そのうち、は来ない
春が近付いている。
榊原先輩の受験も終わった。
先輩はもうすぐ三年生に、私は二年生になる。
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書道教室で「合格おめでとうございます」と私が言うと、先輩は少し照れたように笑った。
「ありがとう」
県外の教育学部だった。
県外。
私はその言葉を頭の中で繰り返した。
「良かったですね」
私は笑った。
ちゃんと、自然に。
先輩も笑う。
胸の奥が少し痛かった。
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帰り道。
いつもの道。
いつもの景色。
でも、同じ景色は来年ない。
今隣にいる先輩は、もういなくなるのだ。
「大学楽しみですか?」
「不安の方が大きいかも」
「先輩でも?」
「友達できるかなとか」
「できますよ」
即答した。お世辞ではない。
先輩が少し笑う。
「なんでそんなに自信あるの」
だって優しいから。
そう言いかけて飲み込んだ。
「大丈夫そうだからです」
我ながらひどい説明だった。
先輩は笑っていた。
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改札が近付く。別れる時間だ。
「じゃあ」
先輩が言う。
「また来週」
その言葉に、私はほんの少しだけ安心した。
来年の今頃は、この言葉はなくなるけれど。
まだ、今じゃないから。
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その週末、私は晴人お兄ちゃんたちの家にいた。
「告白しようかな」
言ってから、自分で驚いた。
まりあさんが紅茶を吹きそうになる。
晴人お兄ちゃんは本当に吹いた。汚い。
「まだするとは言ってません。しようかなってだけ」
まりあさんが額を押さえた。
「有紗ちゃん」
「はい」
「まだって、じゃあいつ?」
その質問が一番難しかった。
いつか。
そのうち。
もう何度も使ってきた言葉だ。
でも、もう私は知っている。
そのうち、は来ないことがあると。
まりあさんが教えてくれたから。
「決めてません」
私は答えた。
「でも」
言葉を探す。
「言わないまま終わるのは嫌です」
静かになった。
晴人お兄ちゃんもまりあさんも何も言わない。
ただ、少しだけ嬉しそうな顔をしていた。
「有紗ちゃん」
まりあさんが言う。
「それでいいと思う」
私は黙って聞く。
「付き合えるかはわからない。振られるかもしれない。でも、行動することが大事よ」
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帰宅後、私は机の引き出しを開ける。
評価シート。
始まりのノートだった。
サッカー部エース、学年一位の秀才、吹奏楽部。
そして、榊原悠真。
私はページをめくる。
びっしり書かれた項目。
・一緒にいて疲れない
・積み重ねる人
・見栄を張らなくていい
・人が見ていない時に優しい
全部、好きになった理由だった。
私はペンを取る。
そして、最後に一行だけ書き足した。
・告白する
その文字を見つめる。
怖い。
でも、前に向かって進んでいる気がした。
――その気になればいつだって。
違う。
今、ちゃんと行動する。
後悔しないために。




