第224話 スラムってどんなところですの?
「アリア、辛くないか?」
馬車に数日揺られ、伯爵は少し疲れた顔をしてそうアリアに聞いた。
「大丈夫ですわぁ!ありがとうございますお父様!」
アリアは伯爵が思ったより元気なようで笑顔でそう言った。
「そうか、強くなったなアリア。この間までこんなに長い時間馬車に乗っていたらすぐにグズっていたのに。」
アリアの成長に伯爵は優しい笑みを浮かべる。
「そ、そんなことありませんわぁ!」
アリアは頬を膨らませて抗議する。
「あはは、そうだったかな?さぁ、もうすぐ王都だ。王都に着いたら二、三日はゆっくりしよう。私も長旅で疲れた。」
馬車で数日揺られるというのは実はかなり疲れる。まだ大きくないアリアも相当疲労が溜まっているだろうと伯爵は考えた。
「王都を観光したいですわぁ!!」
そんな伯爵の思いとさ逆にアリアは元気が有り余っているようだ。
「思ったより元気が有り余っているようだな。余計な心配だったようだ。あぁ、好きなものを買っておいで。だが、約束だ、護衛の騎士は連れていくように!いいね?」
もちろん伯爵は護衛の私兵団を連れてきている。
今も馬車の外で警戒しながら馬で並走している。
「まぁ、仕方ありませんわね。わかりましたわぁ。」
「それと夜は王都でパーティーがあるそれは参加するように。」
「えぇー、パーティーですか?夜は普通に休んで寝たいのですけれども?」
「社交場に出ることは貴族の子女の仕事でもある。」
「わかりましたわぁ…。」
アリアは仕方ないと了承するのだった。
そしてついに、堅牢な城門を抜けてアリア達はグラン王国の王都へと到着した。
その後すぐに王城に入場し、用意しされた広い部屋に案内された。
アリアは一息つきとすぐにスケさんを召喚し、スケさんと護衛の手練れの兵士を一人連れて王都へと繰り出した。
「スケさん、王都って広いのですわねぇ!おっきい建物もいっぱいですわぁ!!」
アリアはきょろきょろとしながら王都を見て回る。
「あぁ、そうだな。それにすごい人の数だな。」
スケさんは行きかう人混みを見ながらそう言った。
「えぇ!本当にすごい人の数ですわ!いろんなものがキラキラしていて賑やかで素敵ですわぁ!」
アリアは目をキラキラとさせながら楽しそうにそう言った。
「楽しそうでなによりだ。」
スケさんはアリアの頭を撫でながらそういった。
「ん?あそこって…」
アリアは明らかに雰囲気の違う一区画を見つける。
「アリアお嬢様、その先はスラムですので入らないでください。」
護衛の兵士がアリアがスラムに近づかないように注意する。
「スラム?」
アリアはスラムがわからず首を傾げる。
「貧困階層の者どもが住んでいるところだ。」
スケさんがアリアにわかりやすく教えた。
「なんで住んでいるところを分けられているのですか?」
「スラムの人々は皆卑しく、臭いからでしょう。お金ももっていないのでスラムで暮らすしかないのです。」
護衛はそう言ってアリアの問いに答える。
「お金は稼げばいいでしょう?」
「スラムの連中を雇う者は居ません。やつらは日々ゴミを漁るか、盗みを働くか、まぁ、碌なことはしていないでしょう。」
護衛は明らかに差別の目をもってそう答えた。
「それは彼らが悪いのでしょうか?」
アリアはそう言うとスラムに向かってつかつかと歩いていく。
「え?ちょっと!アリアお嬢様、行かないでって言ってるでしょう!?」
護衛はアリアがまさかスラムに入っていくとは思わず慌てて追いかける。
「ここも見なければなりません。」
アリアは強い意志のある目をもってスラムに入っていった。
王都のスラムは想像するようなスラムだ。
ボロボロの服を纏いふらふらと歩いているもの、酒を飲んだくれているもの。生きているのか死んでいるのかわからない倒れている人。何かぶつぶつ話して居る者、親に捨てられたであろうたくさんの孤児たち。
アリアはキョロキョロとスラムを見て回る。
「なんだあの娘は?貴族か?」「ふん、俺たちを見下しにきたんだろう?」「キョロキョロ見てるが、なにしてるんだ?まったく何が面白いんだか、貴族の考えはわからねぇな。」「護衛なんか連れて、良い身分だこと。」
明らかに場違いな嫌いな服と護衛の兵士を連れている少女を見たスラムの住民が集まりだした。
「お貴族様、どうか恵んではくれませんか?」
そんな中、1人の男の子の子供を連れた女がアリアに近づいて物乞いをする。
「それはどういう意味ですの?」
「えっと、あの、今日のこの子のご飯を買うためのお金が欲しいのです。どうか恵んでくださいませんか?」
スラムの女は言いずらそうにそう言って物乞いをする。
「アリア様に近づくな!」
アリアを危険にさらさないようにと周囲を警戒していた護衛はアリアを守るように出て来てスラムの女を突き飛ばそうと手を伸ばす。
「待ちなさい!」
アリアはスラムの女を突き飛ばそうとした護衛を大きな声で静止させる。
「えっ!?は、はい!!」
護衛の兵士はアリアにそう言われて背筋を伸ばして答える。
アリアの言葉には、少女とは思えないほどの覇気が乗っており護衛の兵士は驚いて硬直したのだ。
「その子にご飯を食べさせたいのですか?」
アリアは護衛よりもスラムの女の前に立ちそう尋ねた。
「はい…。」
「貴方は働かないのですか?」
「働きたいのですが、雇ってくれるところはありません。なのでゴミを漁るか、そ、その身体を売るか…でも、こんな歳のいった醜女の私を買ってくれる人も少ないので…」
スラムの女は俯きながらそう言った。
「いいえ、貴方は美しいですよ。」
アリアはニコッと笑いそういった。
「えっ?」
スラムの女はぽかんとした顔をした。
「こんなひどい環境の中、貴方は必死にその子を育てようと身体を売り、ゴミを漁り、そして希望を捨てずに私に声をかけた。」
アリアはスラムの女が連れている男の子を優しい目で見てそういった。
「は、はい。」
「少女といえ、貴族である私に声をかけるのは怖かったでしょう。話しかけたら酷い目に遭うのを覚悟でそれでもあなたは私に声をかけてくださいました。この環境の中で子供を育てるのは本当に大変だと思います。少し回って見ましたが、孤児も多いです。おそらく子を捨てる者も少なくないでしょう。そんな中、子を捨てず、子のために身を削ってその子のその日の飯を必死に用意しようとする貴方は私は醜いとは思いませんわぁ!」
「あ、貴方は…」
「ここで私が貴方にたくさんお金を与えても良いですが、それでは無理やり盗まられて終わりでしょう。どこかご飯に連れて行きますわぁ!そこでたくさん食べればいいです。」
「あ、ありがとうございます!ありがとうございます!」
スラムの女は必死に頭を下げた。
「こんなスラムなんか必要ありません!しかし、今はまだ、貴方達を救うことは私はできません!でも、待っていてくださいまし!私が変えて見せますわ!貴方達は悪くありませんわぁ!」
アリアは面前のスラムの女だけではなく周り集まったスラムの住人達にもそういった。
「悪いのは国ですわぁ!仕事がしたいものには仕事を!治療が必要なものには治療を!助けが必要なものには力を!この国もいつか変えて見せますわぁ!」
アリアはそう宣言する。
誰もがアリアの言葉を真に受けない。国を変える力などないであろうこんな貴族の少女の言葉などに。
集まっているスラムの住人達はアリアに冷ややかな目を向けている。
ただ一人、アリアの隣のスケルトンだけは不気味に笑う。
昔から変わらないアリアの高潔さが、輝きが。その卑しい人間の人間らしからぬ行いが。
ただ面白いとカラカラ笑った。
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