尻軽女は策を練る
部長会議で受け取った、文化祭における部活動展示についての資料を読み込む。
当日パフォーマンスを行う部以外は多目的室を区切って合同での展示になるらしい。
わが手芸部は写真部や書道部、美術部と一緒になるわけだ。
部員数や作品数に関わらずそこそこ広い多目的室を四分割で使えるのはありがたい。
展示に使用する机やパネルの数には限りがあるので早めに展示形態を考えないと。
夏休み前にまあまあ数が揃った刺繍作品の展示は確定。
あとちょっとした販売もしていいらしいから、安価なお土産について考えてみる。
「というわけで夏休み前に申請してたレジン用品がようやく揃ったので、早速触ってもらおうかな」
妙に日当たりのいい技術室のカーテンを閉め、換気扇を回し、扱う上での注意事項を書いた紙を回す。
唯花ちゃんと明人君はうちに来たときにやってるから今更かもしれないけれど。
活動費で買えたのは、ランプとレジン液、着色料と調色パレットくらいだったので、パーツやモールド、封入物なんかは各自用意かな。
今回は私がセット購入したレジン用品の中で持て余していたシリコンモールドやミール皿を持ってきている。
福袋みたいなブラインド商品は安くてお得なんだけど、どうにも使いにくい売れ残りパーツも入ってるからね。いい機会だから消費してしまおう。
唯花ちゃんに麦野さん、明人君に絵麻さんを任せ、私は別の作業に取り掛かる。
家で作って持ってきたふたつで1セットのボタンを台紙に縫い付け、OPP袋に入れていく。
生前母校のバザーでくるみボタンを提供したみたいに、今回の文化祭では手作りボタンワゴンをやろうと思い付いた。
文化祭まではそれほど時間がないけれど、全員がレジンに多少慣れたらボタン型モールドやボタン足を使って思い思いのボタンを作ってもらうつもりだ。
ボタンはかさばらないし、オリジナルならちょっとした記念になるし、売れ残っても手芸部なので自分たちで使えば問題ない。
どうせ文化祭なので利益は薄いし、今年は凝ったものを作る必要はない。
来年以降? 今年の状況を見て反応良かったら凝ったやつも作るよ。
そういえばやすりも耐水ペーパーも技術室にはあるけれど、コンパウンドはあるのだろうか?
部活動で作ったものをそこまで磨きこむ必要はないかもしれないけれど、もしあるなら今度使わせてもらおう。
作業を進めていると、麦野さんから楽しそうな声があがる。
一通りレクチャーを受けて、レジンを固めるところまでいったのだろう。
麦野さんは手先が器用だしこのままレジンにハマるかもしれない。自分の好みを反映できるし。
絵麻さんは相変わらずのマイペース。それでも明人君の手を離れているので教え方が良かったのかも。
麦野さんから離れても問題ないと判断し、自由になった唯花ちゃんがこちらに寄ってきた。
「鹿波ちゃん、このレジン液って……」
「いつものやつより安いやつよ。においや粘度が違って驚いた?」
「うん。鹿波ちゃんが使ってるやつのほうが慣れてるから」
いつものレジン液は部活で使うには高級品なので、こればかりは割り切っていくしかない。
安いといっても高校生が練習で使う量を自分で買おうと思ったらなかなか大変だしね。
来年以降予算を多くもらえたら、この辺りは再考したいな。
クラスのほうでも文化祭の出展を決める会があり、委員長が意見をまとめていた。
出し物は漫画の通り、すんなりと喫茶店に決まったけれど、役割分担で揉めた。
「芦川さんはウェイトレス」
「裏方がいいです」
顔は良くても身長高くて目つきが悪いのだから接客向きではないと思うのだけど、しつこく接客を勧められている。
多分裏で調理してるほうが楽しい。
話は平行線で、遅々として進まないので、ホームルームが終わった直後、しつこいクラス委員の梁田さんを両手で捕まえて、まだクラスメイトが多く残る教室で化けさせることにした。
集客のために美人を前に?
みんな美人になればいいじゃない。
こういう漫画の世界なので背景にいるようなクラスメイトでも顔は整っているのだ。多少地味でも化粧で化けるし、髪型でも印象は変わる。
なんならウェイトレスは全員男子の女装喫茶もイケると思う。
普段からそんなに化粧品は持ってないので、簡単にアイメイクだけ。それでも梁田さんは薄味で整った顔立ちだから化粧映えするはず。
文化祭のことを決めていた筈なのに教室で公開処刑のようにメイクされている梁田さんは混乱しているが、逃げないように無言で威圧をかけながら手早く進める。
そうこうしているうちにクラスのギャルたちが面白がってメイクボックスを貸してくれた。普段化粧してる自分たちにうるさいクラス委員が人前で化粧させられてるのが愉快だったのかもしれない。
そもそも文化祭当日に教室で使える火がカセットコンロと電気ケトルのみなのだから、人が来過ぎたら調理担当が困ると思うのよ。理想は混まず途切れず。喫茶店なのだからお客さんもゆったり過ごしたいじゃない?
気が早いけれど喫茶メニューはなにがいいかな。ワッフルとホットサンドとコーヒーくらいなら無理なくできると思うけれど。
借りたメイクボックスからチークを取り出し、梁田さんに似合う色が全く無いのでそのまましまう。
もしかしたら演劇部から舞台化粧借りたほうが選択肢が多いかもしれないな。
今日はこのまま無しでいいか。
メイクに関してはそこまで得意ではないので目がぱっちりと華やかになったところで髪型いじりに移行する。
すぐに戻せるようにそんなに変化させないけれど、こしの強い黒髪に似合いそうだとローポニーにヘアスプレーで立体感を出しながら、白い小さな花が重なるポニーフックを挿し込むと、品の良い可憐な少女が現れた。
「ウェイトレスは私じゃなくてもいいでしょ?」
鏡を差し出され戸惑いながら覗き込み、目を見開いた美少女の耳元にささやく。
教室に残って様子を見ていた女子たちに囲まれ、次は私も!なんて言われ、実感が湧いてきたのか頬を染め、梁田さんは無言でこくりと頷いた。
よし、他の子も希望者はみんな変身させてしまおう。
その日から、クラス委員の梁田さんがクラスのギャルたちとメイクの話をするくらい仲良くなったらしい。
漫画ならそのまま準ヒロインに躍り出ていたかもしれないね。
付き合いのあるなろう作家さんたちとディスコおしゃべりが楽し過ぎて5時間以上喋ってました。
またやりたいなー。




