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第236話 これが悪


「…ふぅ、もう早く終わらせるか。イラついて仕方がない。貴方達は時間が欲しいんでしょ?ルーは私に返り討ちにあった軍を立て直し国力を回復させたい。小娘たちは勢力を拡大する時間が欲しい。いいよ、待ってあげるよ。」

バーバルは不機嫌そうにそう言った。


「ふぉ、優しいのぉ?なんじゃ?貴様も時間が欲しい訳がありそうじゃな?」

ルーは素直なバーバルに目を細めてそう言う。


「おそらくは蟻の一族が動けない?蟻が動けない理由で考えられるのは一つだけ。強大な個との戦闘。」

ナラは顎に手を当てて考え、一つの結論に至る。


「そうだね。そっちの問題を解決してくるって言ってたよ。」

バーバルは隠さずにそう答えた。


「蟻の一族はその強大な個との生存競争で負けて我ら蜘蛛の一族の縄張りを奪った。そんな簡単に解決できるとは思わない。」

ナラはそう言って自分の考えをバーバルに伝える。


「さぁ、それはどうかな。」

バーバルはニヤリと笑う。


「…もしも、もしも蟻の一族が強大な個を倒すことが出てきてしまったら私たちに勝ち目はない。我らが蟻と戦えていたのは蟻の一族が強大な個と戦いながら我らを攻撃していたからだ。本気の蟻の一族の猛攻を止められることは蜘蛛の一族ですら不可能。」


「ふぉ、あのナクアたち蜘蛛の勢力にそこまで言わせるとは恐ろしいのう。」


「のんきなことは言ってられない。蟻の一族が全力で攻めてこれる状況になってしまえば、我ら一丸となっても勝てない。大王バーバル、考えなおしてはくれないだろうか。迷宮から大量の蟻の一族が出てきた報はない。つまり、大王バーバルが何らかのアイテムか魔法で蟻の一族に地上への門を開いているはず。その門を閉じてほしい。」

ナラはバーバルを見つめてそう言った。


「それで私をみんなで叩いて終わりってわけね!」

バーバルは笑顔でそう言って手を叩く。


「共生の道をともに探していきましょう。我らは侵略しませんわぁ。あとは貴方が変わるだけですわぁ!」

アリアはそう言ってバーバルに手を差し伸べた。


「あははっ!ほっとうにむかつくね?おいっ、この小娘と同じくらいの人間を連れてこい。」

バーバルは顔を歪ませて円卓の間の外にいる配下にそう命令する。


「はっ!」

命令された配下達が即座に動き始めた。


「な、どういうことですの?」

アリアは周りをキョロキョロして戸惑う。


しばらくしてアリアと同じくらいの少女が連れてこられた。


「あなたは侵略しないんだって?」

バーバルは連れてこられた人間の少女の首をつかむ。


「ひっ!」

人間の少女は首を掴まれて怯えた声を出して苦しそうに顔を顰める。


「その子になにをする気ですの!?」

アリアは驚いてバーバルにそう言って止めようとした。


「いやー-!!」

バーバルはその子の手を持ってその手の指をペキっと軽い音を鳴らしてへし折った。

少女は涙を流しながら悲鳴を上げる。


「なんで!?なんでそんなことを!?離しなさい!!」

アリアはバーバルの暴挙に怒りを覚え魔力を滾らせる。


「動いていいのかな。」

バーバルは楽しそうに笑みを浮かべて少女の首を持ちながら少女を動いたら殺すと言わんばかりにアリアの方に向けた。


「小物のやることじゃ。」

ルーはバーバルの行動を見て呆れたようにバーバルにそう言った。


「でもこれが効果的みたいだよ。ガブッ。」

バーバルは折った少女の指を嚙みちぎる。


「ああっつ!」

少女は噛みちぎられた手を見て泣き叫ぶ。


「やめなさい!!それ以上は許しませんわぁ!」

アリアは鋭い目つきで怒鳴るようにバーバルにそう言った。


「許さなければどうするの?私を殺す?それってあなたの言う侵略ではなくって?ガッブ!あ、気絶しちゃった。」

バーバルはアリアをおちょくるようにそう言ってから少女の肩に噛み付いた。

少女は痛みと恐怖のあまり気絶し、だらんと力が抜けた。


「っつ!!」

アリアは大精霊の力を借りてバーバルを攻撃しようと手を向ける。



流石にまずいとナラがアリアを羽交締めして止め、アナスタシアもアリアの前に出て両手を広げて止めた。


「アリア、ダメ!」

ナラがアリアを羽交締めしながらアリアを抑える。


「アリア、挑発に乗るな!」

アナスタシアもアリアを真っ直ぐ見つめてそう言った。


「あれ、動いた?」

バーバルはアリアが戦闘体制に入るのを見るやいなや、少女の首に嚙みついた。

噛みつかれた少女は血をみるみる吸われて枯れていき、息を引き取った。


「あぁ!!なんてことを…許せませんわぁ。」


「許す?何を言っているの?共生するんでしょう?だったら受け入れないと。私の食料になることを。あははっ!」

バーバルはそう言って笑い、枯れた少女の遺体を投げ捨てた。


「なんでそんなひどいことを!!」

アリアは涙を溜めて怒る。


「あははっ!!何か勘違いしてない?あなたの前にいるのは…悪よ。」

バーバルはそう言って自身の唇についた少女の血を舌で艶かしく舐めとる。





アリアは今まで誰とでも分かり合えると思っていた。

誰とでも話し合え、笑い合うことができると思っていた。


しかし、話が通じない。残虐に愉悦を感じている目の前の吸血鬼。

自分に向けられる最悪の悪意。


アリアは理解する。これが悪だと。


目の前にいるのは残虐非道の大魔王バーバルなのだと。



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