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第221話 ポッシルの困惑

勇者と大王との会話をただ一人汗を搔きながら動けない者がいた。

本来であるならば、この二人の会話にも参加し勇者を取られないように妨害しなければならなかった。


勇者を取れれてしまえば大同盟にほころびが生じるそんなことわかっている。

しかし、ポッシルは目の前の大いなる存在を前に身動きが取れなかった。



「ほ、本当に大精霊…様だ。はぁ、はぁ、そんな、なんで本当に大精霊様がここに?」

ポッシルはやっと声が出せるようになり恐る恐る顔を上げてそういった。



エルフにとって大精霊とは神に等しい。


すべての精霊は上位存在である大精霊に逆らえない。


つまり、精霊術師は大精霊の前では無力なのである。


「えっと、そちらの方は大丈夫でしょうか?」

アリアは大量の汗を流しているポッシルを心配する。


「な、なぜ大精霊様は大王アリア様を守護されていらっしゃるのでしょうか?」

ポッシルは恐る恐るそう尋ねた。

アリアにではない。

アリアをまるで愛しい自分の子供のように抱いている大精霊にそう尋ねたのだ。


「ほう?お前も私の姿を視認するか。」

大地の大精霊はその姿を表した。


ルーカス達もその姿を見ることができるようになり驚きを隠せないでいる。



「大地の大精霊様…。」

ポッシルはそう言って平服する。


「もしも、この子の敵になるのならば容赦はしない。たとえそれが精霊の友であるエルフだとしても、共に生きることのできる巨人だとしても、そして、神だとしても私は最後までこの子のために抵抗しよう。」

大地の大精霊は最後にスケさんとジンをチラッとみてそう言った。


「ふふっ、ありがとうございますわぁ!」

アリアは心強そうに笑う。


「なぜそこまでしてこの子をお守りに?」


「私は、いや、我らは元はただの石塊に宿る小さな精霊。そんな力弱き我らに力を与えて頂き、我らは私となった。私の力はこの子のために、この子の願いのために、そして私の命はこの子の為に使う。それが我らの誓、私の願い。」

大地の大精霊は愛おしそうにアリアを見つめてそういった。


「その子が精霊を大精霊に昇華させたということなのですか?どうやってそんなことを?」

ポッシルは冷や汗を流しながらそう尋ねた。


「それは…力の満ちた世界樹の枝をあげたからですわぁ!!」

アリアは小さな胸を張ってそう答えた。


「世界樹の枝!?」

ポッシルは驚きを隠せない。


「そうですのぉ!私はラストダンジョンでこの大召喚コインと力の満ちた世界樹の枝を見つけましたの!私のテイムしたストーンマン達が欲しがったのであげましたの。そしたら強くなって私を助けてくれるようになってくださいましたのぉ〜!」


「まさか、そんな方法で…はっ!?」

ポッシルはなにかに気づいてジンの方を向く。

そうジンが欲しがっていた報酬について思い出したのだ。


「えっ?いやいや、違うぞ!」

ジンは慌てて頭を振るって否定する。



「白銀、それは流石に…。」

「ジンさんそんな恐ろしいことを考えていたなんて。」

ルーファとアリがそう言ってジンを見ながら後ずさる。


「今の世界樹の枝にはそんな力はない。はるか昔の力の満ち溢れていた時代の世界樹の枝だからできたことです。」

大地の大精霊はポッシルにそう言った。


「だそうだ、大丈夫だ。世界樹の枝は研究の為に使うだけだ。悪用はしないと誓おう。」

ジンはポッシルにそう言ったあと薄情なアリとルーファを睨んだ。


「…わかりました。」

ポッシルは納得は言っていないが了承した。


「エルフの民よ、お前たちもこの子に協力してくれることを祈っている。」

大地の大精霊はそう言って姿を消した。



「ふふ、それでエルフの国はどうするの?」

アリアの隣に控えているナラは笑みが溢れる口元を手で隠しながらポッシルにそう尋ねた。


「くぅ、そう、ですね。すぐには返事はできません。一度持ち帰らせていただきます。」

しかし、大精霊を従えるものに我らエルフが逆らえるのだろうか。剣や杖を向けることができるのか。

いやできるはずがない。私や守り人が歯向かおうとも、それをエルフの民は許さないだろう。できるできないの問題ではないのだ。これは信仰の問題なのだ。


「えぇ、もちろん。持ち帰ってよく相談するといい。エルフの王と、そして獣人の王とも。良い返事を待っているよ。我らはいつでも君たちを受け入れる。」

ナラは美しい笑顔でそう言った。


こいつは、この蜘蛛はわかって言っているのだろう。わかっていて私をここに連れてきたのだ。これから始まる大王国とエルフの国との交渉を圧倒的優位に進めるために。

我らエルフが折れれば獣王国はドミノ倒しにこの世界大同盟に加入するしかない。

そうすれば大魔王の派閥以外のほぼすべての主要な国はこの小さな大王にひれ伏すしかない。


完敗だろう…。

いつからだ、そうだな。巨人の国を先の取られたところだろう。そこでもう詰まれていたのだ。


私はもう一度この忌々しい黄金の美女を見る。

こちらをじっと見つめる吸い込まれそうな黄金の瞳にやわらかい笑み。そして感じる余裕の雰囲気。


まぁ、別にいいだろうとポッシルは考え直す。


いや、逆に楽しみである。この蜘蛛が構築する世界大同盟は我らが構築しようとした大同盟の遥か上を行く。なぜならば魔王たちをも取り込むというのだから。

それはエルフの国や巨人の国、獣人の国では成せないことだ。

全ての種族を平等に扱い従えるこの小さな大王だから為しうること。


二王と戦うのならば世界大同盟の方が勝率は高い。


我らにとっても悪い話ではないか…。






こうして大王国エリシュオンは勇者という正義を手に入れた。

そして、これからエルフの国、獣人の国とも圧倒的有利な交渉を進められるだろう。


全てはナラの張り巡らせた思惑通りに進んでいく。



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