表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
9/11

評価シート

「有紗、それ何?」


昼休み。


私は反射的にノートを閉じた。


だが遅かった。


美咲は私の肩越しにしっかり見ていた。


「見た?」


「見た」


終わった。


人生終了である。


「違うの」


「何が?」


「これは」


「うん」


私は観念した。


「評価シート」


「何の?」


「夫候補の」


美咲が机に突っ伏した。


「やっぱり婚活してる」


違う。


いや違わない。


でも違う。


「本格的に付き合いたいとかじゃなくてね?」


「うん」


「将来を見据えて」


「高校一年生が?」


「高校一年生だから」


まりあさんも言っていた。若い時間は一瞬だと。


その言葉が妙に頭に残っているのだ。


「見せて」


「嫌」


「見せて」


「嫌」


「パン一口あげる。幻のメロンパンだよ」


ノートを差し出した。


美咲は、読み始めるや否や吹き出した。


「何これ」


「何が」


「項目が」


私は胸を張った。


かなり真面目に作ったのである。


――将来性


――金銭感覚


――家族との関係


――休日の過ごし方


――店員さんへの態度


――話していて疲れないか


――食べ物の好き嫌い


「採用面接?」


「結婚だよ?」


「そうだった」


美咲はしばらく笑っていた。失礼である。


「でもさぁ……」


ページをめくる。


「サッカー部の佐藤くん、評価低くない?」


「休日全部サッカー」


「ダメなの?」


「家族サービスは?」


「何歳設定なの」


確かに高校一年生に家族サービスを求めるのは酷かもしれない。


将来にかけてずっと休日サッカーとは限らない。


しかし大人になったら休日は家族と過ごすようになるだろう、と勝手に推測するのは楽観が過ぎる。


「じゃあ学年一位の高橋くんは?」


「教育熱心なお母さんの気配がする」


「だから何その勘」


美咲が涙を拭っている。


「榊原先輩が一番点数高いじゃん」


私は固まった。


「そう?」


「そう」


ノートを奪い返す。


確認する。


本当だった。


榊原先輩だけ妙に評価が高い。


そんなつもりはなかった。


「いやでも」


私は慌てて弁解する。


「別に好きとかじゃないから」


「誰も聞いてないけど」


「好きじゃないから」


「二回言った」


美咲の目がにやにやしている。


私は話題を変えることにした。


「そういえば美咲は?」


「何が?」


「将来結婚するとしたらどんな人がいいの?」


すると美咲は少し考えた。


「優しい人」


終わりだった。


短い。


「それだけ?」


「それだけ」


「年収は?」


「別に」


「学歴は?」


「別に」


「顔は?」


「普通でいい」


理解できなかった。


そんなふわふわした条件で人生を決めるのか。


危険ではないだろうか。


「有紗さ」


美咲が言った。


「失敗しない相手探してる?」


私は黙った。


だって怖いではないか。


世の中には離婚もある。浮気もある。お金の問題もある。


だったら最初から見極めた方がいい。


そう思う。


美咲はパンをかじりながら言った。


「好きになる時ってそういうのじゃない気がする」


「経験者みたいなこと言うね」


「彼氏いるし」


いた。


そうだった。


完全に忘れていた。


裏切り者である。


「まあ有紗もそのうち分かるんじゃない?」


そのうち。


またその言葉だ。


その気になればいつだって。


そのうち恋愛する。


まりあさんもそう思っていた。


でも。


そのうちは来なかった。だから行動したのだ。


私は少しだけノートを見つめた。


評価シート。夫候補一覧。


将来性。


価値観。


相性。


全部大事だと思う。本当に。


思うのだけれど。


ふと、書道教室の帰り道を思い出した。


沈黙。夕方の風。改札前の「じゃあね」




「有紗?」


「ん?」


「聞いてる?」


「聞いてる」


全然聞いていなかった。


私はノートを閉じ、心の中で決めた。


次の書道教室では、もう少しだけ榊原先輩と話してみよう。


あくまで評価のために。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ