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4月3日

第二話です。

ではどうぞ。

始業式が始まった。

誰もいない家だから「いってきます」と言う必要がない。


冬とは違って日が昇るのがやけに早い。

玄関には青白い光が差し込んでいる。

ボクは眠い目をこすりながら家を出た。



風が強い。

眼の前には鬱陶しいほど桜の花びらが舞っている。

学校まで行くにつれて同じ制服の人が増える。

笑い声が増える。


登校中はなぜかずっと神経が張り詰めているのが、自分にもわかる。



早く一人になりたい。



靴箱にはクラス発表で人だかりができている。

家には話し声がないから、余計に耳がやられそう。



ボクは玄関の人だかりがなくなるまで校門近くの木陰に座った。

涼しい風があたりを満たす。

ボクは去年何があったっけ……と高校1年生のころを思い出してみた。でも



……何も思い浮かばない。



いや、過去を思い出すのはやめよう。




そろそろ人混みが収まりそうだ。

そっと立ち上がり、玄関に向かう。


ボクは文系を選択した。

理系がだめな訳では無いけれど、理系の人には苦手な人が多い気がする。

将来のためだとか、そんな深い理由はない。

そんな気がするだけだ。


よくわからないけど心臓が少し高鳴っているのがわかる。


遠目からクラス名簿を確認する。

……あった。1組32番。

ボクはおそるおそる教室に入った。

席は窓際ならなんでもいい。


最悪の一番前だ。

ボクは気持ちが一気に重くなるのを感じた。


どうせ話さないから、班員とか先生とかはどうでもいい。

せめて席だけは良くなりたかった。


もうどうでもいいや。

今年もいつも通り、休憩時間に小説を書こう。



『騒音』


気晴らしに外に出る。

人の話し声、笑い声、泣き声、怒鳴り声。

耳にするだけで、鬱陶しい。

それらの声は私にとって雑音に過ぎないのだから。

でもその雑音が、輝いて見えるのはなぜ?

その人達の人生が幸せそうに見えるのはなぜ?

私は急に、耳を塞ぎたくなった。

気づけば眼の縁から顎にかけて一筋の涙が滑り落ちた。



一連のオリエンテーションが終わった。長かった。

しかし、担任の先生から思いも寄らないことが告げられる。

「えーと、今の席ですがこれは仮に並んでもらっただけとなります。ということで今から本当の席決めを行います」


辺りがざわついた。そういう反応がいちいちうるさい。

でもまだ窓際になるチャンスがあるというだけだ。

ボクの気持ちは少し軽くなった。


ボクの引く順番が回ってくる。こういうのは手に触れたものをすぐに取ったほうが時間がかからずにすむ。

大きい付箋をさりげなく開く。


「40」


やった! 教室の一番端、掃除ロッカーの前、そして安定の窓際!

ボクの考える最高の席だ。

他の人は「前のほうがよかった」という人がほとんどの中、ボクはひとりで喜んだ。


喜びも束の間、ボクは何か異様な視線を感じ取った。

空気で分かる。これは確実に睨まれている。

恐る恐る目だけを合わせてみる。

目があった。

やっぱりこちらを見ている。怖い。

すぐに目を逸らす。


「ねー」

「な、なんですか?」

どうしよう、赤の他人と話したのはいつぶりか、話し方がわからない。


「お前、名前は?」

「えっ、あ、灰原……碧……です」

「ふーん、俺は時雨鴇。席の番号は?」

「……40です」

「あ、俺隣だ。じゃあこれからよろしくな」

「え、は、はい」


見てわかる。

すごく体育会系の陽キャ……。

少し苦手なタイプだ。自分とは違う類の人間だからしょうがない。

小説を書くのを邪魔をされなきゃいいんだけど。


「ねえ、お前、俺のこと知ってる?」

「いえ……全く」

「ふーん、そうか」

こういう陽キャはどうせ、ずっと影で暮らしてきたボクみたいな人間は、視界にも入らないだろう。

―――ボクもそれは一緒だから。

まあ、別に気にすることはない。



窓からさすまっすぐとした光。それが時雨という生徒を照らしている。

時雨から見たら、ボクは逆光のせいで暗く見えるのだろうか。


そういえば……さっきから女子たちの視線がボクに集まっている。

それも、優しい視線ではなく心なしに、冷たい。


視線って何か、怖いものがある。

頭の中がぐるぐるする。気持ちが悪い。



―――――怖い。



その衝動に駆られて休憩時間になった途端、ボクは紙とペンを握りしめ、真っ先に教室を出た。心臓が激しく鳴っている。


中庭のベンチに座っていた。

さっきの空気と比べれば、少しは楽になった。

深く呼吸をする。

清々しい空気がボクの肺の中を通る。

紙をベンチに広げ、ペンを握る。



『視線』


彼を失ったあの日から、私はずっと彼に見られている気がした。

張り付くような、痛く、冷たく、なにか尖ったもので体を刺されている錯覚に陥る。

私は独りになって、自由になったはずだった。

なのに、なぜ? なぜ私を自由にしてくれないの?

なぜ、私はこんな光一つ入らない闇の中に閉じ込められているの?

今日も彼のお気に入りのネックレスをつけて街を徘徊する。

空はいたって綺麗でもない。むしろ雨でも降りそうな灰色の雲が広がっている。

今はもういない彼の視線。

思い出を抱え、、、





「お前、なにしてんの?」





背後から声をかけられ、体がビクッとした。

振り返ると、時雨という生徒が立っていた。

しまった、邪魔された。

慌てて書いていた小説を隠す。



あまり顔をじっくり見ていなかったが、今見てみると思ったより、整った顔立ちをしている。ますます緊張してきた。



身長は170を余裕で超え、茶色がかった髪をセンター分けにし、少し大きめの瞳、鼻筋は高く、日によく焼けた浅黒い肌をしている。

こういう顔はイケメンという部類に入るのだろう。ただの問題児ではなさそうだ。

……なんて分析している場合ではない。会話を続けなければ。



「な、なんでここにいるんですか?」

緊張より小説を書く邪魔をされた怒りのほうが大きく、声が震える。

「いや、教室を出ていった時、すごい青ざめた顔してたからな。なにかあるんじゃないかと思って探してたら、ここにいた。ただそれだけ」

ボクなんかを心配するなんて。ボクにとってはストーカーでしかないのに。やっぱり問題児なのか?



「じゅ、授業は? サボっちゃダメだと思いますけど」

「あ? お前もサボってんだから同類だろ」

「屁理屈……」

「なんか言ったか?」

「ナンデモアリマセン」

っていうかなんでしれっとボクの隣に座っているのかがわからない。


「で、なにしてたんだ? さっきなにか隠してただろ。見せろ」

「い、嫌ですよ」

「ほら」

「無理です」

「少しだけ……」

「絶対ダメです」


頼んでもめげないボクに、少し不貞腐れた顔をしていた時雨だったが、ボクが背中を向けている方向を指さして、「あっ」と呟く。

反射的に時雨が指を指した方向に眼を向けたその拍子に紙を取られてしまった。


ず、ずるい。あまりにも卑怯だ。


「か、返してください!」

「嫌だね」

取り返そうと思ったが、背があまりにも違いすぎるため、紙が取れない。


「なあ、これって小説?」

「そうですけど、なにか?!」

取り返すのに必死で、言葉が強くなってしまった。

「お前、何部?」

「き、帰宅部ですけど?」

ボクがそう言うと、時雨はニヤッと笑った。




「なあ、お前文芸部に入らね?」




「は?」




「帰宅部なら都合がいいよ。文芸部に入れ。そうすればこの小説返してやる」

「そ、そんな脅しは効きませんよ」

「脅しと思わねえならやってみるか?」

とヒラヒラと紙を揺らし、フッと笑う。


その表情を見て、これは冗談ではないことがわかった。

奥が暗く、何を考えているかわからない瞳。その瞳に一瞬恐怖した。



「……した」

「なんて?」

「わかりました!! 文芸部に入ります!!! その代わり絶対小説返してくださいね?」

「おう、俺は約束を絶対守る男だからな」

その台詞は大体約束を守らないやつが言う事なんだけど。

と心で思ったが、彼を逆撫でする危険性があるため、口を紡ぐ。



「ちなみに……文芸部って、なにする部活なんですか…?」

「は? 小説を書く部活に決まってんだろ?」



こうして私は勢いに飲まれ、文芸部に入ることになってしまった。

家に帰宅した。すぐにベットに潜り込む。

「……疲れた」

体力的にかなり削られていたようだ。


今日という一日だけで、ここ2、3年間のイベントが発生したとは。

これは何かの罰なのか。仕打ちが重すぎる。


それにしても、ボクにこんなに絡んでくるアイツは一体何者なんだろう。

ベットにうつ伏せになり、頭を枕に埋める。そしてアイツとの会話を思い出す。



「……本当に、変な人だな」



ボクはベットから起き上がり、家にある紙切れに小説の続きを書く。



『明日』

ふと、この街から出て暮らすことにした。

少しでも過去の傷から逃げるために。

そう思い、部屋の片付けを始めた。

引き出しを開け、彼が好きだったネックレスを見つける。

明日からはきっと、目まぐるしい日々が訪れるだろう。

悲しみも、苦しみも、きっとやってくる。


眼をつむり彼との思い出を巡らす。

幸せな毎日の中、ただ私達だけがいた。

急に離れるって、本当に意地悪だなあって。

でも、仕方がなかったんだ。

寂しいけど、明日は必ずやってくる。

零れそうになる涙を我慢して私は部屋の片付けの続きを始めた。    



アイツから小説が帰ってきたら、書き写しておこう。

ボクはそのまま眠りについてしまった。


第二話どうでしたか。

「続きが読みたいな」と思った方は是非ブックマーク、評価ポイント、リアクションよろしくお願いします。

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