封をして渡した。


 ソア子爵領に向かう途中に難民と遭遇した。

 着の身着のままで傷だらけになりながら逃げてきたようだ。

「領境の村に救援を頼め。あとで補填をする。一部隊差し向けて民の受け入れをしろ」

 救援を頼み先を急いだ。途中、魔物の集団に接敵する。

「全滅だ! 取り逃がしたら、我が領も被害にあう! ここで食い止めろ!」

 魔物の群れと衝突してからどのくらい経ったかわからない。群れは断続的にやってきて休憩もままならない。

 これは、長丁場になる。まだ領都にもたどり着いていない。

 魔物の群れは、だんだん強くなっている。

 疲れが出ている者が増えてきた。これはいったん下がって、歩兵と合流した方がいい。

 私が後退の命令を発しようとした時。

「援軍が来ました!」


 横合いからものすごい音がし、魔物が宙に舞う。

 え? 宙に?

「避けろ!」

「危ないぞ!」

 ドドドドという音とともに、大きな魔馬がこちらに向かってくる。鎧姿の武人を乗せてあっという間に近くに来た。

「デュシス侯爵閣下、ゼオライト・ルヴェール、お呼びにより参上いたしました」

 ルヴェール男爵だった。

 こんな威圧感のある人物だったのだろうか?

「ソア子爵領がスタンピードに飲まれたと急使が来た。これから救援に行くところだが手伝ってもらいたい」

「はっ我が領にもソア子爵領からの難民と魔物が散発的にやってきていました。危ないと思ったので閣下宛てに使者を送ったところだったのですが、どうやら入れ違いになったようですね」

「ソア子爵領からの急使が来てすぐに飛び出したからな。そうかもしれん」

「ソア子爵領との境まで間引きに入っていたのですが、こんな規模になるほどに魔物が増えていた様子はなかったのですが」

「それは本当か? では何か違う要因があるかもしれん」

「とにかく、魔物を殲滅しましょう。行きます」

 走り出したルヴェール男爵の魔馬が魔物の群れを跳ね飛ばしたのが見えた。

 なるほど。宙を舞うのは道理だ。

「肉祭りだー!!」

「狩り放題だ!」

 不穏な言葉が聞こえたが、気のせいだろう。


 ルヴェール男爵領軍と合流してからの魔物との戦闘は格段に楽になった。

 ある程度魔物を討伐すると、空白の時間がある。

 それを利用し、拠点づくりと休憩を交代で行えるようになった。

 拠点は放棄された村に作った。村民が取る物も取り敢えず逃げた様子が伺えた。


 終息と原因究明には一か月を要した。ソア子爵領は壊滅状態だった。

 領主館に残っていた無事な資料を押収し、情報の精査を行った。

 魔物の死骸の後始末にはルヴェール男爵領軍が喜々として向かってくれた。

 素材は一つたりとも無駄にはしないと言っていたそうだ。


「閣下、森に入って魔物を討伐していたのですが、ダンジョンがありました」

 ルヴェール男爵が頭痛の種を持ってきた。


次の投稿は12時30分になります。


次話で閑話は終わります。

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