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19/20

そのうち、は来ない

春が近付いている。


榊原先輩の受験も終わった。


先輩はもうすぐ三年生に、私は二年生になる。


---


書道教室で「合格おめでとうございます」と私が言うと、先輩は少し照れたように笑った。


「ありがとう」


県外の教育学部だった。


県外。


私はその言葉を頭の中で繰り返した。


「良かったですね」


私は笑った。


ちゃんと、自然に。


先輩も笑う。


胸の奥が少し痛かった。


---


帰り道。


いつもの道。


いつもの景色。


でも、同じ景色は来年ない。


今隣にいる先輩は、もういなくなるのだ。


「大学楽しみですか?」


「不安の方が大きいかも」


「先輩でも?」


「友達できるかなとか」


「できますよ」


即答した。お世辞ではない。


先輩が少し笑う。


「なんでそんなに自信あるの」


だって優しいから。


そう言いかけて飲み込んだ。


「大丈夫そうだからです」


我ながらひどい説明だった。


先輩は笑っていた。


---


改札が近付く。別れる時間だ。


「じゃあ」


先輩が言う。


「また来週」


その言葉に、私はほんの少しだけ安心した。


来年の今頃は、この言葉はなくなるけれど。


まだ、今じゃないから。


---


その週末、私は晴人お兄ちゃんたちの家にいた。


「告白しようかな」


言ってから、自分で驚いた。


まりあさんが紅茶を吹きそうになる。


晴人お兄ちゃんは本当に吹いた。汚い。


「まだするとは言ってません。しようかなってだけ」


まりあさんが額を押さえた。


「有紗ちゃん」


「はい」


「まだって、じゃあいつ?」


その質問が一番難しかった。


いつか。


そのうち。


もう何度も使ってきた言葉だ。


でも、もう私は知っている。


そのうち、は来ないことがあると。


まりあさんが教えてくれたから。


「決めてません」


私は答えた。


「でも」


言葉を探す。


「言わないまま終わるのは嫌です」


静かになった。


晴人お兄ちゃんもまりあさんも何も言わない。


ただ、少しだけ嬉しそうな顔をしていた。


「有紗ちゃん」


まりあさんが言う。


「それでいいと思う」


私は黙って聞く。


「付き合えるかはわからない。振られるかもしれない。でも、行動することが大事よ」


---


帰宅後、私は机の引き出しを開ける。


評価シート。


始まりのノートだった。


サッカー部エース、学年一位の秀才、吹奏楽部。


そして、榊原悠真。


私はページをめくる。


びっしり書かれた項目。


・一緒にいて疲れない


・積み重ねる人


・見栄を張らなくていい


・人が見ていない時に優しい


全部、好きになった理由だった。


私はペンを取る。


そして、最後に一行だけ書き足した。


・告白する


その文字を見つめる。


怖い。


でも、前に向かって進んでいる気がした。


――その気になればいつだって。


違う。


今、ちゃんと行動する。


後悔しないために。


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