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第160話 夢を叶えた者

私はこれから魔王アナスタシア様の命令で帝国のある有力な貴族の家の当主を殺す。


その貴族は魔王アナスタシア様の意向に反対し続けているらしい。

私はそんな貴族をアナスタシア様の命令で暗殺を度々行っている。


闇に紛れ音を殺して私はその貴族の自室へと歩み寄る。


ん?何か水晶のような魔道具をもち誰かと話しているようだ。


「あの女帝はドワーフの国を力を持って滅ぼす気だぞ!?ドワーフとは友好的に接するべきだ、滅ぼして奴隷にするなどあってはならない!共に技術を高め合う、そう言う仲であるべきだ!我らは決して多種族を侵略して奴隷にする蛮族であってはならない!!」


「なっ!?お前、なぜ急に賛同できないなどと言うのだ?なに?裏路地の殺人鬼?そんなもの迷信だ!!私のように家の守りを固めれば暗殺者も入っては来れない!あの女帝にも我ら貴族が一丸となって反対すれば容易には動けない。」


「それでも賛同できないだと?なんだと?私の下に裏路地の暗殺者が送られた?馬鹿馬鹿しい、我とて高位魔族の貴族だ。タダではやられぬ!!やれるものならばやってみるがいいのだ!!ぐぅふ!?」

魔道具をもって話していた貴族の魔族の胸から鋭いナイフの刃先が生える。


魔道具からひぃ!という声が聞こえ、貴族の手から通信の魔道具は落ちて砕けてしまい通信が切れた。


「お前が…裏路地の殺人鬼、か?」


「あぁ、そうだ。」


「なぜだ、なぜ我ら戦争反対派の貴族を執拗に殺すのだ?このままではこの国はあの女帝のいいなりになってしまう。貴様のせいで戦争が起き、人がたくさん死ぬのだぞ!!」


「…。」


「うぅ、あの女帝はドワーフの国を滅ぼして全てのドワーフを奴隷にする気だ。そんなことしたら…我ら魔族は惨虐非道の種族だと思われてしまう!それは我々の世代だけではない、次の世代も孫の世代も我々は酷い種族だと野蛮な種族だと後ろ指を刺されるのだ。」

胸から大量の血を流し、その魔族の貴族は前に倒れる。


それでもなおその魔族の貴族はアリの足を力強く掴む。


「私がなんとかしなければ…あの女帝を…止めなければ、私が…未来の魔族を…守らな、け…れば。」

その魔族はそう言って涙を流し無念そうに息絶えた。


私はアナスタシア様に言われるがままに殺してきた。

その者がどういう者なのか、悪者なのか?いい人なのか?そんなこと気にせずに私は殺してきた。


この貴族はおそらくいい人だったのだろう。殺してはいけない人だったのかもしれない。真に魔族を思い、命をかけてアナスタシア様に反抗していた貴族だったのだと思う。

今まで殺してきた者の中に彼のような者も多くいたのだろう。アナスタシア様はそう言う者が邪魔だったはずだから。


人を殺すのはもう辞めたい。


殺した者の心を知ることがこんなに悲しい気持ちになるなんて。 




私の殺しが戦争の引き金になっているなんて…








「辞めたいだと?」

玉座に座っている魔王アナスタシアは目の前に跪いている部下。

帝国最高の暗殺者のアリを見下ろす。


「はい、もうこんな仕事はしたくありません。」

深く頭を下げたアリがそう言った。


「あんなに路地裏で殺し続けてたお前が?」 

アナスタシアはそう言って首を傾げる。

アリはもう路地裏にいた少女ではない。短かった髪は女性らしく長くサラサラの赤髪となっている。


「あれは生きるために必要なことでした。」


「この仕事をやめる。どう言う意味かわかっているな?」

そう言ってアナスタシアは魔力を高め威圧する。

魔王であり大魔族であるアナスタシアとではいくら暗殺者として名を上げたアリとて逃げる隙もなく殺されるだろう。


「はい、私は貴方に処断されるでしょう。なにせ殺しをやめた私の存在は貴方にとって都合が悪い。」


「なぜわざわざ私に伝えにきた?そのまま居なくなればよかっただろう?」


「私は路地裏で魔王アナスタシア様に拾われました。もし、貴方に私をあそこで拾い上げてもらえなかったら私はとうにあの路地裏でのたれ死んでいたことでしょう。誰にも気づかれず冷たい地面で腐り、ゴミとなっていたことでしょう。そのゴミにお役目を与えてくださったアナスタシア様に私は忠誠を誓っております。しかし、もう…殺すだけの人生は嫌なのです。どうか私を処断してください。それを私の責任の取り方とします。」

アリはそう言ってさらに頭を深く下げる。


「そうか。」

アナスタシアはそう言うと玉座から立ち上がり剣を抜きながらゆっくりとアリに向かっていく。


「路地裏の殺人鬼 アリよ、反逆の罪に問い貴様を死刑とする。」

アナスタシアはそう言って剣を振り下ろす。


アリも覚悟を決めてキュッと唇を締める。


サラサラ…


「えっ?これは?」 

アナスタシアの振り上げた剣はアリの首を刎ねるのではなく、長く美しく伸びたアリの赤髪を綺麗に短く切った。


「どこへとでもいけばいい、お前は今死んだ。もう路地裏の殺人鬼ではない。今のお前はあの路地裏にいた、ただの少年が青年になっただけだ。」


「ど、どういうことですか?私は…」

アリは驚いて立ち上がる。それはそうだろう。アリは今日殺される覚悟をしてここに来たのだ。


「私ではない。まるで女みたいだろう。」


「あっ、えっ!?えーっと、ぼ、僕を殺さなくていいのですか?」


「行け、お前にはよく働いて貰った。もう用済みだ。」

そう言ってアナスタシアが剣を鞘に納めた。


「大魔族にして魔族の王 魔王アナスタシア様。このご恩は一生忘れません。」

アリはそう言ってアナスタシアに再度膝を折り頭を深く下げた。


「違う、お前は全て忘れるんだ。全て忘れて自由に生きろ。それが私がお前にする最後の命令だ。」


「っ、御意!!」

アリは涙を流し消えるようにしてアナスタシアの前から離れた。





そうして僕は帝国を後にした。


帝国を遠く離れた村で狩人として少しゆっくり生活をした後、僕は冒険者となるために迷宮都市クーリッヒに向かった。

昔から興味があった、いや、見ていたのだ。あの路地裏から。


大金を稼いできた冒険者や、珍しいものを見つけて喜んでいた冒険者。美味しそうな肉を貪る冒険者。酒を飲み交わす冒険者達。

そして、信頼している仲間と楽しそうに話しながら歩いていた冒険者を。


そんな自由な振る舞いに僕は憧れていた。

身銭などなくお腹を常に減らし、人のぬくもりに飢えていた私はその冒険者達がとても煌びやかに映った。


いつか私も冒険者になって冒険して大金を手にし、美味しいものをお腹いっぱい食べて、そして、かけがいのない大切な仲間を作りたい。


それが私の、僕の夢だ。


だから、世界で一番有名な冒険者の街。この世界で最高の冒険者たちが集う迷宮都市クーリッヒに向かったのだ。



そして、Eランク冒険者昇格試験の日。



「ジンだ。今日よろしくお願いします。」


「アリです。よろしくお願いします。」


「ルーファです。今日はよろしくお願いします。」


すごく気の合いそうな人たちに出会った。


ミスリルの全身鎧を装備している白銀の二つ名をもつ冒険者ジン。


不思議な力を身に纏っているエルフの冒険者ルーファ。


「あの!このままパーティーを組みませんか?僕はまだこの街に来たばかりでパーティー組んでなくて。すごくバランスのいいパーティーだなって思ったんです!」


僕は思い切って2人をパーティーに誘った。


2人ともパーティーを組んでくれてそれから冒険が始まった。

途中からリーナも加わり、クローバーというパーティーで。

大金も稼いだ、迷宮にも潜った。竜王にも会ったし、邪教の企みも防いだ。覇王にも会ったし、迷宮の奥底の化け物みたいなモンスターにも出会った。今は冒険者の中で誰もが憧れる冒険者であるA級冒険者となり、鼻高々にルーファと自慢しながら飲み歩いている。

仕事の後は酒を飲み交わし、美味しい食べ物を食べながら楽しく談笑する。



仕事もたまにはサボってメンバーと遊びに行く。


本当に夢が叶った。


今、僕は冒険者としての人生が楽しくて仕方がないんだ!


そして、今の情けないアリに至ると。


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