遮断剣ダークパラドックス
なんなんだ、こいつは。
お師匠様からの修行として森へ出てディザスター討伐をしていた時だった。奇妙な歌が聴こえてきたのは。
『人間最高〜♪』
見てみれば謎の男がディザスター達を引き連れながら森を爆走しているではないか。怪しすぎる。
流石に見過ごせず後を追って見れば、何故か別のディザスターに襲われていた。
ひとまずそのディザスターを倒し、その男を見てみれば、やはりディザスター特有の赤い瞳をしている。
だから斬りかった。だというのに。
『自分はディザスターじゃない』
などと宣い始めた。挙句の果てにはまた「人間最高」などと歌い始める始末。
これがこいつにとっての命乞いなのか?それとも私を煽っているのだろうか。
「この世界で"赤い瞳"を持つのはディザスターのみ。
『聖剣士』の私としては、君を見逃す事は出来ない。」
そう、赤い瞳を持つ者はディザスター。そして私のように青い瞳を持つ者が『聖剣士』。その法則は絶対だ。
「聖剣士……?」
またディザスターがとぼけた声をあげた。まさか、本当に何も知らないのだろうか。
生まれたばかりのディザスター。自分が怪物であることすら理解できず、自らを人間だと思い込んでいる——そんな可能性が頭を過った。
だがそんな事は関係ない。
ディザスターはこの世界における絶対的な敵、倒さねばならない存在。そこに例外はないのだ。
「お喋りもこれまでだ。ここで討つ」
「っつ……!?」
これ以上言葉を交わす必要も無い。容赦なく斬り伏せる。
「ちょっと、待っ——!」
反撃はしてこない。ただ逃げるように、木々の間を縦横無尽に飛び回っている。
木へ飛び乗る跳躍力。至近距離の斬撃すら避ける反射神経。どれも常人離れしていた。
『聖剣』も持たずに、あの動き。
それ自体が、自分が異常な存在である証明しているようなものだというのに気付かないのだろうか。
「その剣は一体なんなんだ!」
「氷結剣アブソリュートゼロ。貴様を斬る聖剣の名だ。覚えておくといい!」
「聖剣……!!」
……何故私はわざわざ答えているんだ。
そんな義理もないはずなのに。
「くそっ……!」
何かディザスターが周囲を見渡し始め、何を思ったか地面に埋まっている石に触れた。
最早ヤケクソと言ったところだろうか、見苦しい。
そろそろ終わらせよう。そう思い私は剣を振りかぶった。
私にはまだ見せてない奥の手がある。それを今使わせてもらおう。
しかし、あのディザスターが持つ石、今何か青い光を纏っているのは気の所為か?
私が剣を振り下ろすより先に、ディザスターが石を引き抜いた。
それで何をするつもりなのか。そんな事を考えるより早く、衝撃が私の腕を襲う。
まるで、何かが剣に激突したみたいだった。重くて受け切れない。体勢を崩した私は、そのまま地面を転がった。
「何っ……」
思わず声が漏れる。視線の先、ディザスターの手の中では、青く光る石が異質に輝いていた。
……特異個体。
ディザスターの中には、稀に特殊な能力を持つ個体が存在すると聞いたことがある。私はまだ遭遇したことがなかったが——奴がそれなのか。
だとすれば。尚更、ここで仕留めなければならない。奴は先程、自分の力に戸惑っていた。
つまり、今この瞬間に覚醒したばかりなのだろう。
ならば、まだ使いこなせていない。
完全に適応される前に、能力を理解される前に。
——殺す。
私は即座に体勢を立て直し、ディザスターへ駆け出した。もう好きには動かせない。心臓を貫き、そのまま全身を凍らせる。
あと二歩。そう思った瞬間だった。私とディザスターの間に、突如“黒い壁”が現れる。
「っ!?」
反射的に減速するが、間に合わない。私はそのまま壁へ激突した。
”感触がない”。まるで“影”そのものへ触れたような感覚。
「この影は……!」
見間違えるはずがない。これは——お師匠様の能力だ。
「はい、一旦ストップ」
気怠げな声が森へ響く。振り返ると、そこに立っていたのは、先程の"影"と同じように黒いフリルドレスを纏った女性。
夜みたいに黒い衣装。肩口で揺れるミディアムボブの黒髪。そして、眠たげな青い瞳。その手元には、一振りの黒い聖剣。
刀身は光を吸い込むみたいに暗く、輪郭すら曖昧に見える。剣の周囲では、液体みたいな影がゆらゆらと揺れていた。
気怠げに立っているだけ。それなのに、森の空気そのものが彼女を恐れているようだった。
……普通なら忘れようのない異様な姿。
だが私にとっては、それこそが見慣れた姿だった。
「お師匠様……!」
そう、彼女こそが、私が世界で最も尊敬している、憧れの師匠そのものだ。
□
……いったい、何が起こっているんだ?
掴んだ石が突然青く光った。引き抜いた瞬間、聖剣士を名乗る男が吹き飛んだ。かと思えば、今度は鬼気迫る顔で突っ込んできて、さらに、俺を守るみたいに黒い壁が現れる。挙句の果てには、奥から謎の女まで出てきた。
状況の変化が激しすぎる。頭が全く追いつかない。
ただ、その女の手には黒い剣が握られていた。光を吸い込むみたいな、不気味な剣。周囲で影のような何かが揺らめいている。
もしかして、さっきの黒い壁を出したのは彼女なのだろうか。それにあの黒い物体は見覚えが……
「お師匠様、どうしてここに……!?」
聖剣士らしい男が驚いた声を上げる。
……お師匠様?どうやら二人は師弟関係らしい。
「弟子の戦いを見守るのもお師匠の役目。実は後ろでひっそり見ていたの」
女はそう言いながら、木の後ろに隠れるようなジェスチャーをした。抑揚の薄い声だ。だが、なんだか聞いていて落ち着く声だった。
近くで見るととても綺麗な人だ。年上なのは間違いないが、不思議と年齢を測らせない雰囲気がある。
「特に、さっきの大型ディザスターを処理した手前はとっても良かった。よしよししてあげる」
「……!! ありがたき幸せ!」
そう叫ぶと、さっきまで険しい顔をしていた男が嘘みたいに表情を輝かせた。
まるで主人に褒められた犬みたいな勢いで、女の元へ駆け寄る。女は慣れた手つきでその頭を撫で始めた。男はとても満足そうな顔をしている。
さっきまで殺しに来てた奴と同一人物とはとても思えない。
「しかしお師匠様、なぜ止めたのですか?あそこにいるのは明らかにディザスターですよ?」
「彼の左目をよく見てみなさい」
「左目? ……っ!!」
聖剣士の男が、目を見開く。なんだ、俺の左目がどうしたというんだ?
確認しようと、俺は彼が凍らせた地面へ視線を落とす。氷は鏡みたいに薄く光を反射していた。そこに映っていたのは——異様な自分の顔。
右目は、今まで通り赤く光っている。だが、左目だけが青く輝いていた。赤と青。二つの異なる輝きが、俺の顔に並んでいる。
「青い目は聖剣士の証……!しかし、片目はディザスター特有の赤目のまま……これは一体!?」
「正直私もよくわからない。でも少なくとも、今何も考えず斬っちゃうのは早計なんじゃないかなってお師匠的には思ったり」
黒衣の女は少し茶目っ気を出しながらも静かに語った。
喋る彼女はさっきからどこか掴み所がなく、フワフワと雲のような印象を受ける人だ。
そしてどうやら、今の俺の状態はかなり異常なものらしい。だが、そのお陰で命拾いしたというのなら助かった。
「とにかく、ここは一旦その子も連れて帰りましょう」
「……分かりましたお師匠様」
不満そうではあるものの、聖剣士の男は素直に剣を下ろした。そして黒衣の女が、今度は俺へ視線を向ける。
「キミもそれでいい?」
「分かった。同行させてもらおう」
俺としても、彼女達の“帰る場所”とやらへ連れて行ってもらえるなら助かる。
しかし、帰る場所というのはまさか——。
「じゃあ決まり」
女は気怠げにそう言うと、黒い聖剣を目の前の半球へ向けた。次の瞬間。ズブリ、と。黒い表面に穴が開く。やはりこの黒い半球は彼女が生み出したものだったのだろうか。
「着いておいで」
女はそう言い残し、そのまま半球の中へ足を踏み入れた。俺は軽く息を吐き、その後を追って黒い穴へ足を踏み入れた。
穴の向こうには、既に景色が見えている。薄暗い空間。ぼんやりと揺れる無数の灯り。どうやら中は完全な暗闇という訳ではないらしい。
そのまま境界をくぐり抜ける。背後から、ズ……、と液体が閉じるみたいな音が聞こえた。
さっきまで開いていた“穴”がゆっくり塞がっていくところだった。黒い膜が溶け合うように繋がり、数秒後には完全に元通りになる。
改めて、目の前の景色に目をやると、そこに広がっていたのは、一つの"村"だった。木造の建物が並び、人の気配もある、普通の村だ。
唯一違うのは、一切陽の光がないということ。この黒い半球のドームは、外からの光を一切受け入れていないのだ。
昼だと言うのに、そこら中には沢山の明かりがついている。ランタンや松明が暗闇の中でぼんやりと揺れれ、辛うじて町の輪郭を照らしている。
人々はその灯りの中を静かに歩いていた。 まるで夜だけが永遠に続く世界みたいだった。それらが暗闇の中でぼんやりと揺れ、辛うじて町の輪郭を照らしている。
そのまま俺は二人に連れられ、村の奥にある一軒の家へ辿り着き、俺たちは中へ入った。
「では、話をしましょう」
女はこちらに顔を向け、改めて話した。
「改めてようこそ、この"影の村"へ。見てわかる通りここには一切光を通さない。完全に世界から隔離された場所」
どこか得意げに語っている。だが、俺はさっきから"ある一点"が気になって、話がまるで入ってこなかった。
「隔離なんて言うと、まるで監獄みたいで怖く聞こえるかもね。実際、この村は私が作り出した"影の檻"に囲まれている」
そういいながら、彼女は自分の座る"台"へ手を置く。
「けどこの檻は決して村人達の自由を奪う為のものじゃない。これは外敵からみんなを守るための檻」
「その代わり、みんな毎日暗い所で暮らすことになった。けど、みんな今の平和な暮らしに満足している」
「その通り!全てはお師匠様のお陰なのです!」
先程まで静観していた男が、突然力強く叫んだ。
男というか——彼女の椅子が。
「なあ、お前は何でさっきから四つん這いでその人に座られてるんだ……!?」
地面に這いつくばり満足気な顔をする男と、それに当たり前のように座っている黒衣の女。
その異様な光景を前に困惑しているのは俺だけのようだった。
「お師匠様の椅子になれるのは身に余る光栄——喜びそのものだ!」
「……本人もこう言ってるしいいんじゃない?座り心地も悪くないし」
「有り難きお言葉!」
……もうこれ以上言及するだけ無駄なのかもしれない。
困惑している俺がおかしいのだろうか。
いや、待てよ。俺は聖剣士やディザスターと言ったこの世界の常識がやや欠損している。
もしかするとこの世界には、『男は女性に対して、その身を差し出してでも貢献すべき』みたいな文化があるのかもしれない。
あまりにも堂々としている二人を見ているとそう思えてくる。
なので、俺は黒衣の女の前に立ち、意を決して彼と同じように四つん這いになった。
「気が利かなくてすまない。良かったら足置きにでも使ってくれ」
「……いや、遠慮しておこうかな」
断られてしまった、しかも少し引かれた気がする。 どうやら間違った選択を取ってしまったようだ。
「貴様初対面の女性にその提案はどうかと思うぞ……」
何故か現在進行形で椅子になっている男からも引かれてしまった。解せない。
アンタが言う資格はないと思うのだが、『初対面の』というのがミソなのだろうか。
「そういえば、自己紹介が済んでなかった」
思い出したかのように彼女が呟く。
「私はアリス。この|遮断剣ダークパラドックスに選ばれし聖剣士」
……やはり、彼女も聖剣士だったのか。
「ほら、キミもご挨拶」
そう言って、アリスは四つん這い男の頭を軽く叩いた。
「えー、コホン。私の名はヒョウガ。氷結剣アブソリュートゼロに選ばれし聖剣士だ」
物理的にアリスの尻に敷かれながら妙に誇らしげに名乗る。
そのアブソリュートゼロとやらも、今頃は彼を選んだ事を後悔しているのではないだろうか。
「キミは?」
「俺は……正直自分のことが何も分からないんだ。名前も、自分が何者なのかも、どこから来たのかも。」
「なるほどね……」
アリスは考え込むように顎に手を当てた。
「とりあえず、名前がないのは不便じゃない?せっかくだし、何か自分で考えてみたら?」
まさか最初に名前の話になるとは思っていなかった。
自分の名前か。いきなりディザスター扱いされ、人類の敵みたいに扱われた俺としては、名乗っただけでこいつは悪人じゃなさそうだと分かる名前がいい。
「——ハピハピラブタロウ。とかどうだろうか」
「……キミは本当にそれでいいの?」
アリスが僅かに引いた顔をする。
何故だろう、かなり平和そうな名前で良いと思うのだが。
「貴様、あまりにもセンスがないな……」
ヒョウガからも厳しめな評価が飛んできた。
「じゃあヒョウガなら、もし自分に新しく名前を付けるとしたらどうするんだ?」
意外と難しい質問なのではないだろうか。
そう思ったのだが、予想外にもヒョウガは即答した。
「愚問だな。私が新たに名を得るなら、答えは決まっている」
やけに自信に満ちた表情、一体どんな名前が飛び出すのか。
「——アリス2だ」
「……勝手に襲名しないでくれる?」
本人から即座にツッコミが入る。
彼のセンスも大概なのかもしれない。
「……しょうがない、私が名付けてあげる」
アリスは少し考え込み、
「”アスター”なんていかが?」
と提案した。アスター。たしかに悪くない響きだ。
ハピハピラブタロウも気に入ってたのだが、評価が絶望的なので諦めよう。
「いい名前だ。ありがたく使わせてもらおう」
「ああああ!ズルいぞ!お師匠様から直々に名前を頂くなんて!!」
突然ヒョウガが叫ぶ。
「お師匠様!私にも!どうか私にも名前を!!」
「じゃあ、アスター2」
「そ、そんな……!!」
アリスの名は襲名する癖に、俺の名を襲名するのは不満だったのか、ガックリと膝から崩れ落ちる。
いや、よく考えたら元から床に這いつくばっていたんだった。
□
「そうだ。今更なんだが、ディザスターや聖剣士っていうのは一体何なんだ?」
「貴様、そんな事も知らないのか!この世間知らずめ!」
「こら。そんな酷い事言っちゃダメでしょ、アスター2」
「そうだぞアスター2」
二人がかりで強い言葉を使ったアスター2を非難した。
アスター2はバツの悪そうな顔をする。
「お、お願いします……私が悪かったのでヒョウガに戻してください……!」
そう言いながらアスター2、もといヒョウガは懇願する。やはりアスター2の名は気に入っていなかったようだ。
「……まあ冗談はさておき、本当に何も知らないのね」
「けど、この優しーいお師匠……じゃなかった。優しーいアリスちゃんが教えてあげる」
と、変わらず抑揚の薄い声で言った。
いつもの癖で自分の事をお師匠と呼んでしまったのか、アリスちゃんに訂正したようだ。
はっきり年齢は分からないとはいえ、自分にちゃん付けしていい年齢ではないような気がする。
が、流石にそれを直接伝えるのは無粋と言うことは俺でも理解している。
やはり、こういった配慮が出来るかどうかが、俺と野蛮なディザスターとの違いなのだろう。
「……失礼な事考えてるのバレてるからね、アスター君」
どうやら顔に出ていたらしい。聡いアリスちゃんには筒抜けだったようだ。
「じゃあ、一から説明するね。それは、遥か昔のこと、このヨロッタでは、昔は誰もが平和に暮らしていたらしいの」
アリスは、まるで昔話を読み聞かせるみたいな口調で語り始めた。
「けどある日、突然"魔女"が現れた」
「その魔女は、とにかく強かった。山を砕き、街を燃やし、人を殺し……まさに悪夢そのものだったって言われてる」
「誰も魔女には勝てなかった。みんな逃げることしか出来なかった」
淡々とした口調。なのにその内容は恐ろしいものだった。
「そんな魔女の前に、たった一人で立ちはだかった女剣士がいた。彼女は人類を守るために、命懸けで魔女と戦った」
「戦いは長く続いた。空が裂けて、大地が崩れるくらい激しかったとか」
「そして最後には、女剣士が魔女を追い詰めた」
そこでアリスは少しだけ目を細める。
「……でも、魔女は最後の最後で、自分の力を世界中へ撒き散らした。邪悪な力を、厄災として」
「それが今の“ディザスター”」
静かな声だった。だが、その言葉には妙な重みがあった。
「女剣士は慌てて厄災を止めようとした。でも、彼女も限界だった。長い戦いで身体はボロボロ。世界中へ散った厄災を追う力なんて、もう残ってなかった」
「だから彼女は、自分の力も同じように世界へ分け与えた。魔女の厄災へ対抗するための、“聖なる力”として」
アリスは、自分の黒い聖剣へそっと触れる。
「その力は“聖剣”となって、選ばれた人間の前へ現れるようになった」
「そして、聖剣に選ばれた者が“聖剣士”。ディザスターを倒すために生まれた存在」
「そうして聖剣士と災厄は、まるで二人の戦いの代替わりをするように、今も尚戦い続けている」
アリスはそこで話を止める。
「……とさ」
まるで子供へ昔話を読み聞かせるみたいに。
そんな軽い調子で、彼女は世界の成り立ちを締め括った。
「……なるほどな」
その二人の戦いは形を変えてまだ続いているという訳だ。
「ちなみに、その昔って言うのはどれくらい昔なんだ?」
「大体三〇〇年くらい?」
「三〇〇年……三〇〇年前に魔女とその女剣士が分散させた力が今もまだ残っているって言うのか?」
「そういうこと……なのかな?」
アリスは少し曖昧に答える。
「正直、この話もどこまで本当か分かんないんだよね。意外と昔の資料とか残ってないし」
「三〇〇年前程度なら、ある程度残ってそうなもんだが」
「私もそう思う」
アリスはあっさり頷いた。
「……でも、変に記録が抜けてたり、文献ごとに内容が違ったりするの。だから結局、“そう言い伝えられてる”って域を出ないのよね」
「でも、この話は事実として広まってる。だから、その女剣士も『始まりの聖剣士』として、みんなから崇められてる」
「……なるほどな」
何となく今の世界の成り立ちについては理解した。
で、俺はその話における災厄側だってヒョウガは言っているか?
「けどそのディザスターってのは、あのさっきいたような化け物みたいな奴のことなんだろ?だったら俺とは全然違うんじゃないか?」
「たしかに獣や異形の見た目をしているディザスターが大半。けど稀に人型で人語を使うディザスターも存在するわ」
「そう、それこそが"特異体質"のディザスター!奴らは大抵何かしらの特殊能力を有するのだ!」
今まで比較的大人しくしていたヒョウガが、急に身を乗り出してきた。
「ちゃんと教えたこと覚えててえらいね。よしよし」
アリスはそんなヒョウガの頭を撫でる。
やはりこの二人、色々と不思議な関係である。
「君がそれなのかは分からないけど、不思議な能力は使ってたよね」
「……この石のことか?」
俺はポケットにしまっていた、あの石を見せた。
あの時は青白く光っていた石。だが今は何の反応もなく、ただの少し細長い石ころにしか見えない。
「……ちょっと剣の柄に見えなくもないけど、まあ普通の石だね。うーん、アスター君。あの時のこと覚えてる?」
「確かあの時は……ヒョウガに殺されそうになって、無我夢中でこの石を掴んだな」
「怪しい赤目の男がいたんだ。斬りかかる決まっているだろう」
「まあまあ。うーん、けどそうね……」
そう言ってアリスは考え込む。
「じゃあちょっと、試してみよっか」
そういうとアリスは突然立ち上がり、黒い聖剣を抜いた。
「なっ!?」
「……しっかり受け止めて」
そう言いながらこちらに向かって剣を振り下ろす。慌てて石を強く握った瞬間、
「……っ!」
再び石が青白く光り、アリスの剣を受け止めた。
「やっぱり、命の危機を感じた時……あるいは、“これを武器として使う”って強く認識した時、君が握ったその石は聖剣のような力を発揮する」
そうアリスが推理する。
「……けどそれって、その石じゃないとダメなのかな?」
そう呟くと、アリスは暖炉の傍に立て掛けてあった火かき棒を適当に放って寄越した。
「今度はこれ」
「まさか、またやるのか……?」
「検証は大事」
全く悪びれる様子もなく、アリスは再び黒い聖剣を構える。
「安心して。多分死なない」
「その“多分”が怖いところなんだけどな……!?」
そんな会話をしている間にも、アリスは既にこちらへ踏み込んできていた。慌てて火かき棒を握る。そうすると、
「……っ!」
今度は火かき棒が淡く青白い光を放った。次の瞬間、アリスの黒い剣と火かき棒がぶつかり合う。
ガギンッ!! という重たい音が部屋へ響いた。
「おおー。今度はそっちでもいけた」
アリスは興味深そうに目を細める。一方で俺は、両腕へ走る痺れに顔を引き攣らせていた。
「なかなかハードな検証だったな……で、じゃあ俺は"手に持った武器を聖剣に変える能力”を持つ特異体質のディザスターだって事なのか?」
「いや……ありえない!能力だとしても、ディザスターが"聖力"を使うなど!」
「聖力?」
また知らない単語が聞こえてきた。その俺の疑問に対してアリスが答える。
「聖力って言うのは、聖剣が持つ力。さっきの逸話で言うところの、『始まりの聖剣士』が分散させた力」
「聖剣に選ばれた者がその剣を手に取ると、聖剣を介して身体中に聖力が巡り、身体能力が向上する」
なるほど、道理でヒョウガの動きが人間離れした速さだった訳だ。
「……そしてこれも重要なんだけど、その聖力にはそれぞれ特殊能力が宿っているの。例えば私の"影"だったり、ヒョウガの"氷結"だったり」
彼女らが先程から見せていた不思議な力も、その聖剣の聖力とやらから来る力だったのか。
「……そしてね、その聖力がさっきの石や火かき棒からも感じ取れたの」
「なるほどな……けどなんでそれをディザスターが使うのがありえないんだ?」
「聖力は災厄にとっての天敵だからだ」
「ディザスターが使うのは“災力”。聖力とは真逆の力だ。特に大きな災力を纏ったディザスターの身体は非常に硬く、普通の武器じゃ傷を付けるのも難しい」
「そうそう。けど、聖力を纏った聖剣なら、その災力を打ち消しながら斬れる。だからディザスターにも通用するの」
「それに、逸話を基準にするならそもそも聖力自体が"ディザスターを倒す為の力”。それをディザスターが使うのは矛盾そのものじゃない?」
なるほど、ディザスターが使う邪力と聖剣士が使う聖力は相反するものなのか。
「あと、アスター君が聖力を使う時、片目が青く光ってた。もちろんさっきもね。まるで、"半分ディザスターで半分聖剣士"みたいに」
「……結局、俺は一体何なんだ」
「それは分かんない」
アリスはあっさりと言う。
「でも、少なくとも普通の"ディザスターじゃない"ってのは確か」
結局、俺の正体については何も分からないままらしい。手掛かりもないのだから当然か。……いや、一つだけあった。
「そうだ、『災聖剣』って言葉に心当たりはないか?」
「災聖剣……?聞いた事ないかな」
「私もそれは知らんぞ」
「ディザスターを倒した時、変な声がしたんだ。"災聖剣を探せ。西に行け"って。だから、その災聖剣ってやつを探せば、何か分かるかもしれないと思ってここまで来たんだ」
「うーん」と言いながらアリスは考え込む。
「災聖剣かは分からないけど、確かタナシマさんの家に代々伝わる名刀がかるってのは聞いた事あるかも」
「……!そこはどこなんだ?行かせてくれ」
「じゃあ、ヒョウガ。連れてってあげて」
「わ、私がですか!?」
露骨に嫌そうな声を上げるヒョウガ。
「道、わかるでしょ?」
「しかし、私がこんな奴と……」
「いいからいいから。ほら、ゴー」
アリスは適当に手を振る。
「……お師匠様がそう仰るなら仕方ない。」
渋々ではあるが、ヒョウガはようやく立ち上がった。
「ほら、着いてこい。案内してやる。ありがたく思うんだな」
「今までずっと椅子になってた奴とは思えないくらい偉そうだな……」
遮断剣ダークパラドックス
——影を操る剣




