第270話 最下層にて見る
「蟻の一族がダンジョン内の一族をまとめ上げ、アドバースを打ち取りました。しかし、蟻の一族は他種族への攻撃を開始しました。」
ザラキエルが俺の前に膝をつきそう進言してきた。
「あぁ、今見てる。」
もちろん俺はこのイベントを見逃さずに見ている。
そして、今も目の前に、ザラキエルの後ろにその映像が大きく映し出されている。
ちょっとザラキエルが邪魔だ。言わないけど。
「何の用ですか?あなたを呼んだ覚えはありませんが?」
隣に控えているアステリアがそう言った。
そして俺が邪魔だと思っていると察してザラキエルに端に寄れと手でジェスチャーを送る。
「し、失礼しました!…この戦いは無益な戦いのように思えます。兵を率いて止めさせていただく許可を頂きたいのです。」
ザラキエルは急いで端に寄って再度、膝をつき俺にそう懇願してきた。
「なんでだ?これはただの生存競争だろう?」
この戦いを止める必要性を俺は感じない。
「しかし、これでは一方的な虐殺です!それにダンジョン内の秩序も!彼らも知能を持つ高次な生物です。蟻の行いはあまりにも…!」
ザラキエルはそう必死に懇願する。
「あははっ!なにを言っているんだ。これは立派な競争だ!虐殺?無益な戦い?秩序の乱れ?お前は本当にそう思ってるのか?」
俺はそう言って笑った。
「…どういうことでしょうか?」
ザラキエルはよくわからずにいる。
「他の一族のことをなめすぎだ。彼らもまた強かに生きている。そして、これは地上を目指す蟻にとって必要な戦いだ。」
俺はそう言って必死に蟻の包囲を抜けるために奮戦している彼らを見る。
「それにこれは我らが介入する案件ではありません。それに私を介さずにマスターに直訴するなど…弁えなさい、ザラキエル。」
アステリアがそう言ってザラキエルに叱責する。
「も、申し訳ありません!」
ザラキエルはそう言った頭をさらに深く下げる。
まぁ、アステリアが俺のそばにずっといるから相談する隙がなかったんだろうなぁ。パンドラとは折り合いが悪いし、AG-02は関係性が薄そうだしな。それにAG-02は俺とアステリアがダンジョンの仕事をそっちのけでここで鑑賞会をしているから凄まじい皺寄せがきていて忙しい。相談に乗る暇もないだろう。俺はいつも仕事はしていないが。
「まぁまぁ、ザラキエルもこうやって相談しにきてくれてるんだ。別に悪いことじゃない。」
それにザラキエルの善性を強く作った俺の責任でもあるしな。
でも、これは本当に蟻のワンマンゲームってわけでも、無用な戦いってわけじゃないんだ。
確かに蟻は一緒に戦った一族たちを襲った。どっからどう見ても悪者だ。
だけど、蟻は地上への進出が今の目標だ。一応バーバルのゲートもあるが、地上への入り口として小さい。さらに出入りするのにもダンジョンの入り口の方が最適だ。そして、出入りをバーバルに依存してしまうのが1番な懸念だ。
バーバルも蟻の出入りを自分に依存させることが1番の蟻に対しての最強のカードなのだから。だから、蟻の入り口を押さえているバーバルはこれから蟻の力を存分に使うことができる。
バーバルもやっぱり曲者だ。簡単に蟻がダンジョンから出てこれないことをわかっている。ダンジョンを冒険者と一緒にゆっくりと攻略して行き、黒牛の一族との対面も果たした。蟻や蜘蛛のようなモンスターの軍団があることを確認できたのだ。
バーバルは得た情報を整理して蟻の一族が簡単にはダンジョンに出られないことがわかった。
そして、それはバーバルの蟻に対して最大の外交のカードとなる。
バーバルはもしも三大王との戦いが終わったあと、蟻が自分を裏切ろうものならゲートを閉じて蟻を封印するつもりなのだろう。
まぁ、そういうバーバルの考えをクルアは見抜いている。
だから、クルアは抑えたいのだ、ダンジョンの出入り口を。
逆にここで他の族長を逃して仕舞えば蟻の強さを知った他種族は対策を取らせてしまう。特に蛾の族長 プシュケーは蟻に大きな疑念を抱いていた。
クルアはここで他種族の族長を一網打尽にしておきたいのだ。
蟻はここで他の族長たちを討ち取らなければ何十層に及ぶ他種族の防衛ラインを突破して地上を目指さなくてはなるのだ。
彼らの腹の中を覗くとそう言った駆け引きや考え、調略がある。
ほらな?蟻の一族のこの暴挙が暴挙ではなく必要な戦いであるとわかるだろう?そして、逆に逃して仕舞えば蟻の一族が逆にどうしようもなくなる。
クルアが他の一族に協力を求めなければ、他の一族は蟻の一族の存在を知らず、協調もできずに滅ぼされただろう。しかし!蟻の一族も他の一族の助力なくしてアドバースには勝てなかった。
あははっ!やっぱり面白い!
「アステリア、あとでしっかりとザラキエルにこの戦いがどういうものなのか、なぜ俺たちが介入してはいけない戦いなのか、蟻たちの、いやクルアの思惑やバーバルの外交のことをザラキエルに教えておくように。」
「申し訳ありません。承知しました、しっかりと教育しておきます。」
「えっ?なぜここにバーバルが出てくるのですか?」
やっぱりザラキエルは何もわかってなさそうだな。
「ザラキエルー。ちゃんと戦いの背景を読み取って動かないといつか大火傷するよー?こんなこともわからないのー?バカなのー?あー、バカだったね!あははっ!主様、私が彼女を教育しますのでご安心ください!」
玉座の間の扉の前で聞き耳を立てていたパンドラが扉を開けてズカズカと入ってきてザラキエルの耳元で大きな声でそう言った。
そして、満面の笑みで俺にそう言ってくる。
「…マスターの部屋に許可もなくズカズカと入ってきていいと思っているのですか?」
アステリアが怒気を含ませてパンドラを叱責する。
「ひっ!い、いえ、あまりもザラキエルが見てられなかったもので…」
パンドラは指をチョンチョンしながら怯えた様子でアステリアを上目で見る。
「私からすれば貴方も見るに耐えませんが?」
アステリアはパンドラを見つめてそう言った。
「そうだな、じゃあ、パンドラはどうしてクルアが他の一族を裏切って殺そうとしていると思う?」
俺はパンドラにそう質問する。
「えっ!そ、それはダンジョンの出入り口を抑えるためかと。現状、蟻はバーバルの魔道具でしか外に出られません。しかし、それはバーバルに手綱を握られているもの同然。だから、ここで他の族長達を処理して一気にダンジョンの入り口まで攻め上がる気なのでは?」
「な、なるほど…」
ザラキエルが納得したようにそう呟いた。
「わかってるじゃないか。よし、アステリア、こいつの事務仕事増やしていいぞ。ちゃんと判断ができる。」
あー、そうだった。こいつ頭はキレるんだった。
「かしこまりました。」
アステリアは了承した。
「えっ!?」
パンドラは目を見開いて驚いた。
「そして、他の一族も強い。蟻に一方的にやられていないぞ?まぁ、みんなここで見ていけ。面白い展開になるかもしれないぞ?あははっ!!」
俺はそう言って視線をスクリーンに戻した。
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