第256話 俺の考察
「最高だ…最高だよ!ナクアは俺の想像を遥かに超える感動的なドラマを見せてくれた!」
俺はナラとナクアの結末を見届けて興奮のあまり立ち上がり拍手をした。
「まさか、ナクアがナラに殺されることを選ぶなんて予想外でした。」
アステリアは無表情のままそう答える。
俺は映し出されている映像の先のナクアに手を伸ばす。俺はこんな素晴らしいドラマを見せたナクアを生き返らせて手元に置きたい欲求に駆られたためだ。
「回収してきましょうか?」
アステリアが俺の意を汲み取ってそう進言してくる。
「…いや、いやだめだ。ここで生き返らせてしまってはナクアとナラの感動のドラマが薄れてしまう。ナクアは死んだ、ナラに全てを託して。族長の感動の継承。それが俺をここまで感動させる。」
俺はそう言って伸ばした手を名残惜しく下げていく。
「ナクアは、それでよかったのでしょうか?ナラと一緒に同胞を導けばよかったのではないですか?」
単純な疑問をアステリアは口にする。
「さぁ?答えはナクアにしかわからない。なんでその選択をしたのか。」
「そうですね。」
「アステリアはなんでだと思う?」
俺はニヤつきながらアステリアにそう尋ねた。
「わかりません。…でも、きっと罪滅ぼしなのではないでしょうか。彼女は自分の力不足へのケジメと言っていました。ナラを追放することになったのも、同胞が同胞を殺したのも。たくさんの同胞が犠牲になってしまったのもすべて族長である自分の責任だと思っていたのではないのでしょうか。私はそう思います。」
アステリアはしばし考えたあと、自分の考えを主人に伝える。
お堅いアステリアらしい回答だな。
「なるほどな。それはあると思う。だけど、俺の考えは違う。」
俺はその答えを待っていたかのように嬉しそうな顔を浮かべてさらに笑みを深める。
「では、マスターはどう思いますか?」
アステリアは首を傾げてそう言った。
「これは適応だ。」
「適応ですか?」
アステリアはそう言って首を傾げる。
「あぁ、蜘蛛は迷宮という完全なる弱肉強食の世界から外の世界へと環境を移した。より社交性のある世界へと。適応したんだ。ある蜘蛛は外を知り、学び、社交性を身につけた。そして、その蜘蛛が一族の元へと戻り、族長が成り替わり、率い、蜘蛛たちは従い適応する。そういうものなのではないかと俺は思った。」
俺は胸にくすぶる興奮を抑えながらそう言った。
「なるほど。そういう特性をもつ種族なのかもしれませんね。アリは外の世界に出て支配と侵略を蜘蛛は適応の道を選ぶ。たしかに面白いかもしれませんね。」
アステリアはそう言ってようやく薄らと笑みを浮かべて考えるように指を顎に添えた。
「そうだ!生の性に従いながらも、高次な彼らは感情をもつ。運命は生物の性に従うにもかかわらず、そこには感動や悲痛のドラマが生まれる。面白いだろ?面白くないはずがない!」
俺は鳥肌を感じながらそう熱く語る。
「もしかしたら、ナクアがナラに殺されたのは、蜘蛛は交尾したあとにオスを食べるように自らをナラの成長の糧にしたのかもしれない。そして、それは実際にナラに大きな成長をもたらした。だとしたら、これは族長の継承の儀式的意味も…」
俺はぶつぶつと呟きながら考察を広げていく。
「ふふっ、大満足のようで。」
アステリアはそれがなによりも嬉しそうにそう言った。
「あぁ、本当に面白いよ。あははっ!!…最高だよ。」
俺は大笑いして玉座から立ち上がる。
「どちらへ?」
「俺もこの面白い世界を守らないといけないからな。準備をし始めなくては。」
俺はそういうとニィと笑いながら虚空から一つの大きな種を取り出してアステリアに見せた。
「了解しました。お供いたしますマスター。」
「まぁ、最初はおっきい鉢に入れてお水あげるだけなんだけどね?」
俺とアステリアは手頃な鉢を探しに行った。
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