告白
桜が咲いていた。
去年もその前も変わらず咲いていたはずなのに、今年の桜は少し違って見えた。
私は書道教室へ向かっていた。
いつもの道。いつもの駅。いつもの教室。
でも、今日は少しだけ違う。
鞄の中にはノートが入っている。
懐かしの、あのノート。
高校生の婚活なんて、今考えると意味が分からない。
まりあさんに影響されて、同級生を評価して。
結婚相手としてどうかなんて考えて。
そして、そんなことをしているうちに、気付いたら好きになっていた。
結局、恋愛に分析は役立たなかった気がする。
好きになってから理由を探すものだった。
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教室に着く。
先輩はもういた。
いつもの笑顔。
「こんにちは」
「こんにちは」
それだけで少し安心する。
墨の匂い、紙の音、先生の声。
何も変わらない、いつもの教室。
でも、今日で終わる。
今の関係は。
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授業が終わり、当たり前のように一緒に帰る。
いつもの流れだ。
駅までのいつもの道。
沈黙が続く。
私が緊張して、いつものように喋れないからだった。
そして、その沈黙が更に私を緊張させる。
人生で一番、受験よりずっと緊張している。
改札が見えてくる。
今言わなければ、また来週になってしまう。
「先輩」
声が震えた。
先輩が振り返る。
「ん?」
私は深呼吸する。
怖い。でも、言いたい。
「話したいことがあります」
先輩が少し驚く。
「うん」
春の風が吹く。
桜の花びらがふわっと何枚か舞った。
「私」
心臓が痛い。
「先輩のことが好きです」
頭が真っ白になる。
逃げ出したい。消えたい。
でも、言った。
私はちゃんと言ったぞ。
しばらく沈黙が続く。
先輩は驚いている、のだと思う。
言ってから顔を上げられない。先輩の顔を見られない。
だから驚いているのか困っているのか、どんな衝撃を先輩に与えてしまったのかわからなかった。
やがて、先輩が口を開いた。
「ありがとう」
優しい声だった。
私は顔を上げる。
「正直」
先輩が少し困ったように笑う。
「全然気付いてなかった」
なぜか私もつられて少し笑ってしまう。
「でも」
先輩は続ける。
「すごく嬉しい、です」
胸が苦しくなる。
「ただ」
私は息を飲む。
「僕、春から大学で県外に行くんだ」
知っている。
「はい」
私は頷く。
「だから」
先輩が言葉を選ぶ。
「今すぐ付き合おうって簡単には言えない」
私は静かに聞く。
不思議だった。
きっと私は今振られているんだと思う。
だけど、悲しい気持ちにはならなかった。
「でも、大学に行っても、連絡取っていいかな」
私は固まった。
「え」
「寂しいって思ってた。進学したら、この時間がなくなること」
春の風が吹く。
桜が舞う。
「嫌?」
「嫌じゃないです!」
大きな声が出た。
先輩が笑う。
私も笑う。
涙が少し出た。
なんの涙なのかわからない。
でも、すっきりした。




