第98話 師匠の領地(三)
ええ、契約したいから仲介してという副音声が聞こえたんだけど気のせいかな?
「ラント、足元になんかいると思うんだけどわかる?」
「足元ですか?」
「そう、ちょっとじっと見て」
「ミミズですかね?」
アグリがしゃがみこんで、じっと見つめる。
「それなら土に期待ができそうだな」
ラントもしゃがみこんで土を見つめると、その手にそっと土精霊の手が伸びた。
(気付いて。僕、君と契約したい)
ぶわっと金の粒が土精霊から放たれて、ラントに降りかかる。
「え?」
ラントと土精霊の視線があった気がした。
それから何か会話をしていてラントが倒れ込んだ。
「ラント!?」
俺とアグリが同時に声をあげた。
「どうした!?」
師匠と錬金術師がこっちへ駆けてきた。
(無事契約できた~! 記念にこの畑も祝福しちゃう!)
またぶわっと金色の光が畑一面に降り注いだ。
師匠もそれは見えたようで、土精霊をガン見していた。
そしてアグリの足元にも小さい土精霊がまとわりついていた。その内アグリも契約したりするかもしれない。
「どうしたんですか? 大丈夫ですか?」
おろおろしている錬金術師に誰か状況を説明してあげて!
その日は結局ラントが倒れたために全員で戻った。
「錬金術師はルヴェールで引き取ろう」
「はい?」
「なんのしがらみのない、無垢で若い錬金術師だ。いくらでも働かせそうじゃないか?」
「師匠、めっちゃ悪い顔になってるよ」
「コホン。いや、俺の鏡作製の時間が膨大になるスケジュールなんだ。そこを彼にやってもらおうと思ってだな」
「なるほど」
「なんだ、そのジト目は! 他にやることもいっぱいあるんだぞ。そもそも俺の仕事が膨れている原因のほとんどは、ルオ、お前なんだが」
「てへ」
「可愛く取り繕ったって、誤魔化されないからな」
「え、でも彼、塩分取り除く仕事でしょ? それは大丈夫なの?」
「ルオ、そのことについて何かあるんだろう?」
「んー?」
「視線そらしたって誤魔化されないぞ」
「それは、三か月くらいしないと結果が出ないかなあ? でも、すぐ出ちゃいそうな気もしないけど……」
「あ、ああ……」
祝福されちゃうと全く違う挙動になるからデータとれなさそうなんだけどな。でも、ルヴェール全体があれなら、ここもそうなれば、塩害とか関係なくなると思うけど。
「わかった。報告だけはしなさい。それから漁村には明日行くことにしよう。畑はラントとアグリに任せればいいんだろう? うちの騎士もつけて領民には代官から説明させよう」
「はい!」
ラントは翌朝まで寝ていて、朝見たらすっきりした顔をしていた。
そして肩には土精霊が乗っていた。アグリには下級~中級の土精霊が足元にいたりする。
(主、精霊増えた)
「そ、そうなんだ」
いやー目に見えて増えてるけどね。うん。
畑は錬金術師、チャロと、アグリに任せて俺と師匠は漁村へ。領内ということで騎士は一人だ。それに御者役の兵士が一人。
半日ほど馬車に揺られていると、潮の匂いがした。
「気付いたか? 海の匂いだ」
「海の匂い! もう海が見えるの?」
「まだ、街道沿いだからな。漁村が見えてくれば、その向こうに海が見えるぞ」
そう言って、窓の隙間から景色を覗く。ルーバー窓の隙間からだんだんと漁村の家々が見え、魚の匂いがしてくる。その向こうに水平線が見えた。
海だ!
漁村の家の軒下に魚が吊るされていて、干し魚を作っているのだなと思う。
東の海だから夕焼けは見えないけれど、空が赤く染まっていく。
「今日は村長の家に泊まることになっている」
「はい」
村の入口に着くと村人が総出で出迎えていた。
その中で村長と思しき人物が馬車から降りた俺たちに挨拶をした。
「ようこそおいでいただきました」
「うむ。よろしく頼む」
村長の家に先導されていくと周りの建物よりは立派で大きい。部屋数があまりないとのことで、俺と師匠は一緒の部屋に。御者と騎士は交代で馬車で寝て起きている時は見張りだそうだ。
そして漁村の素朴な夕食をいただいて眠りについた。
(あなたたち、誰?)
(どうしてここにきたの?)
(悪い人?)
(何言ってるの? あなたたちこそ誰よ?)
(僕悪くない)
寝てる間に何か声が聞こえたが、俺は朝起きると忘れてしまっていた。
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