第220話 大王アリアと勇者ルーカス
「ほ、本当に大王アリアって、あのアリアちゃん、なのか…。」
だが、信じられない。
なぜならば、あのアーガストやアドネスといった魔王、大魔王の主力の将軍達がこんな小さな少女を王として崇め、したがっているのだから。
「はい!ルーカス様、お久しぶりですわぁ!!以前は助けてくださりありがとうございました。」
アリアは笑顔で答えた。
「本当にあの時のアリアちゃんなのかい?」
ルーカスはまだ信じられていない。
「えぇ!正真正銘あの時の私ですわぁ!そんなに顔変わりましたかしら?」
アリアはそう言って自分の顔をペチペチ触る。
そして小声で「まぁ、成長期ですからねぇ」と呟いている。
「あっ、いや、顔が違うんじゃなくてその、アリアちゃんって、こんなすごい人達を従えられるほどそんなに強かったの??」
ルーカスはそう言ってアリアに聞いた。
「私はガーダ。勇者よ、かつては貴様とも戦場で戦ったことがあるぞ?直接相見えたことはないがな。」
ガーダが前に出てルーカスに声をかける。
「まさかガーダって、魔王ブーモルの第一将 オーク騎士団のガーダ!?」
魔王ブーモルは人間に侵攻を繰り返し行っており、ガーダという将軍は戦場では有名であった。
まさか魔王ブーモルの第一将であるガーダ将軍もアリアちゃんに従っているのか?
「我らはアリア様の強さに従っているのではない。王としての資質に従っているのだ。」
ガーダはルーカスにそう答えた。
「王としての資格…アリアちゃんは、いや、アリア様はどうしたいのですか?」
ルーカスはやっとアリアが大王だと認識し、敬称をつけるが、違和感が否めない。
「アリアちゃんでいいですわぁ!どうとは?」
アリアもルーカスに敬称をつけられるのは違和感があったのか微妙な顔をしてそう言った。
「目的みたいのはあるのですか?」
ルーカスは違和感が残りつつ一応敬語で会話を続けた。
「私は世界で一番優しい王様になりたいのです!そして、みんなを受け入れて仲良くし合える国を。どんな種族も関係ないそんな国を!」
アリアは胸を張ってそう答える。
「本当にできるのでしょうか。そんなことが。常識的に考えてそんなこと…」
ルーカスは伏せ目がちにそう答える。それは今までの勇者としての経験が、戦いの記憶がそんなことは不可能だと言っているからだ。
ずっと悩んできた。だけど、所詮僕は人間の勇者で精一杯なのだ。そう思わせるようなことがたくさんあった。
だからルーカスは思う。
そんなことは夢物語だと。
だが、目の前の自分より小さな少女は違った。
「できる、できないではないのです!私がします!作りますわぁ!!勇者である貴方がなぜそんな弱気なのですか?」
アリアは強い目を持って玉座から立ち上がる。
「えっ?」
ルーカスは戸惑う。
アリアの間髪入れない答えに。全く迷いなど見せないその覇気に。
「勇者である貴方が常識的に考えてとか!そんな伏せ目で自信なさげに、悲しそうにそんなこと言わないでくださいまし!」
「僕だって、僕だって悩んでいるんだ、今も!今までも!そりゃみんなが仲良くできればいい!それに越したことはない!でも、できないからどうすればいいか、僕は勇者としてどうすればいいのか、世界を平和にするには、戦争をなくすには!みんなが安心して暮らせるようになるにはどうすればいいのか、僕がやっていることは正しいのか、ずっとずっと!!悩んでいるんだ!!」
ルーカスはついに爆発してしまった。胸の奥にずっとしまっていた不安を悩みを、苦しみを、葛藤を。
目の前まで歩いてきた少女に向かって怒鳴りつけるように、責め立てるようにそう言った。
「ずっと悩んでいたのですか?そんなの簡単ですわぁ!悩む必要はありません!というか、なにを悩んでいるのです?あなたは勇者なのでしょう?思うがままに進めばいいのではありませんか?」
アリアは怯まず、さらに一歩進んでルーカスにそう伝える。
「…思うがままに進む。」
ルーカスは反芻する。
「私を助けてくれた時、誰かを助けようとした時、ルーカス様は悩みましたか?助けられるのに助けない理由を私は悩みはしませんわぁ!!そして、それはルーカス様も同じなはずですわぁ!」
アリアはルーカスの胸に手を伸ばしそっと手を添えてそう言った。
「はっ!?」
アリアちゃんの言葉を聞いて、アリアちゃんの手が胸な触れた途端、重くて苦しかった胸がスカッと軽くなった。
そして、目の前から風吹き、僕の目を覚ますような錯覚をする。
そうか、なんで僕は悩んでいたんだ。
助けていいのか。
僕の行いは正しいのか、どうすればいいのか、どうすれば勇者として正しいのか、僕はずっと悩んでいた。
違うんだ。
助けるのに悩む必要はない。
助けるのに理由はいらないんだ。
アリアは手をそっと胸から離し、一歩後ろに下がりルーカスの瞳を真っ直ぐに見る。
「ルーカス様は人間の為の人間の勇者なのですか?いいえ、違いますわぁ!!それならば悩むことはなかった。今もなお、あの時のオークの民達のことを悩み、葛藤してくれていたのならば、ルーカス様は人間だけではなく全てのみんなに幸せになってほしいのでしょう?皆の光になりたいんでしょう?ルーカス様という勇者を見た全ての人が立ち向かえるような、立ち上がれるような!それが勇者ルーカス様でしょう?ならば、なってくださいまし!全ての者の光となる勇者に!皆の立ち向かうための立ち上がるための力に!」
アリアはビシッとルーカスに指を刺してそう言った。
「ルーカス様!いえ、勇者様!私たちに力を貸してください!貴方の力が私たちには必要です!」
そして、アリアはルーカスに手を伸ばす。
アリアちゃんの無垢で穢れのない、そして強い光を放つその瞳に吸い込まれる錯覚を覚える。
もう目の前の少女をただの女の子だとは思えない。
僕は目の前のこの瞳を見て、この子の覇気を感じて、そして確信する。
この子は全てを引き寄せ、導く王の中の王、この世界の大王だ!
あぁ、こんなの抗えるはずがない。
僕がこの手を取るのではない。
これは僕がこの手に向かって手を伸ばすのだ。
この大王の、光の手に僕が手を伸ばすのだ。
感極まって何かが込み上げて僕の頬に涙が流れる。喜びのあまり叫び出したい衝動に駆られる。
それらをグッと胸に閉じ込める。
しかし、逆にそれがさらなる興奮を呼ぶ。
「巡り逢いたかった、こんな王に!アリアちゃんのような大王に!!貴方の力になりたい!貴方の夢を見てみたい!!」
ルーカスは泣きながらそう言ってアリアの手を強く両手で握り、力が抜けるように膝をついた。
「我らも勇者の力となりますわぁ!!力が足りないのであればその力に!心細いのであればその柱に!苦悩があるのならは共に悩み、解決しましょう!勇者 ルーカス様、大王国エリシュオンと共に世界を変えましょう!優しい世界に!私の夢である全ての人々が尊重し合える仲良くできるそんな国に!」
アリアも勇者にそう答える。
「あぁ、変えよう!いや、変えて見せよう!そして救おう!救いの手を差し伸べる人達を!大王国エリシュオンと共に!そして、大王アリアと共にに!」
勇者ルーカスは高らかにそう言った。
自然と大喝采が巻き起こる。
勇者と大王が手を取り合ったこの歴史的な瞬間に!
拍手の喧騒の中、玉座の隣に控えているナラは笑顔を深める。
これで武力も正義も世界連合は手に入れた。
ほかの人類の国々が世界連合に加入しない理由はない。
なぜならば、魔王の敵で正義の象徴である勇者が世界連合にいや、大王国エリシュオンに入ったのだ。
ここで世界連合にはいらないのであれば、それはもうルーかバーバルの味方であると暗に表明していることと同然となる。
加速度的に世界連合は大きくなる。
それだけ勇者の加入というイベントは大きな意味がある。
ナラにとってこのイベントは巧妙に広げた黄金の糸の蜘蛛の巣で他の国々を捕らえ、巻きつけた瞬間でもあった。
「あははっ!!最っ高の展開だぁ!こう言うのを激アツと言うのかな?そうだ、これこそが俺がルーカスに求めていた答えだ!いや、求めていた以上の展開!物語だ!」
そして、ナラの反対側に控えているスケルトンもまた下顎骨を鳴らして笑っていた。
とても嬉しそうに、そして楽しそうに。
ジンの中では想定していた様々な展開があった。
ルーカスが自分で答えを見つけ吹っ切れる展開。仲間達と相談して、乗り越えていく展開。
これから出会う誰かに悟らせられる展開。
そのまま人間のための人間の勇者になる展開。
他にもルーカスが悩み詰めて自ら命を断つ展開や悪の道に落ちる展開。
様々な予想をしていた。この中のどの展開になってもおかしくなかった。
しかし、物語は、運命は、2人を引き合わせアリアは勇者を導いた。
どの予想していた展開よりも面白く、感動的に、衝動的に、驚愕な展開に進んで行った。
「本当に最高だよアリア。面白いよ、楽しいよ。もっとだ、もっと見たい!この先の展開を、この先の物語を!あははっ!!!」
迷宮の奥底の玉座に座るラスボスは猟奇的な笑みを浮かべて笑う。この世界の物語を楽しんで。この先の物語を期待して。
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