最終話 ロハスな日々
今夜は暑くなりそうだ。
ノースエンドの更に北の果てにある〈冥府の揺籃〉の魔王城で、賢者カルテタバルが企てたアースヴァルト大陸の破壊活動を防いで5年が経った。
私、アルコは新生魔王軍に所属しており、昔お世話になった暗黒谷の奈落の門で門番をしている。
まあ、魔王軍といっても品行方正で下手したらタイタル聖王国以外のどの国よりもまともな国政をしているんじゃないかと思う。
新しい魔王は、アーテ……勇者アーバンテインの元でみっちり鍛えられたトリことイースタンが玉座に座りノースエンドを治めている。先々代の魔王と同じく人間側としてはとてもいい世の中であることには変わりはない。
イースタンは魔王城の監獄にドライグを捕らえており、半永久的に監視下に置かれる予定。もう一人の四天王ショウジョウは、このアースヴァルト大陸を出たという噂が何年か前に流れた。
周辺国ともそれなりに今のところ、争いはない。バイナン王国は今でも魔王軍を敵視しているものの、ノースエンドに一番近いピルキコの街の領主、ノートルゼム公ユリウスとは個人的に仲良くさせてもらっていて、ピルキコの街だけは、ノースエンドと交易を行って良好な関係といえる。
そして以前はアースヴァルト大陸でもっとも野心に満ちたシェアローン帝国は、先の顔無しと呼ばれるカルテタバルが異界から召喚した兵達との戦いで一方的に蹂躙されて、ほとんど崩壊していた。まあここまで一方的にやられたのは、以前、帝国領の街、サーモで私が魔導装甲兵を駆動させるために必要な魔導石精製器の破壊と設計図の焼却。極めつけは人間の魂を肉体から切り離し、無人装甲機に魂を定着させる〈魂の剪定計画〉を潰したことが敗因に大きく関わっていたようだ。圧政による支配を何百年と続けてきた帝国の幹部たちは暴徒化した帝国民に復讐されるのを恐れ、大陸の外に逃げてしまったため、政治的な空白が数年間に及んだ。
その荒廃した旧帝国領を国家として、建て直したのは第35代目勇者ロダン。
彼はまだ10代半ばながら、その圧倒的なカリスマと一個兵団が束になっても敵わない最強の武力で、混沌とした旧帝国領に新国家を築きあげ、現在では「オレん家」というなんともロダンらしい国家名を名付け、ノースエンドとも親交が深く、たまにロダン国王がアシュレ王妃を連れだってお忍びでこの奈落の門に遊びにくることがある。
タイタル聖王国は、聖女カタニアの帰還で大いに賑わい、カタニアは女性初の女神教教主兼タイタル聖王国の指導者に就いた。表面的にはなにも変わっていないように見えるが、ボジョル司教派の協力の下、腐敗した教会内部や、幼少期から暗殺者に育て上げる秘密機組織白の天秤の解体など、次に聖都フロリシアを訪れたら、より居心地のよいところに変わっていることを期待している。
白の天秤と言えば、かつて私の命を付け狙って、ノースエンドまで追ってきたカナサとサビラも組織が無くなった後、カタニアに拾われて、今ではふたりとも司祭になったとこの前届いた手紙に書かれていた。
あと第32代目勇者パーティーのふたり、斧鬼ゾゾと岩晶主ソルダル。彼らは南方5国連邦盟主国エスマークの大陸でもっとも深い迷宮の最深部に向かったそうだ。元々ソルダルは最深部で生活していたらしく、ひさしぶりに会ったドワーフのゾゾと意気投合して一緒に潜ったとのこと。「ふぁ~~っ?」としか喋らないソルダルと「コクコク」と「ブンブン」しか意思表示しないゾゾのふたりでやっていけるのか甚だ疑問が残る。
そういえば私は荒野で先々代の魔王様と会う前の記憶が戻った。冥界の男神アザレリウス。神界も女尊男卑の世界が広がっており、基本、女神優位な社会だ。私みたいな陰キャ男神は通常、陽キャな女神たちから相手もされないが、女神フリーエアは違った。かなりの偏食嗜好で私のような初心な男神が大の好物で、神界の新歓コンパの飲み会で神酒をいっぱい飲まされてベロベロに酔ったところをお持ち帰りされてしまった。
現在、彼女はハイビスと魂を同化させて、私のそばにいる。彼女は相手が同じ女神なら激オコするが、人間などこの地上に住まう生き物はすべて自分の所有物という概念をお持ちなので、ハイビスや魔族のエナロッテが私と関係を持っても許容できるらしい。
2柱の神が守る奈落の門を攻めてくる国などおらず平穏な毎日を過ごしている。
この暗黒谷にほど近いところに適度な広さの森があり、そこに小さな小屋を建てて暮らしている。通い門番をしている私は基本3交代制で、私がお休みの時間帯は深淵の騎兵と深淵の歩兵と呼ばれる冥界でいうところの私の部下たちに見張りをお願いしているので、ホワイトな労働環境といえる。
私達の小屋のまわりには、魔法の箱庭内でも大変お世話になった猫型の智獣たちが暮らしており、私たちの身のまわりの世話もやってくれる大変ありがたい存在だ。
智獣や私達が住んでいる森はマルが守ってくれている。私やハイビスが門番で留守にしている時は周辺を巡回してくれるなど警備はバッチリだ。
ノースエンドは、人類の歴史上、ずっと極寒の地として知られていた。だが、5年前、私が男神として復活したと同時に冥界に続いている裂け目〈冥府の揺籃〉から常に噴出していた冷気がピタリと止まった。その理由は意外と単純で、冥界とは死者の魂を受け入れ転生までの間、魂を管理する保護施設なのだが、管理者(私、アルコのこと)が女神の嫉妬で封神されたため、生者を寄せ付けないように自動で発動した安全装置だった。
そのため、ノースエンドの気候が変わり、夏はかなり蒸し暑くなるほど気温が上がるようになった。
「アルコ、待たせたの」
勇者アーバンテイン。
親しみを込めてアーテと呼んでいる私の親友であり、飲み仲間でもある。
彼は人間としては、かなり高齢なはずだが、ピルキコの男娼館では衰えを知らず、連日連夜、彼の虜となった女性が押し寄せ、大変賑わっているそうだ。噂では隣の大陸からもやってくる女性客もいるそうで、その夜に発揮する力を私にすこし譲ってほしいくらいである。
私はというと、毎夜女神と魂が同化したハイビスやエナロッテに襲われて大変だったりする。
少し前にエナロッテが私を蜘蛛糸で縛りあげて宙づりにされたところを二人であちこち攻めるという新しい手法を開発し、私も新たな性癖に目覚めてしまった。
「それじゃ、なんに乾杯しようかの?」
「んーどうしよう?」
じめじめと蒸し暑い熱帯夜の中、隣の大陸で最近流行っている身体を冷やす効果のある麦酒をアーテが持ってきてくれた。
今夜はハイビスもエナロッテも、ノースエンドを上げて開かれる明日から始まる男神と女神の復活祭に向けて小屋の方で作業に忙しい。そのため、誰にも邪魔されずにこうやってアーテとふたり、酒杯を手に朝まで飲み明かすつもりでいる。
「それじゃ、親友と酒が飲める小さな幸せに乾杯でどう?」
「おお、よかろう。では」
「「乾杯!」」
最後までお読みくださり、ありがとうございました!
この作品をもっと多くの方にお届けできればと思いますので、☆1でも2でも大歓迎です。あまりの感激に涙が溢れ、明日は前がぼやけて見えるかもしれません(ぇ)




