第262話 神話 神龍 イータル
太古の昔、世界は数百、数千の国に分かれていた。
争いが絶えず、国は滅んでは生まれ、分裂しを繰り返した。
しかし、争いは必然であった。文化や種族が違う。信仰がちがう。そしてなにより言語が違うために話し合うことすらできなかった。
国を滅ぼされ、各地で追われた難民たちが国を作った。それがこの世界初の多種族の国となる。難民たちのリーダーは人間であった。その人間が王となり多種族を導いた。
その王は懸命に国を護りある程度その国は大きくなり、龍が治める国との婚姻を結んだ。
やがて、その王と龍たちの国からきた王女には子が宿り、人間と龍のハーフであるドラゴニュートの女の子が生まれたのだった。
子はすくすくと育って行き、10歳となる。
全て順調かに思えたが乱世に巻き込まれることになった。
国は敵国の大侵攻に敗れた。王も女王も殺され、龍たちの国ですら滅んでしまった。
なんとか生き残った亡国の姫は伝説の神龍が住まう霊峰に向かう。
「小さき者よ、なにをしに来た?」
そこには伝説通りに強大な龍が巣食っていた。
「伝説の龍 神龍イータルよ。貴方に会いに来ました。」
リリアはそう言って跪く。
「我に会いに来た?」
「はい。私の全てを差し上げます。なので、私の願いを叶えてください。」
「私はこの霊峰から決して降りはしなかった。しかし、世の中の動きは魔道にて覗いていたぞ?お前も知っている。滅んだ国の姫よ。」
神龍はこの世界を見守っていた。しかし、同時に絶望していた。争いが絶えず、悲しみを生み出し続けているすべての者たちに。
「ほ、本当ですか!?」
リリアは驚きに目を見開いた。
「あぁ、人とは本当に愚かよな。見ていて虫唾が走る。いや、人だけではないか。モンスターも人も亜人も同族である龍ですらも、そして…神でさえも愚かだ。私は全て見ていた、この霊峰のこの山頂で。」
イータルはそう言って視線を遠くに向けて下界を眺めた。
「はい、まさにその通りです。」
リリアはイータルの言葉を肯定した。
「この世界は一度作り直さなければいけない。国も文化も全てを一度崩壊させてこの世界の生き物たちに秩序をもたらそう。その必要がこの世界にはある。小さき者よお前の望みはなんだ?お前の望みを聞いて我は最後の審判を下す。」
イータルはこの少女は復讐のために山を登って来たのだと思った。叶えてやるのもやぶさかではない。どうせこの少女の話を聞いたら我は世界を滅ぼしに向かうのだから。
「私の望み…神龍イータル様、どうか私に力を貸してください!」
「復讐を願うか?それとも破滅か?」
やはりかとイータルは落胆する。そして、飛び立つためにゆっくりと立ち上がった。
「いいえ!!変える力を貸して頂きたいのです!!」
そう言って表を上げたリリアの目を見た。
絶望に打ちひしがれて死んだような目をしているのかと思ったが、そこには覇気をまとった力強い王の瞳が輝いていた。
「変える力?だと?」
イータルは聞き返した。
「この世界は間違っている!ならば、変えなければ!!私は全ての者を従わせ、この世界を変えて見せます!その為の力を貸してください!」
「ほう?どう変えるのだ?」
イータルはそう言って笑みを浮かべる。
「我々には共通点が少なすぎます。我々が今、共通している物は暴力しかありません。」
リリアは悲しそうにそういった。
「そうだな。力こそが一番明快であり、絶対だ。それはいつの時代も変わらない。」
弱肉強食、それこそがこの世の真理であるとイータルは理解していた。
「そうです!それを私は変えたい!!」
だが、その世のことわりを少女は変えたいと声を上げる。
「…どういうことだ?」
イータルは理解ができなかった。だからリリアに聞き返した。
「言葉ですっ!!」
リリアは自らが導き出した答えを伝える。
「言葉だと?」
イータルはそれでも言っている意味がわからなかった。
「私は全ての者を従わせ、言語を統一します。全ての人がモンスターが話し合える。力ではなく、言葉で解決できる。そうすれば戦わなくて済むのではないでしょうか!言葉で解決できるのならば血は流れません!これが私の出した答えです。しかし、そのためには、一度この世界を一つにするためにはやはり力が、圧倒的な力が必要です!神龍 イータル様!どうか!私と共に世界を変えてください!!」
リリアはそう言ってイータルを真っ直ぐ見つめた。
「…なんと。」
イータルは震えた。
そんな答えがあるなんて。その答えは何十年、何百年、何千年、何万年も、もしかしたらそれ以上先の未来すらも変えることができるかもしれない答えだ。
この子を王にしなければ。
この子ならば世界を導ける。
この子ならば我が力を使うに値する。
この子ならば…
イータルは期待してしまった。希望を見てしまった。この子の答えに、思いに惹かれてしまった。
「グオォォーー!!!!汝、名はなんと言う?」
イータルは興奮のあまり大きく吠えた。イータルの咆哮は山々を震わせ、天を揺らした。
「私は、リリア。…今はただのリリアです。」
国が滅ろび、今はこの身だけとなったリリアはそう答える。
「ならば、リリアよ!今後汝は王を名乗るのだ。我が汝をこの世界唯一の王としてやる!見せてみろ!汝が思い描く世界を我に見せてみろ!!」
神龍 イータルはそう言ってリリアに協力することを決めた。
イータルとリリアはまず亡き王国を取り戻した。民を集め国を建て直した。
イータルの力は絶大だった。武力ではもちろん、イータルの名を出すだけで降伏する国を出てきた。
リリアはできるだけ話し合いで合併していったがそれでも併合するには武力が必要な場面も
多々あり多くの血が流れた。
リリアの計画は順調であった。併合した国は全て言語を統一した。リリアの使っている龍語に。
最初はもちろん抵抗されることもあったが、十年もすれば皆話せるようになり、100年も経てば龍語が当たり前となった。
幸運だったことは、巨大な国家が存在しなかったこと。
大きな国でも乱世の世で不安定であった。
リリアのカリスマとイータルの知謀と力で国々はどんどん統一されていき、500年で世界統一は成った。
不幸であったことは、死傷者が凄まじい数であったことだ。この500年で世界の人口の1/5が戦いによって死に絶え、血塗られた時代となってしまったと言うことだ。
しかし、この血塗られた時代のおかげで、今年で100年目の平和の時代が訪れたのだった。
「イータル、私は正しかったのでしょうか?」
リリアは巨大な王城から煌びやかな城下町を眺めながらそう言った。
「なにがだ?」
人化したイータルが答える。
「私は皆を助けるため、暴力の時代を終わらせるために戦い、ついに世界を統一し、モンスターでさえ同じ言語を話せるまでになり、言語は一つとなり、もはや龍語とは呼ばず、言語はただ言語となった。そして、この平和の時代を迎えることができた。しかし、それは死屍累々の上に成り立った物です。私は、正しかったのでしょうか?この時代を築くために私は暴力という選択肢をも取り、この時代の土壌に血と死体を使った。」
リリアは目に涙を溜めてそうイータルに訴えた。
「悩むこともあるだろう。だが、前を向け、この王城から城下を見ろ。隅から隅まで見るのだ。隅から隅まで明かりが灯り、民たちの喜ぶ笑い声が聞こえる。モンスターと人が手を取り合っている。昔に対立しあっていた種族同士の夫婦が我が子を撫でている。これがお前が出した答えであり、成果だ。正解などはない。ただ、お前が成したことの答えは目の前にある。」
イータルは嬉しそうな顔でそう言って城下町を眺める。
「ふふっ、ありがとうイータル。そうだね、あの時代の犠牲になった者達が報われるように無駄ではなかったと言えるように私はこの平和な時代を守らなくちゃね!」
リリアも城下町を眺めて、目にたまった涙を拭いてそう答える。
「あぁ、そうだ。我もそのために力を貸そう。お前は言語を統一した。それはこれから先、何千、何万年後の世界を支えることとなるだろう。それだけの偉業だ。」
イータルはリリアに向き直りそう言って褒めた。
「ふふっ、もうイータルは世界を滅ぼそうなんて思わないでしょ?」
リリアはそう言ってあの霊峰で出会った時のイータルを思い出しながらそう言った。
「人もモンスターも神でさえも愚か者だ。争いが絶えない愚か者どもは一掃し世界を作り直す必要がある…そう、その必要があったと思ったのだがな、私も愚か者であったようだ。我はリリアの変えた世界を見たいと思ってしまった。そして、今、我は世界を滅ぼさなくて良かったと安堵してしまっている。」
イータルはそう言ってリリアに笑いかける。
「良かった!じゃあ、これからもよろしくね、この世界の守護龍さん!」
リリアはそう言ってウィンクをした。
「ははっ、世界の守護龍か。この世界の守護龍になれはならば、よいかもしれないかもな。」
この世界の。リリアが築いたこの世界の守護龍ならばとイータルは自分を誇らしく思えた。
しかし、人の欲望は果てしなかった。
平和な時代。誰もが助け合い、どんな種族、モンスターとでさえも仲良くなれる時代。
だが、人はそれでは満足できないのだ。
人よりも勝りたい。人よりも多くのものを手に入れたい。
一番になりたい。虐げたい。
人の醜い側面は平和な時代を壊すには充分である。
リリアが唯一間違えてしまったこと。
それは不死に近い龍の寿命を持ち、世界の王として何百年も君臨し続けてしまったこと。
不満と醜い感情は爆発し、ついにそれが現実に現れた。
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