第237話 不気味なスケルトンとバーバル
「…貴方の目的はなんですの?貴方は世界をどうするつもりですの?」
アリアは怒りを押し殺し、バーバルを睨め付けながらそう尋ねる。
「私はね、目的とかはないの。気に入らないやつは殺し、面白いと思えば遊ぶ。私が世界を動かすことができる。死にたくはないけれど、時代を面白い方へ回す歯車となることができれば死など厭わない。他の誰でもなくこの私がこの世界を滅茶苦茶にしたい!私は大魔王バーバル、私を殺さないことには貴方の望む仲良しこよしの世界は得られない。貴方を私の敵として認めてあげるよ、アリアちゃん。さぁ!この世界で暴れまくりましょう?」
バーバルは本当に楽しそうにそう言った。
「貴方は狂っていますわぁ!絶対に!絶対に許しません!…貴方を倒してこの国の人々を解放します。」
アリアは眼に溜めていた涙を流して睨め付けながらそう言った。
「ふぉ、完全に置いてけぼりじゃな。これ以上は殺し合いが始まりそうじゃ。これでお開きにしよう。楽しい話合いじゃった!時間稼ぎもできるみたいじゃし。これにて終幕としよう。」
ルーはそう言って立ち上がり、円卓の間を出て行った。
「アリア、行くよ。」
ナラはアリアの手を引いて椅子から立たせる。
「アリア、ここは堪えるんだ。」
アナスタシアもアリアの肩に手を置いてそう言った。
「大将、まだここは決戦の場じゃねぇ。力を蓄えるんだ。」
モグもそう言って椅子から立ち上がり、アリア達に続く。
「くぅ、わかっていますわぁ!」
ナラ、アナスタシア、モグがアリアをいさなめて、アリア達も円卓の間を退出した。
円卓の間にはバーバルの部下も出ていき、誰もいなくなった。
「はぁ!もう、全員殺してやるからな。ん?」
全員が退出して誰もいなくなった円卓の間でバーバルはそう呟く。
そして、ピリッとた指先の痛みを感じた。
「血だ、切れてる?」
指先を見ると指先が切れており、たらたらと血が出ていた。
バーバルの強さはSランクモンスターだ。ちょっとやそっとの攻撃では傷すらつけられない。それこそバーバルを傷つけてられるとしたら魔王クラス以上の者の攻撃だろう。
それに吸血鬼の王であるバーバルの回復力は常軌を逸している。腕がもげても即座にくっつくし、なんなら少し魔力を高めて回復力を上げれば生えてくる。
つまり、このくらいの切り傷など一瞬で修復してなくなるはずなのだ。
だというのに、今もなおピリピリとした痛みと共に血は流れている。
「お前、終わらせようとしただろ?」
陰からぬっと現れたのはスケルトンだった。
「貴方はあの小娘の後ろにいたスケルトン?」
バーバルは警戒する。なぜならば、この場には誰も居なくなったはずだったのだ。
大魔王である私に気配を悟られずにそこにいた。それもこんな至近距離で。
それだけでこのスケルトンは警戒するに値する。
「最初にアリアの首を噛みちぎって終わらせようとしただろ?そんなつまらない展開は望んでいないし、アリアの最後がそんなあっけないのはゆるさない。」
カタカタと骨の音を鳴らしながらゆっくりとそのスケルトンは近づいてくる。
「…貴方、何者?」
バーバルは思い出す。このスケルトンだ。
私はこのスケルトンに首に剣を添えられて、その剣先を私は指で軽く押したのだ。
あの時だ。あの時にこの指先の傷ができたのだ。
バーバルはゾッとして首を触る。
私はもう一度切られて血を流している指先を見る。
このスケルトンは私を殺し得る。
もしも、あのまま私の牙があの小娘の首に届いていたのなら、私はこのスケルトンに首を刎ねられて絶命していたかもしれない。
そう思うとゾクリと背筋が凍り、冷や汗が滲み出てくる。
「ただのスケルトンだよ。今回のこの会議も面白かったよ?」
スケルトンはゆっくりとそう言って近づいてくる。
「ただのスケルトンが私に傷をつける?ふざけるな。」
私はそう言ってスケルトンが近づいてくる分だけ後ずさる。
「いや、本当にスケルトンだよ?ほら、見てみて。」
スケルトンはそう言って歩みを止めて体を見せるように両手を広げて見せた。
バーバルは目を凝らして見てみるが、本当にただの低位のスケルトンにしか見えない。
だが、やつが私に傷をつけたのは事実だ。
だからこそ不気味。
大王である私が目を凝らしてもわからない。使っている剣も特別なものではない。
「気持ち悪いね、君。」
バーバルはその不気味さに気持ち悪さを覚えた。
「美女にそんなこと言われるのは悲しいなぁ。これでも匂いにも気を遣っているし、清潔感も大切にしているんだよ?」
「ツッコミどころ多すぎるね。あえて触れないで置くけど。で?君はあのアリアとかいう新しい大王の部下かい?私を殺そうって?」
確かにあのスケルトンから少し強いくらいの香水の匂いがする。
「あははっ!もう自称大王って呼ばないんだね?」
なにが面白いのかスケルトンはカタカタと笑い出した。
「…質問に答えてないけれど?」
バーバルは眉を顰めてそう問い直す。
「アリアはね、最初落ちこぼれだったんだ。」
スケルトンはそう言ってまたゆっくりとこちらに歩み出した。
「なに?」
私は警戒してまたスケルトンが歩いた分だけ後退り始める。
「落ちこぼれでバカにされ、クラスで1人だけモンスターがテイムができない少女は、迷宮に諦めずに繰り出し失敗を繰り返していた。そして、ある日1匹のスケルトンに出会った。そのスケルトンがアリアの最初のテイムモンスター。それからたくさんのモンスターをテイムしていった。最初はなにも知らない、ただの意味のない正義感の強い女の子だった。だけど、たくさんの経験をしてその正義感は責任を伴うようになった。そして力を持ち、魔王となり、そして、今日!他の大王にも認められて、アリアはこの世界の大王となった!!」
スケルトンはカタカタと笑いながら楽しそうにアリアのことを語った。
「なにが言いたいわけ?」
この語った中に出てくるスケルトンが目の前のスケルトンなのだろう。
だが、いまだにこのスケルトンの意図がわからない。
そして、ついに私は壁に背が当たる。
「面白いだろ?」
私の背が壁に当たった瞬間、目の前のスケルトンが消え、一瞬で私の目の前に現れる。
そして、スケルトンは壁に手をつき、ガイコツの頭を私の顔に近づけてそう言った。
「は?」
反応できなかった。魔法の発動さえも認知できずに距離を詰められた。
冷や汗が噴き出る。鼓動が早くなる。
私は今、たしかに恐怖を感じている。低位のスケルトン相手に私は強い死を感じている。
この世界で最強の一角である私が今、何もできずに後退り、壁に追い詰められ、死に怯えている。
その事実に理解が追いつかない。
その事実が信じられない。
「落ちこぼれだった少女が恐ろしい魔王の残党や魔王達を従えてこの世界の大王になったんだ。面白いだろう?」
目の前のスケルトンがそう言ってカタカタと笑う。
「こっちはたまったもんじゃないけどね。」
私は無理やり笑顔を作ってそう言った。
「だから、そんな簡単に終わらせようとするのは許さない。終わるにしても、もっと壮絶な最後を迎えてほしい。最初はどこで野垂れ死のうと構わないと思っていたが、もう俺は期待してしまっている、更なる展開を!だから、あんな風にあっけなく終わらせることは俺が許さない!」
スケルトンから発せられる私の気配がさらに強くなり、目の前のスケルトンが怒っているのがわかる。
「…あぁ、貴方、ハシャね?」
バーバルは少し考えて一つの答えに辿り着いた。
不気味なアンデッド。どことなく楽しそうな雰囲気。私ですら推し量れない強さ。私を殺し得る特性。
バーバルの鋭い感性が、直感がこいつはハシャだと告げている。
そして、それはブラフで言った。
どうか違ってくれと。
「あははっ!!やっぱり君は賢いね。」
しかし、目の前のスケルトンは否定をしなかった。
「はは、嘘でしょ?ハシャも、あの小娘の味方なの?」
私はその事実に失望する。
私に協力しなかったにも関わらずあの小娘は協力するのか?
だが、少し納得した。不気味さが晴れた。
ハシャならばあり得ると思え、納得したとこで少し恐怖が和らいだ。
「いや、違う。俺はアリアの味方ではあるが、手助けはもうしない。ここからはアリアの力で紡いでいく物語だ。たとえその先が破滅でもね?」
スケルトンはそう言うと私からゆっくりと離れた。
「信じていいのね?」
私はじっとそのスケルトン、いや、ハシャにそう聞いた。
「あぁ、だから荒野のことは気にしなくていい。攻めてこなければなにもしない。ただ、俺が望んでいるのは一つ。楽しませてくれ。」
ハシャも私を真っ直ぐに見てそう言った。
「…わかったわ。その代わりお代を頂くわ。当たり前でしょう?エンタメ料よ。」
「へぇ、なにか欲しいものがあるの?」
「それは貴方が決めて?私のショーがどれだけ面白かったか、楽しかったか。貴方が私を評価して私にプレゼントを頂戴?」
バーバルはそう言って不敵に笑う。
「…いいねぇ。」
ハシャはそう言ってカタカタと笑う。
「うふふ、楽しみ!」
私はさっきまでの気分とは逆にいい気分となって満面の笑みを浮かべた。
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