第186話 喧嘩
「えっ、えっ!?貴方が、いや、…貴方様がどうしてこちらに!?」
「お前こそどうしてここに!?アリっ!」
2人はお互いに互いの存在に驚いた。
「知り合いか?」
俺はアリにそう聞いた。
「っ、すまなかった他を当たる。」
ルーファの連れてきた女は急いでこの場を去ろうとする。
「お待ちくださいっ!どうしてここに!?」
アリは手を広げて引き留めた。
「帝国まで護衛してほしいそうだ。」
俺はアリにそう言った。
「詳細をお聞かせください。必ずや私が力になります。」
アリは俺の話を聞いたら真剣な顔で女を見つめてそう言った。
「私が、ねぇ。いいだろう。この依頼を受けるかどうかはリーダーに委ねよう。その代わり受けるのなら、しっかりと話してほしい。アリ、お前の過去を。教えて欲しい、お前が誰なのかを。」
俺は面白そうな話ににやりと笑ってそう言った。
「わかりました。それでクローバーのみんなが協力してくれるなら。この方が誰なのか、私の過去をお話します。よろしいですか?」
アリは神妙な顔でそう言って女に聞いた。
「お前こそいいのか?お前を捨てた私にそこまでする必要はないぞ?」
女はアリの方は見ずに罰の悪そうな顔でそう言った。
「いいえ、捨てたのではありません。救って頂いたのです。」
アリは女の目を真っ直ぐにみてそう言って笑った。
「っ、すまない。」
女は目を見開きアリに謝る。
「ここでは、話せません。皆さん、僕の宿に来てください。」
アリはそう言って俺たちを自分の泊まっている宿に案内する。
この街で1.2位を争うほどの豪華な宿。
七草の宿についた。
「お前相当いい宿に泊まってるのな。」
俺はアリに呆れまじりにそう言った。
「ギクっ!いいのではないか?我らももうA級冒険者。相応の宿に泊まる資格はある。」
ルーファは目を泳がせながらそう言ってアリを庇う。
「ちなみに僕の隣の部屋はルーファが部屋を借りてます。」
「ばっ、アリ!別に言わなくていいだろう?」
ルーファは焦ったようにアリの口を塞ぐ。
「まぁ、お前らが稼いだ金だ。どう使おうと別に構わないがな。…ちゃんと貯金はしておけよ。」
「「…うん。」」
2人はそっぽ向きながらやや間を置いて返事をした。
えっ、こいつらもしかして貯金そんなない?
だからルーファはすげー報酬に食い付いていたのか?
俺たちはアリの部屋へと向かい、みんなでテーブルを囲んだソファーに座った。
「では、まず、このお方の紹介をします。このお方はルミオン魔導大帝国 帝王アナスタシア様。またの名を魔族の王 魔王アナスタシア様です。」
「えっ、魔王様!?どういうこと!?」
ルーファは衝撃の事実に驚いた。
リーナも驚いた顔をして固まっている。
「自己紹介が遅くなって申し訳なかった。私はルミオン魔導大帝国 帝王アナスタシアである。」
アナスタシアはそう言って俺たちに再度自己紹介をした。
「魔王…。なぜアナスタシア様がクーリッヒにいるのですか?」
リーナは警戒しながらそう聞いた。
「私は飛空挺の艦隊を率い、三大王バーバルの援軍に来たのだが、ルーの軍に船を落とされてな。命からがら生き延びたというわけだ。帝国に帰るにしても私を見つければ嬉々として他の国々も含め私を殺すか捕えるだろう?だから帰るための味方が欲しかったのだ。」
「飛空挺?空飛ぶ船ということか!?」
ルーファは驚きに目を見開く。
アナスタシアは少し笑って肯定するようにルーファに頷いた。
「アナスタシア様、そういう事情だったのですね。わかりました。僕が必ずアナスタシア様をお守りし帝国までお送り致します。」
アリはそう言って胸に手を当てる。
「なるほどねぇ、で?アリとはどう言う関係なんだ?」
俺はアリとアナスタシアの関係を聞いた。
「僕はアナスタシア様の剣でした。帝国で路地裏の殺人鬼と噂された暗殺者。それが僕です。今はその役目を解いて頂き、好きに生きていました。」
「路地裏の殺人鬼!?聞いたことがあるぞ!帝国で暗躍した伝説の暗殺者!どんなに強い者でも狙われた者は必ず命を刈り取られ、誰もその姿は見たことがないと言う伝説的な存在だ。まさか本当に実在したなんて。」
ルーファは信じられないようなやつアリを見た。
「アリにそんな過去が?」
リーナも驚き、アリを見る。
「なるほどな、通りでやたら気配を消すのが上手かったり足音を聞き分けられていたわけだ。手練れの暗殺者だったとは。」
俺は納得して頷いた。
「そうだ。そして私はなにも知らないアリを使うだけ使って私に反抗する貴族や勢力を粛清し、アリを解雇した。」
アナスタシアは俯きながらそう言った。
「違います。貴方様はゴミ同然だった僕を拾い上げてくださり、最後には自由を与えてくださったのです。私は今もなお、貴方のためならば命をかけてお助け致します。」
「アリよ、感謝する。それで、チーム クローバーよ。私の依頼は受けてくれるか?」
「質問させてください。ドワーフの国を滅ぼしその国で暮らしていたドワーフ達を奴隷にしたというのは本当でしょうか?」
リーナはゴクリと唾を飲んで緊張した面持ちでアナスタシアに聞いた。
「それは…紛れもない事実だ。正確には加工技術に優れるドワーフ達を奴隷にして我が国で働いてもらっている。その他のドワーフ達は我が国の国民となった。」
「それは本当に無理やり労働をさせているのでしょうか?」
「あぁ、そうだ。いやと言えば捕らえている家族を殺すと脅して働かせている。」
アナスタシアは真っ直ぐにリーナを見て言った。
「っ!?ならば、私は反対です。ルーファも報酬が欲しいのならば国に彼女を捕らえて差し出せば多大な報奨金が、んっ!?」
リーナが話している途中でアリがリーナの後ろに突如として現れてリーナの首にナイフを引いた。
リーナの首に当たる前に俺がアリの腕を掴み阻止した。
そして、魔法による光の輪によってアリは拘束されている。アナスタシアを見るとアリ向かって手を向けている。これは魔王アナスタシアの魔法だな。
「…アリ、今本気だったな?」
俺は掴んでいる腕に更に力を入れてアリを睨め付けそう言った。
「アナスタシア様の敵になるのならば貴方達は私敵だ。」
アリの目はいつもの優しい目ではなかった。目の光は消え失せ、とても冷徹な暗殺者の目だ。
「アリ、辞めるんだ!」
アナスタシアはそう言い放ち、魔法を解く。
アリはアナスタシアにそう言われて力を抜いて後ろに下がった。
「今、アリは私を、殺そうとしたの…?」
リーナは戦慄する。たった今、目の前にいたアリがいつの間にか私の後ろに現れて殺されそうになっていたという事実に。
魔王を前にしていたのだ。油断などしていない。しかし、音もなく気配もなく私の後ろに移動して魔王アナスタシアとジンが止めていなければ私は殺されていたのだ。
そして、リーナはその事実がなにより悲しかった。
「アリ!お前、なにをしているんだ!リーナを殺そうとするなんて!答えろ!!」
ルーファはアリがリーナを殺そうとしたことを遅れて認知して怒る。
ルーファの周りにさまざまな精霊達が可視化されて飛び回る。
「これは精霊か!?あのエルフが精霊術師だと!?」
今度はアナスタシアがルーファに驚く。今までだらしないと思っていたエルフが急に雰囲気が変わり、エルフの中でも数少ない精霊術師だとわかったからだ。
「ルーファ、君もアナスタシア様を害そうとするのならば私は躊躇はしない。」
アリは鋭い目つきでルーファを見る。
「リーナに謝るんだ。お前は私の好きなアリじゃない。クローバーのアリじゃない!!」
ルーファはそういうと杖を構えた。
「2人ともそこまでだ。お前たちの本気の戦いも見てみたいが、このままでは本当に取り返しのつかないことになるぞ?アリ、俺は依頼は受ける。ルーファ、杖を下げろ。このまま取り返しのつかないところまでやりたいのか?」
「ジンさんは受けてくださるんですね。」
アリは冷たい目はそのままににっこり笑ってそう言う。
「アリ、リーナに謝るんだ。貴様はしてはいけないことをした!」
ルーファはアリに杖を向けたままそう言った。
「アナスタシア様を差し出すと言ったんだ。十分殺すに値する。」
「アリにとってリーナは仲間じゃないのか?」
ルーファは悲しそうにアリに問う。
「大切な仲間だよ。だけど、それがアナスタシア様を差し出そうとしたリーナを私が殺さない理由にはならない。」
アリはただ淡々とそう言った。
「アリ、変わってないな。すまない。私が代わりに謝ろう。アリを冷徹な暗殺者に育てたのは私だ。ほぼ洗脳まがいのこともしている。だが、アリはそれでももう殺しはしたくないとそう言って私に命を差し出してきた。本当のアリは貴方達と過ごしていたアリだ。この暗殺者としてのアリは私が作り出した私の剣だ。すべて、私が悪い。」
アナスタシアはそう言って俺たちに頭を下げる。
「アナスタシア様…」
アリはアナスタシアを見つめる。
「アリに殺しをさせていたなんて。悪王め!許せない!!炎の精霊よ、氷結の精霊よ、光の精霊よ!我が敵を貫き、敵を滅ぼ、」
ルーファは怒りに満ちて精霊の力を借りてアナスタシアに向かってそれぞれの属性の槍を放とうと詠唱を始める。
アナスタシアも自身を守るため、腰に携えている剣に手を当てる。
「もうやめろ!ルーファ、ここでやる気か?暗殺者アリと魔王アナスタシア2人を相手に?お前も頭を冷やすんだ。」
俺は間に入り、戦いを止める。
「っ!ジンだって、許せるのか!?」
ルーファは俺に訴える。
「許せるとかの問題じゃない。解決しないだろう?」
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