この中に未来の夫がいたりして
翌週の月曜日。
私は教室で一人、腕を組んでいた。
窓際の席、朝のホームルーム前。
クラスメイトたちはいつもどおり騒いでいる。
しかし私には見えていた。彼らの真の姿が!
――婚活市場。
「有紗、何見てるの?」
友人の美咲が不審そうに尋ねる。
「男子」
「気持ち悪っ」
ひどい。
だが否定はできない。
私は今、男子を観察していた。
恋愛対象としてではない。
将来の結婚相手候補として。
まりあさんは言っていた。
『婚活はもう、高校から始まっていると言っても過言ではないの!』
最初は極論だと思った。
しかし、二人は実際高校時代に出会っていた。
つまり、もしかしたら今この教室に、未来の結婚相手がいる可能性はないだろうか。
「青田買いか……」
「何?」
「将来有望株を見抜く能力が必要なんだよ」
美咲が机に突っ伏した。
「有紗が変になった」
失礼な。
まず最初の候補。
サッカー部エース。
顔が良い、背も高い、女子人気も高い。
しかし却下。競争率が高すぎるしあんな陽キャが私に合うわけない。
休日に友達の友達の友達まで呼んでBBQとかしてそう。無理。
相手だって願い下げであろう。
次に目についたのは、学年一の秀才。
真面目で将来安泰そう。
「却下」
「何? 何が却下なの?」
「山田くんだよ、お母さんが教育熱心そうじゃない? 孫の教育資金出すから何としても鉄縁に入れなさいとか言われそう」
美咲が笑い始めた。
「知らないじゃん! 想像上の姑で無理判定されるの不憫すぎる」
「何となくそんな気がするんだよねぇ」
三人目。
あの人は確か吹奏楽部だったな。
柔和な雰囲気で、声を荒げたところも見たことがない。それに動物好き。
「良いじゃん」
「でも」
私は少し考えた。
「前に作文で『将来は北海道にある祖父母の牧場を継ぎたい』とか書いてなかった……?」
「ああ、そういえば」
「札幌ならまだしも、牧場ってことは多分違うよね。気軽に大丈夫! どこへでも行けます! とは言えない……」
「そこ大事なの?」
「大事でしょ」
昼休み。
私は購買へ向かう途中で足を止めた。
「あ」
廊下の向こう。
男子が数人で話している。
その中に見覚えのある顔があった。
同じ書道教室に通っている男子。
名前は確か。
榊原悠真。
一つ上。
高校二年生。
別に仲が良いわけではない。
ただ、書道教室では会えば挨拶する程度だ。
向こうも私に気付いたらしい。
軽く会釈してくる。
私も反射的に会釈を返した。
「今の誰?」
美咲が聞く。
「同じ書道教室の人」
「ふーん」
私は少し考えた。
榊原先輩は不思議な人だ。
派手ではない。
目立たない。
でも書道教室では先生の荷物を運んだり、年配の生徒にも自然に話しかけたりしている。
そういうのを見ていると、なんというか感じが良い。
「どうしたの?」
「いや」
私は首を振った。
別に何でもない。
ただ、卒業アルバムの中にいた高校生のまりあさんを思い出していた。
地味だった。目立たなかった。
その印象が、榊原先輩と重なった。
「有紗?」
「……婚活って難しいね」
「今日の有紗は男子にうつつを抜かしてばかりだわ、不純ねぇ」
風紀に厳しい女性教師の物真似だと気づいて笑った。
その日の夜。
ベッドの中でスマホを見ながら考える。
サッカー部エース。
学年一の秀才。
吹奏楽部の牧場主(予定)。
榊原先輩。
別に好きではない。
全然好きではない。
ただ。
もしこのうちの誰かと結婚するとしたら、どんな家庭になるんだろう。
そんなことを考えるのは、少しだけ面白かった。




