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第171話 恐怖の罠

「こ、ここがナクアの支配する森。」

アリルはゴクリと唾を飲み込んだ。


「あぁ、必ず獣王国の猛将 フェリルを救出するんだ!」

ルーカスはそう言って覚悟を決めて森の中には入って行った。


勇者一行は猛将フェリル救出のためにナクア達、蜘蛛が支配する森に入って行った。


「案外普通の森だな。」

しばらく森を歩いた後、ドルフがあくびをしてそう言った。


「そうだね。別に変な感じもしないし。」

アベリオがドルフに同意する。


「たしかにそうだな。森も穏やかだ。しかし、それが逆に恐ろしいと思わないか?ここは確かにナクアが支配している森なのだ。その森がなにも感じない?変な感じがしない?それこそが罠だと思わないか?油断はしてはいけない。」

マーミヤは2人の緊張が緩んできているのを見て注意する。


「…うん、思う。ルーカス今からでもドルフを頑張って猛将に仕立て上げない?」

アリルは泣きそうな顔でルーカスにそう言った。


「アリル、ドルフが猛将になれると思うか?」

ルーカスはアリルに真面目な顔でそう言った。


「まだナクアに戦いを挑む方が現実的だね。」

アベリアは少し笑いながらそう言う。


「わははっ!お前ら言い過ぎ。」

ドルフは大きく笑ったが顔が少し悲しそうだ。


少し緊張がほぐれてきたところで勇者たちの足が止まり緊張が走る。


なぜか?それは急に目の前に金髪の美女が現れたからだ。


「誰だ!?」

ルーカスは剣を抜いて尋ねる。ナクアの森に人など暮らしているはずがないからだ。


勇者パーティー全員に緊張が走り、すぐに戦闘体制になる。


「それはこっちのセリフだ。誰です?なにしにきたの?」

金髪の美女はルーカスたちをじっと見てそう言った。

森の中で出会うには不自然なくらい美しい容姿の女性。こちらをじっと見つめるその美しい黄金の瞳に勇者パーティーの誰もが引き込まれそうな錯覚に陥る。


「僕は勇者ルーカス、獣王国 猛将フェリルを助けにきた!今度はそっちも名乗ってくれないか?」


「私はナラ。今、族長からこの森を任されている。フェリル?…あぁ!ベネットちゃんのお兄さんのことか。」


「知っているのか!?」

ルーカスは驚きの表情を浮かべてそう言った。


「うん、縛って閉じ込めてる。」


「なっ!?すぐに解放してくれ!」


「…いいよ。」

ナラはすこし考え込んでからそう答えた。


「そう簡単にはいかねぇよな!なら力ずくだぁって、おっとと、えっ?いいのかよ!?」

ドルフはそう言って駆け出そうとしたが、思っていた答えと違い、転びそうになる。


「うん、暴れて大変だから連れて帰って。結構強いから縛るのも大変なの。」


「い、いいなら、フェリル殿のところに案内してくれないか?」

ルーカスは疑いの顔を向けてそう言った。


「うん、こっち。着いてきて。」

ナラはそう言って歩き始めた。



ルーカス達は疑いながらも臨戦体制のままナラについていく。


そして、旧魔王ブーモルの王都についた。


そこで勇者達が見たものは地獄だった。


廃墟を跋扈する巨大な蜘蛛たち。


様々な種族の死体と骸骨。


これから生まれてくるであろう蜘蛛のモンスターの卵。



「おいおい、ここで襲われたらひとたまりもねぇな。」

ドルフは冷や汗をかきながらそう言う。


「あ、あれは人を飼っているの…か?」

マーミヤはそう言って指差した。


マーミヤが指差した先には巨大な蜘蛛がエルフや獣人などの亜人を蜘蛛の糸で捕らえて歩いている様であった。


連れられている亜人たちの目に生気はない。ただ連れられるまま歩いている。


「くっ!なんてことを!!」

ルーカスは怒りに震える。


「変なこと考えないでね。私は族長じゃない。それに私のいうことを聞いてくれる子たちはほとんど族長が連れて行っちゃった。もしも、ここで君たちが暴れたら私は助けないし助けられないよ。」

ナラはちらっとルーカスたちを見るとそう言った。


「しかし!人があんな扱いを受けている姿を見て僕はなにもしないなんて!!」


「化け物が人を飼うはいけないの?」

ナラはルーカスにそう答えた。


「当たり前じゃないか!」

ルーカスは当たり前のことを言われてそう言い返す。

そして思う、やはり相手は化け物だ。僕らとは何かけ離れた化け物の感性を持っていると。




「人は人を飼うのに?」

ナラはそう言ってルーカスの方へ振り返ると首を傾げでそう言った。


「えっ?」

ルーカスは戸惑う。


「ん?人は人を飼っているでしょ?奴隷だったっけ?君の国にはないの?」


「…ある。」

ハムナ神聖王国にも奴隷制度はある。

というよりどこの国にもあるはずだ。


「ならば、人に飼われるのならいいの?なぜ化け物に飼われるのは許せないの?」


「ルーカス、今は耐えましょう。私たちに彼らを救う力はない。」 

アリルはそっとルーカスの背に手を当ててそう言った。


「だけど!!」

ルーカスは必死な顔でアリルを見る。


「人に飼われている者には手を差し伸べず、化け物に飼われている者には手を差し伸べる?なぜ?本質的には変わらない。たぶん、分かりやすいだけ。捕食者と非捕食者、食うものと食われるもの、それは人間同士でも変わらない。だけど、君は見えてない。だから、わかりやすい物にだけ喰らいつく。」

そう言ってナラは美しく笑う。


「くぅ…」

ルーカスはその通りだと思った。自国の奴隷はいて当たり前の存在だった。だけど、ナラの言う通り、人間が人間を奴隷にする、化け物が人間を奴隷にする。変わらないのではないか?

僕は化け物が人間を従えているのが許せなかっただけなのか?


「別に君を責めてるわけじゃない。同胞を思うのはいいことだ。むしろ、君には好感すら湧く。私が言いたいことはそうじゃない。あれは罠だよってこと。」

ナラはそう言って人間を連れた蜘蛛を指差す。


「わ、な?」

ルーカスはイマイチわかっていないように答える。


「うん、君たちどこかで見たことあると思ったけど、思い出した。私たちがダンジョンにいたときに同胞を殺して回っていた冒険者だね?」


「っ!?」

ルーカス達はバレたと言わんばかりに警戒する。


「いやいや、私は別に君たちをどうこうするつもりはないよ。私は同胞が殺されたとしてもそれは自然の営みの一つだと捉えている。別に恨んだりとかはしていない。ただ、他の同胞達はどう思っているかは知らない。そして、他の同胞達は君たちの侵入に気づいた見たい。だから、あぁやって君たちを誘って私から切り離そうとしている。誰だろう?ダーラはこんなやり方はしないだろうし。こんな罠使うなんて…だとすると狙いは…あぁ、そういうことか。」

ナラはそう言って考え込んだ。


「なぜそんな回りくどいことを?」

マーミヤはナラに聞いた。

だって、そうだろう。ここは相手の懐の中だ。もしも、相手側の立場だとしたら侵入してきた敵など囲んで終わりだ。


「私が君たちを連れてきたから。」


「どういうことだ?」

マーミヤは首を傾げる。

そして、すぐに理解する。この目の前の美女は蜘蛛の中でも相当な上位者であるのだ。

同胞の仇が侵入してきてもなお、無視して我らを攻撃できないほど味方に恐れられている者だということだ。

その推測にマーミヤは警戒を強める。


「君たちは私がここに招き入れたつまりは、今の君たちは私の客だ。同胞は私の客人に容易には手は出せない。でも、君たちが同胞を攻撃したら?私が現行犯で同胞を攻撃した君たちを守るのはおかしい。つまり、君たちが同胞を攻撃したら君たちは私の客人ではなく私たちの敵になる。わかったかな?君たちのいる場所は蜘蛛の巣の上なんだよ。蜘蛛の罠は糸だけではない。あぁやって巧みに餌で釣ろうとするもの、地に潜むもの様々だ。私だって狩りには糸よりも信頼する物を使う。」


「ゴクリ、蜘蛛の罠。ちなみに、ナラはどうやって狩りをするんだ?」

ルーカスはゴクリと唾を飲んでナラに聞いた。


「私は眼だ。」

ナラはそう言ってルーカスを見て、美しい黄金の瞳を光らせる。


勇者パーティーは戦慄する。

ナラが現れた時、ナラはじっとこちらを見つめていたからだ。

もしも、本当に眼で狩りをするというのならば、すでに勇者パーティーはナラの罠の中にあり、狩られる寸前だったのではないか。



もしもナラが勇者パーティーを殺す気でいたのならば、出会った瞬間勝敗は決して居たのかもしれない。


もしも、ナラが勇者たちをここまで先導してなかったら何度蜘蛛の罠にかかり死んでいたのだろうか?


ここは魔王ナクアの支配する蜘蛛の罠が張り巡らされた蜘蛛の森。


勇者たちは白銀の言葉を思い出す。


「正直行くのはお勧めしない。ナクアの森に入るということはバケモノの口に入っていくようなものだ。入ったら生きては出てこれない、蜘蛛の罠は死の罠だ。逃れることは難しいだろう。」


皆が想像していた罠は蜘蛛の巣であった。


しかし、実際に仕掛けられていた罠はもっと複雑で狡猾で巧みに死に誘う。


恐怖の罠であった。


蜘蛛の糸を使うだけが狩りの仕方ではないようですね。


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