まりあさんに報告してみた
「婚活を始めました」
休日、晴人お兄ちゃん夫婦の家で紅茶を一口飲んでからそう告げた。
まりあさんは固まり、晴人お兄ちゃんは紅茶を吹きそうになっていた。
「有紗ちゃん、今なんて?」と聞くまりあさんに「婚活を始めました」と再度宣言する。
まりあさんが両手で顔を覆った。
「早い」
「でも高校から始まってるって」
「言った!」
「言いましたよね?」
「言ったけど!」
まりあさんが頭を抱える。
「違うの、有紗ちゃん。私が言いたかったのは、婚活の『準備』が始まっている、みたいな意味で」
「将来の夫候補を今探すって意味ではなく?」
「なく!」
……私は大きな思い違いをしていたらしい。
「ちなみに誰かいるの?」
晴人お兄ちゃんが興味津々で聞いてきた。
「候補はいます」
「いるんだ」
「4人ほど」
「「4人も!?」」
私は説明した。
サッカー部エース、学年一の秀才、吹奏楽部の牧場主(予定)。
そして書道教室の榊原先輩。
夫婦が顔を見合わせる。
「有紗ちゃん」
まりあさんが言った。
「それ婚活というより企業研究では?」
「企業研究? 全員ヒトですよ。法人じゃなくて」
「将来性とか福利厚生とか見てるでしょう」
言われてみればそうかもしれない。
「好きな人はいないの?」
「いません」
即答だった。だって本当にいない。
するとまりあさんが少し笑った。
「それでいいと思う」
「え?」
「私はね」
まりあさんは紅茶を見つめながら言った。
「若い頃、恋愛って特別な感情が突然降ってくるものだと思ってたの」
「違うんですか?」
「人によるかな」
晴人お兄ちゃんを見る。
「私は気付かなかった」
「僕も気付かなかった」
「え?」
二人とも?
「同窓会の後もしばらく友達だったし」
「普通にご飯食べてたし」
「付き合う直前まで恋愛してる自覚なかったよね」
「なかった」
そんなことある?
「だから」
まりあさんが微笑む。
「好きな人を無理に探さなくてもいいと思う。でも、条件だけで選ぼうと思ってもきっと後から辛くなると思うんだ。私の経験則だけどね。やっぱり幸せな結婚に至る相手って、最初からじゃなくても後からじわじわと愛情がわいてくるものよ」
「なるほど……でも、さっき挙げた人たちのこと、私別に嫌いじゃないですよ。そんな条件のみで打算的に選んだってわけでは。婚活しようと思った時にぱっと出てきたってことは深層心理的にちょっと好意があるのかもしれませんし」
我ながら言い訳がましいな、と思ったが、完全な噓でもなかった。
口をついて出た言葉だったが、深層心理的に彼らのことを好ましく思っている、というのは納得感があるような気もする。
「そういえば、榊原くんってもしかして背高い?」
晴人お兄ちゃんが言った。
「うん」
「黒髪?」
「そりゃそうだよ、高校生だよ?」
「書道上手?」
「そりゃそうだよ、書道教室に通ってるんだよ?」
晴人お兄ちゃんが少し考え込む。
「どうしたの」
「いや」
首を振った。
「なんでもない」




