45.年下からのタメ語は萌え、年上からの敬語はキュン
梢さんと二人、おじいさんへの文句を言いながら、二人で甘露の家で、依頼人である紺君の家である神社へ向かう。私にとっては、さっき来た道を戻るだけなのだけど、こうして改めて見ると、約十年の間に、建物や、外国人観光客の多さ、人々の服装など、ずいぶんと変わったことが分かる。
そんな変化の中で、神社は変わらない姿でそこにあった。私は、私にとっての昨晩とおなじように、境内にある花田一家の家のインターホンを鳴らす。
昨日と同じように、すぐに返事はないけれど、私は焦らずにじっと待つ。梢さんも何も言わず、じっと待っている。
一分ほど経ってから、ガラリと音がして、玄関の引き戸が開く。中から出てきたのは、長身で眼鏡をかけた男の人だった。記憶の中の、紺君にも彼方さんにも一致しない年齢の目の前の人を見て、私はしばし困惑して立ちすくむ。
「もしかして、薫さんですか」
「その声、もしかして、紺くん?」
「びっくりした。昔、会うたときのまんまですね。薫さん、今何歳なんですか」
「十八歳、高校三年生だよ。私の体感では、昨日紺君に会ったところなんだけど」
「なんや昔会うたときは、えらい年上に見えとったけど、実際は僕の方が年上やったんですね。僕は今、二十一歳です」
「そっか、紺君にとっては、ずいぶん前のことになるんだね。紺君が年上なんてなんだか変な気分」
話始めたら止まらなくなっていた私と紺君の間に、梢さんがスッと割り込む。
「盛り上がってる所悪いんやけど、ちょっと話させてや。うちは梢言います。うちも紺さんと同じ二十一歳や。協会の依頼で、猫見つけてつれて来ました。この子で間違いないやろか」
「初めまして、花田紺です。このたびは依頼を受けてくださってありがとうございます。探してたんは、この子で間違いないです。ありがとうございます。立ち話もなんですから、中にどうぞ」
紺君は、私たちを家に招き入れる。昨日と同じように、居間へ通されて、三人でダイニングテーブルにつく。そして、これまた昨日と同じように、お茶を出してくれた。
「おおきに。紺君はちなみにどんな縁で協会へ依頼することになったんか聞いてもええ?」
「薫さんには、昔、少し話したことがあります。梢さんもすでにご存じかと思いますが、甘露は時間を自由に行き来することができます。あるとき、未来から来た僕が、子供の頃の僕を訪ねてきたことがあったんです。そして、その後、薫さんが甘露に連れられて、未来からいらして。そういった現象に興味を持つようになって、色々と伝手をたたどって、最近になって協会の存在を知りました」
「甘露ちゃんは、今、花田家にいるの?」
ふと疑問に思って、私は紺君に尋ねる。
「実は、甘露は、今でもどこの時代に生まれた猫なのか分からないんです。いつも時代をふらふらしとって、現れたと思ったらいなくなったり、ということの繰り返しなんです」
「ほんなら、なんで紺君は甘露を探してほしいって依頼を出したりしたん?」
梢さんも紺君に尋ねる。
「会えるかと思ったからです。薫さんに」
「私に?」
「薫さん、昔、タイムスリップしてうちに甘露を連れてきてくれたでしょう。あのとき、僕は薫さんがいつの時代から来たのか聞かへんかったから、薫さんがいつの時代の人だったのか分からなくて。でも、魔法協会の存在にたどり着いたとき、これやと思ったんです。薫さんは協会から依頼を受けて猫さがしをしていたんじゃないかと思って」
「そうだったんだ」
一日一緒に過ごしただけだったのに、覚えてくれていて、また会いたいと思ってくれていたなんて、なんだか嬉しい。
「紺君、ご両親はもうすぐ戻られる?できれば挨拶していきたいんだけど」
「今日は旅行に行っていて、戻らないですけど、二人とも会いたがると思うので、後日、改めて来てくださったら嬉しいです」
私と梢さんは、依頼完了の報告をするため、おじいさんの待つマンションへ戻ることにした。




