第177話 鑑賞会
「あははっ!まさか猛将フェリルがナクアに囚われていたなんて。それにフェリルがあのベネットちゃんのお兄さんなんてすごい偶然だな!アステリア、どうだ?面白かったろう?」
俺は玉座の間にたくさんのスクリーンを浮かべて今回の勇者の冒険を見ていた。
俺は玉座に座り、俺の両脇にはアステリアとザラキエルが侍っている。
「…そうですね。少し面白かったかもしれません。」
アステリアはやや間があってそう答えた。
「おぉ!今回はアステリアも楽しめたか?どこが面白かったんだ??」
「ナラの行動が興味深かったです。彼女はなぜ勇者達を逃したのでしょうか。彼女は蜘蛛です。おやつにしていた人間の代わりなどいくらでもいたでしょう。それなのに彼女は人間を逃す為に同胞の罠だとわかっていながら嵌められた。」
「恐れながら、それは友を助ける為ではないでしょうか?」
ザラキエルはそう言ってアステリアの方を向いて答える。
「友?蜘蛛が人間と友達になったというのか?」
アステリアはそう言って首を傾げた。
蜘蛛にとって人間とは食糧だ。アステリアはそれを理解している。だから不思議だったのだ。だって食べ物を逃すために命をかける者がいるか?
これから肉にされる豚を逃す為に命をかける者がいるのだろうか?かわいそうとは思うだろうが、本当に命をかけてまであのモンスターがそんなことをするのだろうか?
「そうだ、簡単に言えば飼っていた人間に情が湧いたと言ってもいい。良い言い方だと種族を超えた友情だ。ナラは友情の名の下に自らの命を賭けた。同胞以外の仲間の存在、それは蜘蛛にとって初めての感覚だろう。」
俺はそう言ってナラがアップされたスクリーンを見る。
「虫が情に流されて同族を裏切るのですか?食べ物のために命をかけるのですか?」
「彼女はただの虫ではないということだよ。そして、ナラにとってベネットはただの食べ物ではないということだよ。アステリア、お前もナクアと同じようにナラのことを弱いと思うか?」
俺はアステリアの方を向いてそう言った。
「弱いとは少し違うような気がします。」
アステリアはそう答えた。
「そうだ!罪を甘んじて受ける覚悟で、見破っていた罠にわざわざ嵌る屈辱に耐えてナラは友達を助けたんだ。それはナラが自分の思いを曲げなかったからだ。それを俺は弱いとは思わない、彼女は自分の全てを捨てて友を助けた。それはまさに英雄の姿だとは思わないか?」
俺はそう言って興奮したように言って、ダーラという同胞と戦っているナラのシーンを引き寄せる。
「英雄ですか?」
「あぁ、ナラもまたこの世界の英傑の1人ということだ。」
俺はニヤリと笑ってそう言った。
次に俺はナクアがナラを裁いているシーンが映っているスクリーンを俺たちの前に引き寄せた。
ナクアの思っているナラの弱さとは情を捨てきれず、人間を切り捨てることができなかったことだ。
対してナラは友達を見捨てず自らを顧みなかったことは弱くないと思っている。
生物としての強さと人間性とも言える強さのナクアとナラの強いの考え方の違い。
ナクアとナラでの価値観が決定的に違う。それは2人を別つほどの違いだ。
「蜘蛛としての価値観としてはナクアが間違いなく正しいだろう。だが、ベネットと深く触れ合い友情という絆を結んでしまったナラの価値観はすでに蜘蛛としての価値観ではない。無慈悲なモンスターが人のために戦い、自らを犠牲にする。こんな劇を見て興奮しないものはいないだろう?あははっ!楽しませてもらったよ!」
「しかし、蜘蛛の一族のNo.2がいなくなってしまいましたね。これは蟻の一族との戦いは厳しいものになりますね。もともと蜘蛛の一族は迷宮で蟻の一族に猛攻を仕掛けられた時に半壊以上の犠牲が出ました。これは一気に勝負が決まってしまうのではないでしょうか?」
ザラキエルが不安げにそう言う。
「いや、それは違います。だから、ナクアは巣の守りをギリギリまで減らして持てる戦力の7割以上を率いて撃って出たんです。」
アステリアはそう言ってザラキエルの方を見る。
「どういうことですか?」
ザラキエルは不思議そうな顔をしてアステリアに聞く。
「蜘蛛の一族と蟻の一族は長年争い合っていました。蜘蛛の一族は蟻の一族を滅ぼす戦力は無く、蟻の一族は蜘蛛の守りを突破できなかった。しかし、ナクアが地上に大侵攻を仕掛けたことで巣の戦力が半減。蟻はそこをついて総攻撃を仕掛けた。つまり、蟻の女王クルアは蜘蛛が万全であれば総攻撃を仕掛けても防ぎ切られていた可能性があると考えていたわけです。」
アステリアはザラキエルに蜘蛛と蟻のパワーバランスについて説明する。
「だから、ナクアは蜘蛛は地上で力を取り戻しているぞと蟻にアピールする必要があったわけだ。まぁ、そのためにナラの派閥の強い蜘蛛達をほとんど連れて行ってしまって内輪揉めでナラを失うという大損害を被ったわけではあるが、ルーを追ってきた蟻の大軍を殲滅したことでそれはクルアに十分アピールできただろう。だから、クルアも総攻撃を仕掛けるという選択肢はかなり慎重になるはずだ。」
俺もザラキエルにナクアの思惑について説明する。
全く、流石蜘蛛の族長だよ、見えない糸でクルアの選択肢を縛ったとも言える。
「さすがです、マスター。ナクアもルーに並ぶほどの策略家であるということですよ。」
アステリアはそう言って俺を称賛してザラキエルにそう言った。
「では、すぐに世界が蟻の手によって落ちる事はないのですね。」
ザラキエルはホッとする。
「さぁ、どうかな?クルアも相当な策略家だ。くくっ!あいつも地上の資源の多さに驚いているみたいだぞ?地上を手に入れる為にダンジョン内でなにやら大きく動き出したようだ。もしも、そのクルアの策が成れば地上は瞬く間に落ちるかもしれないな。」
そう、クルアもまた相当のやり手だ。ダンジョン内で大きな動きを見せている。
「まぁ、あれはクルアの手腕次第ですね。」
アステリアはそう言って頷いた。
「まぁ、それはそれで楽しみにしておくとして。巣を追われたナラは古巣に一度立ち寄るみたいだ。少し行ってくるよ。」
俺はそう言ってにやりと笑って瞼を閉じる。
「マスター、どちらへ?」
アステリアはそう言って俺に聞いた。
「そう言えば、ナラに人間の街を案内すると約束していたんだ。ナラと少し会ってくるよ。」
「また何か仕掛けをなさるのですね。わかりました。マスター行ってらっしゃいませ。」
アステリアはそう言って俺の隣から前に出てきて跪き臣下の礼をとる。
ザラキエルも続いて俺の前に出てきて跪く。
「えっ!?いや、なんも仕掛けとかはしてないけど、普通に遊びに行くだけだよ?」
「はい、この世の全ては我らの死の神の遊戯にございます。」
ザラキエルはそう言って跪いたまま両手を合わせて神に祈るようにして俺にそう言った。
「え、いや、まぁ、いいや。行ってきまーす。」
俺はなにを言っても無駄な気がして意識を白銀へと移した。
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