第181話 ナラの気持ち
「んっ、何者?」
街を歩いていたナラは後ろに立たれた強者の気配に振り向き咄嗟に距離を取る。
「よぉ、ナラ。久しぶりだな。」
そう答えたのは白銀に輝く全身鎧を着込んだ者だった。
自身に匹敵するほどの明らかな強者の気配にナラは警戒心を露わにする。
「誰?私はあなたを知らない。なぜ私の名前を?」
この者との面識はない。自身のことを知っていることにナラはさらに警戒心を強める。
「俺はこの街の英雄 冒険者ジンだ。」
「ふーん。それで私に何の用?」
「どうやらこの街に怪物が紛れ込んだようでね。おねぇさん、何か知らないか?」
「…知らないね。他を当たって貰える?」
ナラは麻痺の魔眼をいつでも放つことができるように白銀の冒険者ジンをじっと見つめる。
「いや?知っているだろう?ふふっ、いや、もしかしたら俺の勘違いかもしれない。ナラ、少し聞いてもいいか?お前はどうして甘んじて罰を受けた?どうして巣を追われた後、ベネットの後を追わなかった?」
なにが面白いのかジンは笑いながらそう問いかけてくる。
「なぜそのことを?貴方はいったい?」
人間には知られていない事実をこの者が知っていることにナラは驚愕する。
「答えてくれよ、お前のその答えこそがお前がバケモノではないことの証明だ!」
知っている。ナラはそう確信した、この者は私が蜘蛛であることを。
「…私はお友達を助けたかった。でも助けに来たのは勇者とかいう同族を殺したやつら、マリラの策略にハマった形ではあったが、マリラの言っていることも正しい。同胞からしたらベネットちゃんも勇者とかいう奴らと一緒にいたら当然同胞は仇として見るだろう。同胞を殺した一団を私は逃がそうとした。それは一族への裏切りと等しい。だから、私は罰を受けなければならなかった。そして、たとえ悪意があったとしても私はマリラを殺せなかった。侵入者を殺す、同胞の仇を取る、獲物を食べる。それは私たち蜘蛛にとっては自然なことであり、我らの正義だ。同胞を殺した一団を同胞と戦ってまで逃す私が同胞にとっては悪だろう。」
「別に勇者たちを殺してベネットだけを匿えばよかっただろう?ベネットだけならばお前も罰せられず助けられた。そうは思わなかったのか?」
「もしも私があの人間たちを殺していたら、ベネットちゃんはきっと私を許さない。私とお友達になってくれない。そう思った。…私は、きっとそれが嫌だったんだ。」
もちろん、勇者達を殺すことも考えた。だが、どう考えてもそれはベネットちゃんが悲しむだろう。私を嫌うだろう。
そう考えると私は勇者を殺せなかった。
そして、なにより勇者は私のベネットちゃんへのわからなかった気持ちに気づかせてくれた。ベネットちゃんは私にとってどんな存在なのか。それに気づかせてくれた人だ。
もう殺そうとは思えなかった。
「では、なぜ巣を追われたあと、ベネットに会いに行かなかった?友達と一緒にいたいだろう?」
「獣王国は人の国だ。ベネットちゃんの後を追ったら私はきっとベネットちゃんを困らせる。それに獣王国の場所を知らないし。」
たしかに、ベネットちゃんの後を追えばよかったかもしれない。でも、あのままベネットちゃんの後を追うのは恥ずかしい気もしたのだ。
「ふーん、でも、ベネットとは会いたいんだろ?」
「うん。」
それはもちろん会いたい。遊びたい。
「じゃあ、お前はこれからどうしたいんだ?もう蜘蛛の一族との関係は切れた。お前は自由だ。お前はこれからこの世界でなにをしたい?」
「私は…お友達と自由に遊びたい。人の街、すごく楽しかった。知らないこと、刺激的なことがたくさんあった。ベネットちゃんとたくさんいろんな街を国を回って楽しみたい。もちろん、族長とも回りたいな。」
「人とモンスターがか?」
「人とモンスターがなんて関係ない。種族なんて関係ない。誰が誰と友達になっても構わない、誰とどこ行って遊んだって構わない世界。そういう世界にしたい。それが私がこれからこの世界でしたいことなんだと思う。」
「ふふ、あははっ!!そうか、それがお前の夢か!!面白い、面白いよ!本当に!」
ジンは鎧をカシャンカシャンと揺らして笑う。
「なにがそんなに面白いの?」
今の話のなにがそんなに面白いのだろうか?ナラはよくわからず首を傾げる。
「面白いだろう?だって、人喰いのモンスターが人の友になるんだろう?胸踊る展開だ!さぁて、お前に一つ紹介しようか。」
「紹介?」
「あぁ、そこではモンスターや人、人種、分け隔てなく一つの民だ。そこの王は全てのものが平等に笑い合える国を作りたいらしい。お前の理想と近いだろ?」
「そうだね。その国はなんて言うの???」
そんな国があるなんて。まさに求めていたところではないか。
「国の名前はまだない。国ではまだないからな。だが、すでに普通の国では太刀打ちできないほどの軍事力を持っている。これからその勢力はさらに力をつけて世界に台頭してくるだろう。どうだ?興味はあるか?」
「うん、一回その王と話がしてみたい。」
話してみたい。ただ純粋にそう思った。
「話してみるといい。それで物語はさらに面白くなっていく。」
本当に楽しそうにジンはそう私に言った。
「あなたの言っていることはよくわからない。それで、貴方は何者なの?なぜ私を知っているの?私をどうする気なの?」
「いや、人の街を案内すると言った約束を思い出してな。こうして出てきたわけだが、残念ながらすでに他の冒険者に案内してもらっていたようだ。」
そう言ってジンは少し残念そうにした。
「そんな約束をした人は1人しかいない。ハシャさん?ハシャさんなの!?」
衝撃の事実にナラは口を目を見開いて驚く。
「だから言っただろう?久しぶりだなナラ。」
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