後悔しないために
クリスマスが終わり、街は一気にお正月モードになる。
私は母に連れられて晴人お兄ちゃんたちの家へ来ていた。
「いらっしゃい」
まりあさんが出迎えてくれる。
結婚してもう一年近い。
最初は「晴人お兄ちゃんの奥さん」という感じだったのに、今ではもう普通に親戚のお姉さんだった。
そして、私のことを妙に鋭く観察している人でもあった。
「最近どう?」
絶対来ると思った。
晴人お兄ちゃんはキッチンでお湯を沸かしている。
母は伯母さんと電話中らしい。
つまり、逃げ場がない。
「普通、です」
「ふーん」とまりあさんが笑う。
完全に信じていない顔だった。
私は気まずさから紅茶を飲んだ。熱かった。
「好きな人できた?」
吹き出そうになる。
「なんでそうなるんですか」
まりあさんがじっと私を見る。
優しく、でも逃がさない目で。
「できたんだ」
私は観念した。
「……たぶん」
まりあさんがにこっと笑った。
「良かった」
予想外にあっさりした反応だった。
「良かった?」
まりあさんが頷く。
「恋愛ってね、好きな人ができるところまでが結構大変なの」
私は黙って聞く。
「だからまずそこを突破したのはすごいこと!」
突破。
まるで受験みたいな言い方だった。
「相手は?」
「言いません」
「同級生?」
「言いません」
「年上?」
「言いません」
「書道教室?」
「なんで分かったんですか!?」
まりあさんが額を押さえた。
「有紗ちゃん」
「はい?」
「今ので全部答え合わせ終わった」
私はソファに沈んだ。
その時、「何の話?」と晴人お兄ちゃんが紅茶を持って戻ってきた。
助かったと思ったのも束の間。
「有紗ちゃんに好きな人ができた話」
まりあさんが言った。
「えぇ!?」
非常に恥ずかしい。
「誰!?」
「言いません!」
「そうだよねぇ。僕も高校生の頃そういう話されたら絶対言わなかったと思う」
母たちはまだ戻ってこない。
珍しく、少し静かな時間が流れた。
「有紗ちゃん」
まりあさんが言う。さっきまでの茶化すような声ではなかった。
「その人のこと、本当に好き?」
私は少し考える。
改めて聞かれると考えてしまう。
でも、会えると嬉しい。
話せると嬉しい。
帰る時は少し寂しい。
一緒にいてほしいと思う。
「好きです」
初めてちゃんと言った。
まりあさんが頷く。
「そっか……婚活の話、覚えてる?」
「もちろん覚えてます」
「私ね、婚活してわかったことがあるの」
私は身を乗り出した。
「条件って大事」
頷く。
「でもね」
まりあさんは少しだけ晴人お兄ちゃんを見る。
晴人お兄ちゃんは気付かずケーキを食べている。
「最終的に結婚した理由はそこじゃなかった。この人といると、自分を嫌いにならなかったの」
言葉の意味を考える。
「背伸びしなくていいし、見栄を張らなくていいし、できないことを隠さなくていいし」
まりあさんが少し笑った。
「貧乏だったこともね。そういうコンプレックスも」
晴人お兄ちゃんは何も言わない。
ただ、当たり前みたいな顔で聞いている。
「だから好きになったの」
私は榊原先輩の顔を思い出した。
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帰り際、玄関で靴を履いている時にまりあさんが小声で言った。
「有紗ちゃん」
「はい」
「好きな人がいるなら」
私は振り返る。
「後悔だけはしないようにね」
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私は初めて、告白というものを現実的に考え始めた。




