尻軽女と三角形
「自業自得といえばそうなんだけど、順調にいったら私は卒業後にアイラと海外へ出るでしょう? どうせならアイラが他のところに行かないようにって小さい頃から会うたびに刷り込みを……」
絵麻さんによる説明を聞き、私は肩をすくめて見せる。
「その結果があれか」
原作とは打って変わって絵麻さんべったりの警戒心むき出しハーフ美少女と。
幸いクラスは隣のクラスだそうなので、こうやって教室で話す分にはいちいち割り込んできたりはしないと思うけれど。
「鹿波さんとの旅行写真も見られてるから、一番警戒されてると思う」
「私に、えーと……恋人がいるということは?」
「言ってあるけど」
恋人って口に出すのは少し気恥ずかしい。
本当に恋をしていればもっと気軽に言えるのだろうか。
「あら、聞き耳立ててた男子たちが鹿波さんの恋人発言にざわついてる。人気者ね」
「夏休みの空気に浮かされたんだと思ってるだけじゃない?」
鹿波は美人だけど今日まで同級生からモテたりはしてないもの。
身長のせいなのか、目つきの悪さのせいなのか。
「それより確認したいのは、アイラさんが手芸部に入るかどうかね」
「半々くらいかな。わざわざ誘ったりはしないよ、悪い子ではないけど面倒だし」
入部するなら拒まないけどね。
麦野さんだけ新入部員状態になるから一緒にできる人が増えたほうがいいと思うし。
ああ、でも相性悪そうだなあ。
今日は宿題の提出と避難訓練が終われば帰れるし、予定もないので久し振りに学校近くの店で端切れを探しに行こうかしら。
そろそろ家にある端切れも少なくなってきたし、秋っぽい小物も作りたいよね。
唯花ちゃんも誘おうかと考えていると、話したことのないクラスメイトの男子が私の机までやってきた。
「芦川さんって、今日これから暇?」
暇と言えば暇だけど、初めての会話にしては不躾な雰囲気で聞かれたので、柔らかい対応をする気持ちが削がれている。
「帰りに買い物をして、帰ったら作業をするつもりだけど」
「あ、そうなんだ。いつなら暇?」
「いくらクラスメイトでも用件を明かさず私のスケジュールを把握しようとするのは好きじゃないな」
ハッキリ言うと気持ち悪い。
「いや予定が空いていたら遊びに誘いたくて」
ああやだやだ。
顔に下心がありますと書いてあるのに、目的をぼやかしながら誘ってくるとか。
とはいえ相手は同級生。半年前まで中学生だった男性にスマートさを求めるのは酷だろう。
「それにまだ異性と遊ぶことについて恋人とすり合わせをしていないの。だからごめんなさい須藤君」
確か恋人がいる状態で異性と遊びに行くときは浮気になるボーダーが人によって違うから気を付けないといけないのよね。
気にせずに遊びまくって愛想を尽かされてもいいのだけど、別れた後に悪感情が残っていると唯花ちゃんと遊べなくなりそうだし。
肩を落として去っていくクラスメイトを見送りながら早急にすり合わせが必要だなあと思う。
「というわけで、これから文化祭の企画などを立てて、クラスの団結のためとかそういう名目で誘われることが増えると思うので、浮気のラインについて確認したいのだけど」
すっかりたまり場と化した我が家で唯花ちゃんと明人君に主旨を述べる。
「でも鹿波ちゃんには恋人がいるって広まったから、誘われても下心とは限らないんじゃない?」
「他人の持ち物は良く見えるとか、誰かの物になった高嶺の花なら自分でも届くかもしれないとか、お手頃になったとか、そういう考え方をする失礼な人間はいるんだよ。特に鹿波さんは唯花に比べて威圧感があったし」
そんなにお高くとまっていた意識はないけれど、概ね同意だ。
あとは夏休み明けたばかりで、休み前の距離感を忘れているのかもしれない。
「それで、どこから浮気になるの?」
「私は鹿波ちゃんがアキト君以外の男子とふたりで出かけてたらやだな。アキト君が私や鹿波ちゃん以外とふたりきりなのもいや」
「学校行事で買い出しとかは仕方ないと思うけれど、誰とどこに行っているかの把握はしたい。あと須藤にはどういうつもりか聞いて釘刺しておく」
「唯花ちゃんは明人君から離れないだろうし、明人君は……もう既に私と浮気してるようなものだけど、私よりは浮気の心配がないと思ってる」
「俺の本命は鹿波さんで浮気じゃないから」
それは早く本命を唯花ちゃんに乗り換えて欲しいな。
どうにも今の恋人がいるという状態に困惑が強い。
振舞い方に迷いが出るし、優先順位もわからない。
結局のところ私には恋愛を下敷きにした真面目な男女交際が合ってないのだろう。
今感じているこの不自由さが唯花ちゃんから私への優しい復讐だというならば、それだけの裏切りをした自覚はあるし甘んじて受け入れるしかないのだけれど。
だけど少し近くなったふたりとの距離感が不快というわけでもない。
心情を隠さなくなった明人君が私の上で愛の言葉をささやくとき、琴線に触れることはないけれど、家族に大切にされているようなそんな気分になる。
唯花ちゃんとは添い寝するくらいしかしてないけれど、布団の中で同じ人相手の夜の話をするのも新鮮だ。
不自由だけど不思議とバランスがとれていて、妙に落ち着く。
いつかこの関係が終わるとしても、今故意に壊すのはダメかもしれないから、浮気はなるべくしないようにしよう。
明日Twitterで絡みのあるなろう作家陣とディスコで初めておしゃべりする予定なので楽しみです。
でも「自作を音読する・される」みたいな地獄の企画が立ち上がりつつあり戦々恐々。
みんな若者なのでそういう部分でも戦々恐々。




