第238話 必要な盾と矛
「本当に許せませんわぁ!」
大王バーバルの城を後にしてそそくさと龍軍に乗り、エリシュオンに帰路についているアリアは未だに怒りが収まらない。
「今は耐えて。」
ナラはそんなアリアをいさなめるため背中をさする。
「そんな事言われても!人をいじめて殺したんですよ!?それも私と同じくらいの子を!」
アリアは声を荒げて涙を溜めてそう言った。
「でも、今はなにもできない。」
ナラは感情のない目でそう答えた。
「本当に本当にゆるせない!バーバルも、助けられなかった弱い自分も…」
「今は力を蓄える。そして、今回の会議でアリアは他の大王にも認められた3人目の大王となった。ここから私たちはさらに大きく動き始める。」
「動くって?」
「まずは大国であるエルフの国エルランド、獣人の国 獣王国を世界大同盟に加入させる。」
「ついにですわね!」
「そして、強力な矛を手に入れる。」
ナラそう言ってエバーデールの方角を向いた。
「強力な矛ですの?」
アリアはそう言って頭を傾げる。
「小国エバーデールの解放、そしてエバーデールの大将軍ドルジェを世界大同盟は手に入れる。」
「あの人類最強と名高い大将軍ですね!」
「そう、アドネスやアーガストなど私たちが持っている矛に加えて世界大同盟の諸侯、人類最強の大将軍。これで我らの攻撃力は揃う。そして、蟻の一族と戦う上で一番必要となる盾をその後に手に入れて私たちの準備は整う。」
「盾って?」
「この世界でまともに蟻の侵攻を食い止められる勢力…それは私たち蜘蛛の一族。」
ナラは今度は真っ直ぐにアリアを見つめてそう言った。
「えっ!?」
アリアは驚きの声をあげる。
「私はもう一度族長と話をして協力を得なければならない。」
「でも、それって大丈夫なの?」
アリアは心配そうにナラを見つめる。
「最強の盾無くして蟻の一族には絶対に勝てない。」
「今ナラが蜘蛛のところに戻ったら、ただじゃ済まないんじゃない?だって、追放されてるんでしょ?」
「でも、それしか方法がない。族長ならもしかしたら…」
ナラはそう言って俯いた。
「でも、まずは大国の二つの世界大同盟加入とエバーデールを救うことが先でしょ?」
「うん。既にその二つの国と話がついている。エバーデールも我が国の号令待ち。すぐにでも動き出せる。どうする?アリア。」
「では、動き始めますわぁ!!!」
アリアはビシッとナラに指を指してそういった。
「えぇ、いよいよこの世界の覇権を握るために動き出す時!」
ナラはそう言ってアリアを見て、拳を強く固めた。
「うふふ、族長。やっと私を呼んだわね?」
マザースパイダーのマリラは嬉しそうにそう言って蜘蛛の族長であるナクアの前に出てきた。
「証明しろ、お前がナラよりも優秀だということを。これから我らは大王ルーと共同戦線を張り対大王バーバル、蟻の一族との戦いに備える。まずは巣を移す。」
ナクアは美しい顔を一切動かさずに淡々とそう言った。
「どこにでしょうか?」
「エルフの国 エルランド。この森を頂く。ここよりも広大な森であり、さらに食料も豊富だ。さらに我が一族を増やし、大王ルーと連携を強固にするためにエルフの国 エルランドを落とす。」
「では、私はなにをすれば?」
「進行方向にある迷宮都市クーリッヒを落とせ。そこを足掛かりに一気に侵攻してエルランドを落とす。」
ナクアはそう言ってマリラにそう命令を下した。
「わかりました。」
マリラは嬉しそうに了承する。
「他国からの援軍や冒険者達の激しい抵抗が予想される。ここの守りは私が請け負う。好きなだけ戦士を連れて行け。」
「うふふっ!大盤振る舞いですね!族長、証明して見せますよ。あのナラよりも私が優れていると!!」
「失敗は許さない。」
そういうナクアの美しい黒い瞳にはやはり感情は宿っていなかった。
もしも、マリラが失敗すればナクアは躊躇などなくマリラを殺すだろう。
いや、むしろその時は笑みすら浮かべるのかもしれない。
「族長が守りに徹するから好きなだけ戦士を連れて行っていいのでしょう?ニンゲン程度に私がこの戦力で遅れなどとりません!」
マリラは余裕の笑みを浮かべてそう答え、侵攻の準備を始める。
マリラは森の中の戦士をかき集めなければならないからだ。
凄まじい数の戦士を持つマザースパイダーや戦闘力の高いバトルマスタースパイダーなどの戦士達の協力を得られれば人間の一つの都市を落とすことは容易だろう。
マリラは想像し興奮する。
自身が人の街を滅ぼし、一族中でさらに成り上がり、偉大な一族の母である族長の信頼を得られるその時を。
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