卒業まで、あと
冬が近付いていた。
高校生になる前は、高校生活は長いと思っていた。
三年間って千日以上だ。
でも実際は瞬く間に過ぎていった。
入学式があって文化祭があって。
夏休みが終わって気付けば冬だった。
時間は思ったより速い。
そして。
好きな人がいるともっと速い。
「進路希望調査票、提出してください」
担任がプリントを配る。
もう進路の話か、と私は何となく窓の外を見る。
ふと思う。
榊原先輩も去年、この紙を書いたのだろうか。
放課後、私は珍しく図書室へ向かっていた。
静かな場所で進路希望調査票を埋めたかった。
図書室の奥に先輩がいた。
「わっ」
思わず声が出る。
「わ、びっくりした」
先輩も少し驚いていた。
机の上には問題集。かなり分厚い。
「勉強ですか」
「うん。見てのとおりだよ」
「大変そうですね」
「まあね」
先輩は笑った。
少し疲れて見えた。
「教育学部に決めたんだ。たぶんだけど」
また、たぶんだった。
「まだたぶんなんですか」
先輩が笑う。
「向いてると思う?」
先生。教育。子ども。
似合う。とても。
「向いてると思います」
「なんで?」
「先輩って、ちゃんと人を見てるから」
言ってから少し恥ずかしくなる。
何だその答え。
しかし、先輩は笑わず真面目に聞いていた。
「ちゃんと、見てる、か」
「はい」
私は頷く。
「そっか」
そう言って先輩は少し笑った。
「ありがとう」
私はしばらくその場から動けなかった。
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夕飯の席で「そういえば」と母が言った。
「晴人くんたち、年末は帰省するらしいわよ」
「へえ」
あの二人、結婚して初めての年末年始か。
「まりあさんのお家にも行くのかしら」
母が言う。
「大変よねぇ、年末年始って」
私はふと思った。
まりあさんは高校生の頃、晴人お兄ちゃんと結婚する未来なんて想像していなかった。
ましてや年末年始をお互いの家族と過ごすことなんて。
人生はわからないものだ。
私ももしかしたら、十年後には全然違う場所にいるのかもしれない。
そう思った。
私はベッドの上で寝返りを打つ。
スマホを開く。
LINEも知らない。
私たちの関係は、書道教室で会うだけの先輩後輩だ。
駅まで一緒に帰るだけだ。
それだけ。
受験で忙しくなったら、その「それだけ」ですらなくなるかもしれない。
私はスマホを置いた。




