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12:真相、そして……

 七人の子供の中にアエラはいない――


 アエラは運よく逃げ出せたのか、もしくは……

 最悪の事態を免れて逃げ出せたとしても、子供が一人でこの森を抜けて戻るのは難しいだろう。

 誰もが口をつぐみ、重苦しい空気が場を支配する。


「……何か勘違いをしているようだけど、私がアエラよ」


 その空気を打破したのは、困惑した表情を浮かべた大人の女性。

 ――そう、彼女は大人だ。年齢が二十代後半であろうエリックさんと大して違わないであろう立派な大人。


「――エリックさんの娘さん――?」

「――ええ、一応」

「どーゆーこと……?」


 それは私にとってはカナタさん以上の、今日一番の衝撃の言葉だった。

 その女性、アエラさんは頬に手を当て小さくため息をつく。


「私の母が……お父様と再婚したから、連れ子である私が娘ということになったしまったの。

 確かに母は恐ろしいぐらいの童顔だから二人が並んでいても違和感はないけれど、私とお父様って歳も同じだし……お父様と言うのすら抵抗が……」

「あー……うん、大変ですね……」

「誘拐犯もちょうど居合わせたルカちゃんを私だと思い込んで誘拐するし、確かに普通は私が娘だなんて思わないわよね」


 アエラさんの言葉にまじまじと彼女を観察する。

 腰まで届く燃えるように赤い髪に少しつり目がちな鶯色の瞳。エリックさんは金髪に紫黒の瞳と色と全く違う色だ。

 顔のつくりも似ているとはいい難く、少し幼い印象を受けるエリックさんに対してアエラさんは美人なお姉さんといったところで、落ち着きがあるアエラさんのほうが年上という印象を受ける。

 実際年齢が一緒だというこの二人のことを、事情を知らない人は親子だとは思わないだろう。

 そしてルカちゃんはエリックさんと同じ金髪だった。


 ……それにしてもあの犯人一味、何だかんだと『クリムゾン』の開放のために準備していたのだから、せめて娘の顔ぐらい調べてから誘拐すればよかったのに。

 ――もしくは教会の人間が動いたことを察知して、急いで計画を実行に移したのか。


 結局ルカちゃんの誘拐を阻止しようとしたアエラさんも一緒に連れ去ったことでエリックさんの娘を誘拐し禁書を奪うという計画は成功したのだが。

 そしてティーンの丘にルカちゃんを連れてきていたのは、本気でルカちゃんがエリックさんの娘だと勘違いしていたからなのだろう。


「……はぁ。そういえばエリックさんはどうなるの?

 いくら娘が誘拐されたとはいえ禁書渡しちゃうとか、普通は責任問われそうな気がするんだけど」

「すみません、父が迷惑な行動して本当にすみません」

「あー……たぶん問題ない。あの人特殊だからな」


 脱力感に襲われつつも、少し気になったことを言葉にしてみる。

 勢いよく立ち上がってペコペコと頭を下げて謝罪するアエラさんに、ちょっぴり涙が零れそうになった。

 ――同い年の父親に本気で娘として溺愛されるなんていろいろと大変だな、と。

 一方答えをくれたのはカナタさんだった。


「特殊ってどういうこと?」

「あの人は祖先に魔族が混じってて、その少し特殊な力が強く発現してる。

 その力が図書館の管理――主に禁書の扱いにとても重要視されているからな」

「それって禁書の力の封印の上書き?」


 特殊な力、と言われて思い当たるのはそれだけだ。

 そんな私の疑問に答えてくれたのはアエラさんだったのだが、その表情には困惑の色が見える。


「ええ、確かに父はそういったことが得意ですが……何故それを?」

「最初にみた封印と、図書館を出るときに受け取ったときと封印が違っていたら。

 よく見てみたら封印自体の構成が違ったからきっとエリックさんが上書きしたんだろうなーって……あれ?」


 脅迫文が届いてから一時間ほどというごくわずかな時間の間に『クリムゾン』により強化した封印を施されていた。

 結局その封印は解かれてしまったのだが、通常そういった封印には多くの道具と時間を必要とするのだ。


 気がつけば、全員が驚いたような顔で私を見つめていた。

 一気にベラベラと喋りすぎて引かれてしまったのだろうかと恐る恐るみんなを見回す。


「……ハルさん、封印の構成が分かるんですか?」

「あー……えっと、目を凝らせば見えます」

「はぁ!?」


 カナタさんが驚きの声を上げる。

 私はアエラさんの言葉でみんなの驚きの理由を理解した。

 何年も一人で旅をしていて、一人で依頼をこなしている間は気にする必要もなかったのでそのことをすっかりと忘れてしまっていた。

 ――普通、呪文の構成なんて見えないし分からないということを。


「俺たちの育った村では力が強い人なら視える・・・んだよ。

 そういう風習の村だからハルだけが視えるわけじゃない。

 カナタ、教会には……」

「報告するわけないだろ、面倒臭い。

 それよりそれは風習とはいわないだろ……」

「アエラさんもコハクも、他言無用でお願いしますね」

「――ええ」

「わかった」


 ヒナの説明にあまり納得はしていない様子の三人だが、この事については黙っていてくれるようでほっと胸を撫で下ろす。無用な厄介ごとは回避できるものなら回避したい。

 ただヒナの説明は少しだけ真実と違っていた。確かに村には構成をなんとなく把握できる人間はちらほらと存在するが、私のように視える人間は他にいない。

 私もヒナと同じで村の中では少々特殊な存在だったのだ。


「そろそろ夜が明ける」


 コハクさんが洞窟の出口のほうを見つめ呟くと、カナタさんはその言葉に頷いてカツラを外して立ち上がった。


「俺たちはコレを早く教会に持って戻らないといけないからな。

 子供たちとアエラさんはハルとヒナタ、二人に任せる」

「ごめんね、ハル。できれば一緒に街まで戻りたかったんだけど……」


 カナタさんの言うコレというのは『クリムゾン』の残骸。

 破壊されはしたけれどまだ瘴気をだすそれは確かにはやく教会で処分してもらったほうがいいだろう。そしてそれが本来のカナタさんとコハクさんの任務なのだろうから。


「街まで戻るだけだから大丈夫。

 二人とも一緒に来てくれてありがとう。本当にすごく助けられちゃったし、ね」


 二人がいなかったら私やヒナはともかく、アエラさんや子供たちがどうなっていたかわからない。

 利用されてはいたけれど、本当に感謝はしている。それは本心だ。

 私の言葉にカナタさんとコハクさんはにっこりと微笑む。


「そうそう、ハルに言っておく事があるんだ」

「……うん、俺も」

「何?」


 私のすぐ隣へとやってきた二人は内緒話をするように同時に腰を折り、私の左右の耳元へとそれぞれ顔を近づける。

 聞かれたくない話なのかもしれないが左右で同時に話されたら聞き取れる自信はないな、などとぼんやり考えていた私の耳に聞こえた音は……


 ――ちゅっ。


「……え?」


 左右の耳にほぼ同時に聞こえたのはリップ音。

 そして右耳にはカリッと軽く甘い刺激。


 慌てて身を引いて立ち上がると椅子はがたりと音を立てて倒れたが、そんなことに構う余裕などなく熱を持つ両耳を押さえて二人を交互に見やる。


 右に立つカナタさんはにっと微笑みを浮かべ、左に立つコハクさんは目を伏せすこし躊躇いがちに。


「ハル、やっぱりヒナじゃなくて俺のところに来いよ」

「……俺も……ハルがいてくれたら嬉しい……」


 片や自信に満ちた表情で、片や恋する乙女のように頬を染めて。

 向かいでヒナが笑顔のままこちらを見ているが、纏う空気が何だか黒い。


「はは、返事は急がないからな」

「それじゃあまたね、ハル」


 呆然とする私に二人はそれぞれ笑顔を浮かべ、そう言うとさっさとこの場を後にした。

 私もヒナもアエラさんも、誰もが無言で二人を見送る。

 その時くいと服を引っ張られ振り返ると、先ほどの音で目が覚めたらしい子供の一人が私の服の裾を握り締めながらキラキラとした瞳で見上げていた。


「おねーちゃんモテるんだね! あのおにーさんたちのどっちを選ぶの?」

「違うよ。そのおねーちゃんはおにーちゃんと結婚するからね」

「うわぁ、おねーちゃんすごい!」


 ヒナの追い討ちと子供の反応に私は額をごつごつとした冷たい壁に当て、ここ数日の災難を呪った。


くだらないオチで申し訳ないです。


何故かカナタとコハクにも気に入られたハルですが、その理由はまた後日に。

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