第99話 師匠の領地(四)
「海!」
俺は海岸で両手を広げて叫んでいた!
「あんまり近づくなよ。浅瀬でも魔魚なんかはいるからな」
「ええ? 貝拾いくらいはしようと思ったのに」
「貝を拾ってどうするんだ」
「中味入ってたら食べる。入ってなかったら、肥料にでもする?」
確か肥料にしてた気がするなあ。俺は首を傾げた。
「なんで首傾げてるんだ。それは思いつきか?」
「あとはアクセサリーにするとか、いろいろあるよね?」
「アクセサリー?」
「工夫次第で何でもアクセサリーになるんだよ!」
カメオとかは技術と芸術性が必要だからすぐにはできないけど、貝殻を紐につなげるだけで装飾品になると思うんだけどな。
(主~! なんかいるの)
「ラヴァ、どうしたの?」
(主! ヤな奴がいるのよ!)
「ヤな奴?」
(あっち!)
ラヴァとカルヴァの声が重なって、二人は同じ方向を指さした。
(はあい! やっと気づいてくれたわね)
「師匠! 裸の女の人が!」
「見るな!」
うわ、師匠に目を塞がれた!
岩場の上に紺色の長い髪に水色の肌をした妖艶な美人が片肘ついて手を振っていた。豊満な胸が丸見えだった。
(うふふ。船に乗っている人族の男はよく見ようと身を乗り出すから、この格好は魅力的なのかしら?)
「魔物、じゃないな。海に関する上級の精霊か?」
(ご名答! 私は海の精霊よ。海の神様もいるけれど、私たち海の精霊が海を豊かにしているの)
「そうなんだ! 昆布やワカメはある? カツオはいる? マグロは?」
(ええと?……あら、あなた、王の祝福をいただいてる子なのね。それで何しに来たのかしら? 今この海はいろいろややこしいことになっているのだけど)
「もちろん海産物をゲットしにだよ! 美味しいお魚! 貝! 海藻! そしてにがり! 海は資源の宝庫なんだ!」
(あらあら、食い気ばっかりかしら? 私の頼みをきいてもらえたらその、昆布やワカメを探してもいいわよ? にがりがなにかは知らないけれど)
「ルオ、迂闊に取引するな。海の精霊は人を海に引きずり込むって話だ。俺はこの地の領主だ。何か問題があれば俺が聞かないといけないだろう」
(この地の領主? 白い髭のおじいちゃんじゃなかったかしら?)
「ずいぶん前に亡くなられた。今は息子の俺が継いでる」
(残念ね。優しい人だったのに)
「……それで、問題とは?」
(瘴気に狂った魔物が暴れてるの。この海岸沿いからあの小さく見える岩場まで、今なにも生き物はいないわ。それではこの湾の海が死んでしまうのよ。それは困るの)
「どんな魔物だ?」
(それはね)
ざばっという大きな音がして腹に響く咆哮が聞こえた。
「ガアアアアアアアアアーーーーー」
「リヴァイアサン!?」
師匠が驚いて俺の目を覆った手を離した。
目の前に巨大な海蛇……いや胴の長い龍がいた。目が黒い霞に覆われて、胴体の所々にも黒い霞が滲み出ているように見えた。
(主!)
ラヴァが俺と同じくらいの大きさに実体化した。その姿のまま、威嚇する。
「ああ、もう。下がってろ、ルオ。ラヴァ、ルオを守ってくれ。あれを討伐すればいいんだな?」
(そうよ。お願い)
「……なるほど、海にいるのに炎属性か。氷でいけるか。アイスフィールド! アイスランス! ブリザード!」
師匠が立て続けに魔法を放った。まず、リヴァイアサンの周囲に氷の領域が展開された。
一瞬動けなくなったリヴァイアサン目がけて氷の槍が何本も立て続けに向かう。ブレスを吐こうというのか、口を開けた瞬間、その口の中にアイスランスが突き刺さった。
攻撃を受けてもがくリヴァイアサンに次々とアイスランスが突き刺さる。突き刺さったところから黒いもやが漏れ出て、血は不思議と流れなかった。
最後のアイスランスが突き刺さるとリヴァイアサンを中心にブリザードが吹き荒れた。
ごうごうと唸って天に伸びる竜巻の中からリヴァイアサンの断末魔が聞こえ、ブリザードが収まった後、巨体が海に崩れ落ちた。
「浄化!」
師匠が聖属性魔法をリヴァイアサンに放つと黒いもやが消えていき、海の中に巨体は沈んでいった。
(ありがとう! 退治してくれて! 浄化も出来るなんてすごいわね! 惚れちゃいそうだわ! さすが領主様ね)
「……あー……」
(主は凄いのよ! 私の主だからね!)
(僕、せっかく大きくなったのに)
「海の精霊さん! 昆布とワカメ! それにカツオにマグロは!?」
「待て待て待て! 魔物討伐の処理が先だ!」
(あら、じゃあ、落ち着いたころにまた来るわね!)
パシャン! と水音を立てて海の中に海の精霊は消えていった。
それから大騒ぎになって、リヴァイアサンの遺骸を引き上げたり、瘴気が残ってないか確認したり。冒険者がやって来たり、大変だった。師匠が。
騒ぎが収まるまで、一週間もかかったが、リヴァイアサンの素材が相当良い値で売れたので、師匠は上機嫌だった。
師匠すごかったな。錬金術が凄いのかと思っていたら、魔法も凄かった。そうだよなあ。賢者だものな。魔法神の加護があるって言ってたし。
同じ全属性の魔法を使えるのに凄く差がある。俺ももっと魔法の修行しないとダメだ。
なにもできなかったんだ。 ラヴァに庇われて、師匠にやっつけてもらって。
俺も強くならなきゃな。
(主? なにか、悲しいの?)
「ああ、違うんだ。考えごとしてたから」
そうだ。リヴァイアサンも呼び出したりできるのだろうか? ガラスに描けば。
(待ちくたびれたわ)
「色々後始末をしたら、こうなった。人間はしがらみがあるんだよ」
「海に、生き物は戻ったの?」
海の精霊に聞いた。だって湾に生き物いなかったら、この漁村、廃村になるもの!
(半分くらいは戻ったわ。前の状態に戻るにはもっと時間がかかるけど)
今日の海の精霊はちゃんと服を纏っていた。
「昆布とワカメ……」
(どれがそうだかわからなかったから、色々採ってきたわ)
どさっと岩場にぶちまけられた、海藻の数々。あ、天草があった。
「ありがとう!」
「これ何するんだ?」
「お楽しみだよ!」
出汁! わかめの味噌汁!
それから湾に魚が戻って、漁に出た船がたくさんの魚を積んで戻ってきた。
びちびち跳ねる魚を見て俺は鑑定を発動。
「それとこれと、これ!」
「わかった。買おう」
師匠が漁師に払ってくれて、俺は魚をインベントリに仕舞った。色々魚を買いあさった翌日、領主の館に戻った。
次の投稿は18時になります。
海の精霊さんはお色気担当で出しました。
色っぽいお姉さんを想像していただければと思います。
海藻類は名前がついてないことも多いのでルオがまた名付けしてしまったかもしれませんね。




