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第241話 クーリッヒの因縁

拮抗する世界の勢力の中で大きく動こうとする勢力がある。


それは蜘蛛の一族だ。


大王ルーとの共同戦線を張る為、蟻の一族との戦いに備える為に行動を開始したのだ。


森の国 エルランドを落とし、世界樹の森を手に入れるため、蜘蛛の一族はその足がかりとなる迷宮都市クーリッヒを落とすために進軍を開始した。


「ナラ!大変ですわぁ!!蜘蛛の一族が動き出しましたの!」

アリアはナラを会議室に呼んで慌てて開口一番にそう言った。


「うん、聞いた。おそらく族長の狙いは世界樹の森の奪取。そのために迷宮都市クーリッヒを制圧して足掛かりにする気だよ。そしてもう一つの狙いは蟻の一族の出入り口の封鎖。迷宮都市クーリッヒは蟻の一族の潜在的な拠点。そこを制圧して拠点を封鎖する狙いもあると思う。」


「なるほど!って、大変じゃないですの!?ナラ、どうしますか?」


「クーリッヒは我らにとっても要所であり、急所。絶対に取られては行けない。」


「では、クーリッヒに援軍を出しましょう!」


「うん、クーリッヒは蟻の一族との戦いでも我らの突破口となりうる。早急に援軍を派兵するべき。私も行って指揮を取る。」


「では、私も行きますわぁ!」

アリアはそう言って出立の準備をするために身を翻す。


「アリアは留守番。」

そんなアリアをナラは引き留めた。


「なんでですの!?」


「私達の国は蜘蛛の一族と同じ森にある。もしも援軍を出して手薄になった我が国に族長が攻めてきたらひとたまりもない。おそらく族長とまともに戦えるのは大精霊を従えているアリアだけ。だから、アリアはここにいて国を守って欲しい。」


「うぅ、そう言うことなら仕方ありませんわぁ。わかりました。」


「うん。そして、おそらく族長は今回本気で攻めてくる。だから援軍に連れていく戦士たちは申し訳ないけど、アーガスト、アドネス、勇者と言ったこちらの主力を連れていく。国に残していくのは守りを得意とするオーク達とアリアだけになる。それでもいい?」


「この国は私が絶対守って見せますから心配しないでください!絶対にクーリッヒを救ってください、ナラ!」

アリアはそう言って小さな胸を任せろとばかりにドンと叩いた。





冒険者レオンは急に冒険者ギルドに呼び出され、会議室に入った。

特に悪いことをした覚えもないし、いいことをした覚えもない。不思議に思いながら会議室のドアを開けると深刻そうな顔をしたアイリスがこちらを見つめて座っていた。


「レオン、力を貸してくれ。」 

アイリスは開口一番にそういった。


「アイリスさん?どうしたのですか?」

アイリスさんがこんな真剣に俺に助けを求めてくるなんて。

アイリスさんは強い。それにアイリスさんのギルド フロントラインもかつての規模を取り戻している。

俺に助けを求めるなんて相当のことだとわかる。


「蜘蛛の大軍がこちらに向かってきている。」

アイリスはそう言ってレオンを見つめる。その瞳の奥には復讐の火が燃え上がっていた。


「えっ!?なんでですか!?」

俺はびっくりする。なぜ今になって蜘蛛が?


「やつらはこのクーリッヒを落とす気だ。だが、そんなことはさせない。フロントラインは奴らによって一度は壊滅した。しかし!今回はそうは行かない!クーリッヒの冒険者の指揮は私が取ることとなった。私はクーリッヒの全ての冒険者達をまとめ上げ、蜘蛛の侵攻を止めてクーリッヒを救う!!」

アイリスはそう言って椅子から勢いよく立ち上がった。そして、レオンに向かってゆっくり歩いてくる。


「蟻が迷宮から出てきた時、俺はまだ弱かった。生き残ることで精一杯だった。でも、今は違う!今の俺には戦う力がある、みんなを守れる、アイリスさんと並んで戦える力があります。一緒に立ち向かいましょう!」

俺は真っ直ぐにアイリスさんを見つめて自分の思いを言った。


「あぁ、レオン!一緒に戦おう!ここでかつてのクーリッヒの雪辱を晴らすんだ!!」

アイリスさんは俺の目の前に来て、そう言って俺に握手の手を伸ばす。


俺はその手を強く握る。


アイリスさんの手は女の人とは思えないくらい剣ダコでボコボコとしており、手の皮は何度も剥けたのだろう、厚くなっていた。正直、顔を見なかったら女の人の手だとは思えない。

だけど、俺はそんなアイリスさんの手を魅力がないなんて思わない。

この手になるまでどれほどの努力を積み重ねたのか。魔法職ではない女冒険者がどれだけ大変か俺は知っている。

どれだけの努力を積み重ねて今ここにいるのか。


この手を握ればわかる。

全てアイリスさんが努力して積み上げてきたものだと。


そして、そのアイリスさんの集大成がギルド フロントラインだったのだ。


一体どれほど絶望しただろう。

どれほど悔しかっただろう。


だけど、アイリスさんはその絶望を乗り越えてまた立ち上がり、フロントラインを立て直した。


そして、その時にまた彼らがやってくるというのだ。


蜘蛛。


これ以上、僕は蜘蛛達に好き勝手させることは許さない。


もう僕の好きな人を絶望の淵に落とすことを許さない。


もう奪われる側の者ではいられない。

今度は俺が守る側だ、俺にはその力がある。


俺は強く強くアイリスさんの手を握る。

それに返すかのようにアイリスさんも微笑んで強く強く握り返した。






クーリッヒにとって蜘蛛は因縁の相手。


冒険者達は普通戦争にはあまり関与しない。巻き込まれそうならば逃げる者もいるほどだ。


だが、逃げるものはいなかった。

むしろ、皆が声をあげて志願した。


蜘蛛に仲間を殺された者、大切な人を殺された者、チームを崩壊させられた者。


なにより、このままでは終わらない。そう思う者がたくさんいた。


クーリッヒは最強の冒険者達が集まる街。


そのクーリッヒが今、一丸となって蜘蛛打倒のために立ち上がった。


最強の冒険者達で構成された軍。

大王国エリシュオンからの援軍、防衛のために駆けつけるグラン王国の軍、クーリッヒの領主軍。

蜘蛛の軍勢を相手にするだけの戦力はある。


しかし、敵はあの三大王とも互角であるナクアの蜘蛛の軍勢。


因縁の戦いが始まった。



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