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第207話 解き放たれた正義

深い深い穴の奥底。


小さな地下水が湧き出る水たまりと滲み出て落ちる地下水の音。


天井にある穴から差し込む唯一の光。


ここにあるのはそれだけだ。


あとは週に一回モンスターの死体が投げ込まれる。それが俺に与えられる唯一の栄養。



俺の名前はア・ベルゲル。


今の王のア・テスの弟。

巨人の国 アトラースの王族だ。


王位継承をかけた勢力争いで兄であるア・テスに敗れ、王座をかけた一騎打ちでも負けた。


兄のア・テスは暗殺、賄賂、女、なんでも使ってきた。従わない者は殺し、脅し、民を虐げた。


俺はそんな王にはなりたくなかった。兄のとった方法に屈したくなかった。


だから俺は俺の理想の王になるために戦った。

兄の放った暗殺者はぶちのめし、脅しには屈せず、女には見向きはしなかった。


戦士は労い、民には感謝した。

倒れている者がいれば手を差し伸べ、救いを求める者は俺は駆けつけた。

魔王達との戦いでは俺が先陣を切った。



そして俺は正義の巨人と言われるようになった。



それは兄にとっては気分の良いものではなかった。そして、国の上層部の巨人たちも。


俺が王となれば今の国の上層部達は自らの今までの行いを振り返ると排斥されると考える。そして、これからは甘い汁が吸えない。


そして、それは事実だ。

俺が王となれば俺は民を虐げるやつらは許さない。

卑怯なことは許さない。


最低なのはそう言う奴らが上層部のほとんどであること。


最悪なのは軍の最高指揮官である雷の巨人 イ・サンも戦争が大好きなクズで兄であるア・テスを支持したこと。


もちろん俺を慕ってくれたもの達も多くいたが、勢力争いで勝ち目などはなかった。


それでも俺は最低最悪なこの国を変えたかった。


勢力争いで負けた俺は徹底的に打ちのめされた。

数週間の拷問の末、民衆の前でア・テスと一騎打ちすることとなり、憔悴し切っていた俺はア・テスに惨敗し、俺の醜態を民衆に晒し俺をこの穴に幽閉した。


巨人の国では強き者が王でなければならない。


「弟よ、いつでもお前の挑戦を受けよう。いつでも挑んでくればいい!」

そう言って俺を生かず殺さずこの穴に何年も幽閉している。



「なんだ?外が騒がしいな。」

いつもなんにも音がしない外が珍しく騒がしい。


争う音が聞こえる。


そして音が止んだ。


「助けに参りました。正義の巨人 ア・ベルゲル様。今こそ巨人の王として君臨してください。」


どうやら外の世界でなにかがあったみたいだ。


だが、俺にとっては好都合。


今こそ憎きア・テスを打ち倒し俺が巨人を導く王となる!



「あぁ、やっとか。うっ、眩しいな。」

俺はロープで穴から這い出て久しぶりに地上に出た。


「お久しぶりです、ア・ベルゲル様。」


「ウ・デン将軍か。苦労をかけたな。」

俺を支援してくれていた武将の1人が自らの軍を率いて俺を助けにきてくれたようだ。


「遅くなり申し訳ありません。」

ウ・デンは跪き頭を下げる。


「さて、気になることは沢山あるが…くくっ、再戦といこうか?」

ア・ベルゲルはそう言って好戦的な笑顔を作った。




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