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42.女子高生が不審者になる状況とは

 インターホンを鳴らしてから、玄関前でしばらく待ってみたけれど、返事はないし、誰も出てこない。留守なのかもしれない。もう一度、インターホンを押す。ついでに玄関をノックしてみる。

 「こんにちは。ごめんください。迷い猫を連れてきたんですけど、お宅の飼い猫でしょうか」

 声をかけた少し後に、家の中から物音がして、ガラリと玄関の引き戸が開かれる。中から出てきたのは、小学校中学年くらいの男の子だった。服装は、黒いパンツに白いシャツというシンプルかつ清潔感がただよい、およそ小学生らしくない。背の高さからして小学生ではないかと予想を付けたけれど、身長以外の外見と雰囲気は、私よりも大人びている印象をうける。


 子どもが出てくることは想定していなくて、私は一、二秒、その場に立ち尽くしてしまった。これは、良くない。これでは私が不審者じゃないか。小学生に見知らぬ女性が声をかける、それも家に押しかけるというのは、地域の防災アプリで不審者情報として出回るのに十分な内容だ。

 これまで、兄や、梢さんとしかほぼ関わってこなかった私には、年下の子、ましてや小学生と関わったことなど皆無で、どのように接したら良いのか分からない。

 梢さんが中学生で、当時小学生だった私と初めて会ったとき、してくれたように、しゃがんで、男の子と目線を合わせる。


 「こんにちは。私、雨宮薫と言います。秋葉原の駅前のラジオ会館で、この猫さんが歩いているのを見つけて、この神社から猫がいなくなったと知り合いから聞いていたので、もしかしたらこの子のことかと思って連れてきました」


 未来で迷い猫探しの依頼を魔法協会から受けている、という事は話せないから、私が言えるのはここまでだ。そもそも、未来の柳神社の依頼主がこの子を探しているわけで、今この柳神社から猫がいなくなった訳ではないので、伝わらないかもしれない。ややこしい話だ。


 「そうなんだ。おおきに。甘露、おいで。家の中、入っとき」


 男の子の言葉を受けて、甘露と呼ばれた黒猫は、ゆっくりとした足取りで家の中へと入っていく。男の子は、甘露が家の中に入ったところを見届けて、こちらに向き直る。


 「改めまして、僕、花田紺て言います。甘露のこと、連れてきてくれはって、えらいおおきに。折角ですから、お茶でも飲んでいってください」


 そう言って、私を家に招き入れる様子は、最初に受けた印象と同じように、小学生には似つかわしくない、大人っぽいを通り越して老成した佇まいだ。漫画仕立てに例えるなら、三十代の会社員が小学生に転生したとか、見た目は若いままだけれど千年以上生きたエルフとか、そんな感じだ。

 相手は小学生なので、女性が見知らぬ男性の家に上がるのは危ないというシーンではなく、保護者不在と思われる家に女子高生とはいえ見知らぬ大人が上がり込むのは、やはり不審者案件だ。


 「気にしないで。お家の人は留守にしている?甘露ちゃんのことで、聞きたいことがあったんだけど」


 そう聞いたのは、私が未来に戻るヒントをもらえたらいいなと思ったからだ。未来で、魔法協会に猫探しの依頼をしたのは、この神社の人間のはず。ということは、魔法協会とつながりがあると言うことで、もっと言えば、このタイムスリップに関して何かしらの知見を持っている人かもしれない。


 「今は僕しかいませんが、もうすぐ両親も帰ってくるので、それまで上がって待っとってください。薰さん、もしかして未来から来たんと違いますか」

 「どうして分かったの?」

 

 話は後だと言わんばかりに、紺君は家に上がるように私を促す。なぜ私が未来から来たと言い当てたんだろう。私もこの状況についてよく分からないのに。もしかして、未来での依頼主は、未来のこの子なのだろうか。


 通された部屋は、居間のようで、四人がけのダイニングテーブルに座らせてもらう。紺君は、冷蔵庫からよく冷えたオレンジジュースを取り出して、グラスに注いで私に手渡してくれる。


 落ち着いたところで、私はさっきの質問をもう一度する。

 

 「紺君、さっきの話どういうこと?なんで私が未来から来たかって聞いたの?」


 紺君は、自分のオレンジジュースを一口飲んで答える。


 「まず、甘露のことから話さんといけんと思います。僕もよう知らんのですけど、どうやらあの子はいろんな時間を言ったり来たりできるみたいです。そのとき、近くにいた人も一緒にタイムスリップしてしまうようです。よう知らんていうのは、僕も人から教えてもろただけやからです」


 「そうなんだ。私は甘露ちゃんに連れられてこの時代に来たってことなんだね」


 「おそらくはそういうことだと思います。でも安心してください。きちんと帰り方も教えてもろてあるんで。ただ、もう遅いので、良かったら、今日のところは家に泊まって言ってください」


 「さすがにご両親の許可なしに、泊めて貰うわけにはいかないよ」


 「もちろん。もうすぐ、父と母が帰ってきますので、僕が事情を説明しますんで、安心してください」


 「ありがとう。ご両親が帰られたら、私からお願いするね。正直、今日どうやって一晩過ごすか悩んでたんだよね。未成年だし、この時代で、私の生年月日の書かれた身分証明書を見せるわけにもいかないから、どこに泊まれば良いか悩んでいて」


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